アドビは、小売店や飲食店などまちのお店の広報活動を支援するワークショップ「まちの広作室」を、2022年から全国で展開している。過去には東京・下北沢や早稲田をはじめ、福島県大熊町、鹿児島、高松、長崎、大阪、山形、宮崎、広島などの各地で開催され、地元の魅力発信をサポートしてきた。
今回「まちの広作室 in ながの」が開催されたのは、長野県・善光寺 大勧進 紫雲閣。これまで飲食店や小売店など「まちのお店」の関係者を対象に開催されてきたこのワークショップが、今回迎えたのはなんとお坊さんたちで、テーマは「お寺の『見える化』」。長野県をはじめ、新潟県や山梨県から宗派を超えて、若手僧侶やその家族、寺院の事務スタッフなど計21名の仏教関係者が参加した。
この日、彼らが手にしていたのは数珠ではなく、PCやタブレット、スマートフォン。直感的な操作でチラシやポスター、SNS用の画像や動画などが作成できる、アドビのデザインツール「Adobe Express」を活用し、SNS投稿などお寺の広報活動に役立つデザインスキルを学んだ。
情報発信に悩むお寺の課題を解決する場として開催
本ワークショップを企画したのは、フリーアナウンサーであり長野県千曲市の本覚寺で僧侶を務める海野(うんの)紀恵さん。親交のあった新潟県小千谷市の極楽寺住職で消しゴムはんこ作家でもある麻田弘潤さんに声をかけ、麻田さんが自身の作品を素材として提供。2人が中心となって若手僧侶ら仏教関係者に呼びかけ、参加者を募ったという。
海野さんは開会の挨拶で、「お寺の業界では仏教に関する研修会はあっても、情報発信や経営など実務的なスキルを学ぶ機会が少ない」と開催の背景を説明。SNSを運用するお寺は増えているものの、「何を発信するのか、お寺の何を核にして、どんなお寺にしたいのかというコンセプトを発信できていない」と指摘した。お寺は葬儀など「人の死」に際して必要とされることが多く、そうした場面以外で現役世代にどうアプローチするかが大きな課題になっているという。@DIMEの取材に対しても「小売店や飲食店など他の業界では、歴史や地域性をちゃんと打ち出せているのに、お寺は自らのどこを切り取ってどう伝えるかというコンセプト設計や情報発信が苦手」との課題感を示した。
一方の麻田さんは住職歴31年の経験を踏まえ、お寺が情報発信を苦手とする歴史的背景について語った。江戸時代の寺請(てらうけ)制度のもと、民衆は必ずいずれかのお寺の檀家にならなければならず、僧侶は強い権力を有していたそう。「何百年にわたって周りの人が頭を下げてくれたり、話を一方的に聞いてくださったりという関係が続いてきた。発信するということに関して、私たちお寺の世界は著しく欠けている」と語り、「我々には発信する言葉がなかった。宗派の垣根を越えて、それを一緒に作っていきたい」と今回の企画への思いを述べた。
コンセプト設計から「生成AI」の活用まで実践
ワークショップは2部構成で行われた。前半はデジタルハリウッドSTUDIO広島のオーナーで、デザイナー・コミュニケーターの久保田涼子さんが登壇し、デザインの基礎となる「コンセプト設計」を解説した。主観的に作る「アート」と客観的に伝える「デザイン」の違いを紹介し、「誰に、何を、どう伝え、どうなってほしいか」を言語化し、お寺を「見える化」する重要性を説明した。
「ご自身が作ったものを誰が見るか、それを見てどう感じるかという客観的な視点を必ず忘れずに」と久保田さん。コンセプトがなければデザインの判断基準が失われ、自分の好みや主観だけで選んでしまうと話し、レイアウト、フォント、色、写真、装飾という5つの要素をそれぞれ丁寧に解説。「デザインはセンスではなく、要素の組み合わせを訓練すれば誰でもよくなる」と参加者に語りかけた。
後半は、イラストレーター・キャラクターデザイナーでAdobe Community Evangelistの北沢直樹さんが講師を務め、「Adobe Express」を使ったSNS画像の作成に挑戦した。参加者はお寺の写真とテンプレートを組み合わせたり、麻田さんが提供した親しみやすい消しゴムはんこのデータで装飾を加えたりしながら、自身のコンセプトに合わせたデザインを作成。さらに、Adobe Expressに搭載されている生成AI「Adobe Firefly」を活用し、ワンクリックでの背景削除やオブジェクトの挿入、文章の短縮といった最新機能も体験した。
北沢さんはFireflyについて、「Adobe Stockや著作権がクリアなコンテンツ、作者の死後70年以上経過したパブリックドメインの素材でのみトレーニングされているため、安心して商用利用できる」と説明。参加者が次々とAIの実力を体験するたびに、会場からは驚きの声が上がっていた。
なお、当日はデジタルハリウッドの卒業生もサポートスタッフとして参加。Adobe Expressの操作補助や会場での技術的なフォローにあたり、参加者の学びを後押ししていた。
それぞれの「お寺の魅力」をデジタルツールで可視化
ワークショップの終盤では、参加者が作成した作品の発表会が行われた。わずかな時間にもかかわらず、参加者たちは多種多様なアプローチで自院の魅力を表現した。例えば、生成AIを使って可愛らしい猫や仏様のキャラクターを作成し、お寺の厳格なイメージをあえて崩した親しみやすいデザインや、自院で開催されるイベントの写真を大きく使い、手書き風の文字でインパクトを与えた作品が発表された。
また、詩的なキャッチコピーを写真に添えて訪問者の想像力を掻き立てるものや、久保田さんのアドバイスに従って写真から色を抽出し、全体を紫系のトーンでスタイリッシュに統一したもの、さらには生成AIの文章要約機能を活用して「子どもの居場所づくり」の取り組みをすっきりとまとめた作品なども見られた。互いの作品を見せ合う中で、「うちのお寺にも似たような名物があるから、もっと押し出してみよう」といった気づきや、アイデアの共有も生まれたようだ。
発表を見守った久保田さんは「盛りすぎないバランス感覚が素晴らしい」と称賛。北沢さんも、初めて触れるツールとは思えない完成度の作品に目を見張っていた。
日常から身近な存在になるための情報発信に取り組む
ワークショップ終了後、参加した長野県中野市の命徳寺の僧侶は、@DIMEの取材に応じ「これまで文字だけの告知がメインだったが、視覚的な情報の必要性を感じていた。Adobe Expressは簡単で、自分たちでもチラシやポスターを作れそう」との手応えを語った。
また長野県松本市の極楽寺から参加した僧侶は、「葬儀などの場でしか接点がないことが多く、日常から身近な存在になりたいという課題があった」と明かし、「アートとデザインの違いを学び、皆さんがどう受け止めるかという客観的な視点を持つことができた。今後の発信に生かしたい」と感想を話していた。
宗派を超えた参加者同士の交流も大きな収穫だったようで、「他の宗派の人や他県の人と一緒に何かをする機会が持てた。こういう企画がまたあればぜひ参加したい」との声も聞かれた。デザインを武器に、今後SNSなどを通じてそれぞれの「お寺の魅力」をどう発信していくのか。参加者たちのこれからの発信が楽しみだ。
文/太田百合子
24時間働けます!アドビが仕掛けるAI時代の「24時間広報室」の衝撃
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