「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」や「ジェーン・スー 生活は踊る」など、数々の名番組を生み出してきたラジオプロデューサーの橋本吉史さん。このたび上梓した、初めての著書のタイトルは『ラジオ最強説』。その名に嘘はなく、TBSで20年間キャリアを積んできた橋本さんだからこそ感じる、誰も語らなかったラジオの本当のすごさが詰まった一冊となっている。そこで、現在発売中のDIME8月号では載せきれなかったラジオへの想いをウェブでも特別に掲載!
元TBSラジオ・プロデューサー
橋本吉史さん
はしもとよしふみ/1979年生まれ。富山県出身。ラジオプロデューサー。2004年、TBSに入社。主な番組に『ジェーン・スー生活は踊る』『アフター6ジャンクション』など。24年よりフリーランスとして活躍。
『ラジオ最強説』
著/橋本吉史 イースト・プレス 1980円
斜陽と言われつづけながらも100年続き、今なお新しい文化が生まれ続けるラジオ界。番組ヒットメーカーである著者が語る、ラジオの強さの秘密とは。戦友でもある宇多丸、ジェーン・スーとの特別対談も収録。
必ずやラジオには大きな広がりが生まれるという確信がありました
──今作は橋本さんにとって初めての著書となります。本を書こうと思われたきっかけは何だったのでしょう?
橋本:実は僕発信ではなく、編集者さんから声を掛けていただいたんです。自分なりのラジオ論はしっかり持っている理論家だったとは思いますが、まさか自分の本が出せるとは!と舞い上がり即答で「やりたいです」と。
──ということは、以前から構想もお持ちだったんですか?
橋本:いえ、そこはまったく(笑)。ただ、自分の功績や番組の思い出だけを振り返る内容にはしたくないと最初から決めていました。それに、僕は20年間ほどTBSでラジオ制作に携わってきましたが、その期間というのはラジオ界にとって本当に激動だったんですね。アナログからデジタルになり、さらにはradikoが出来たことで、いつでも好きな時間に番組が聴けるようになりました。そして、ここに来て、今ポッドキャストがすごく流行っている。そうしたラジオの進化や変化をずっと近くで感じ、改めてラジオの魅力とは何かを考えていったら、“もしや、ラジオって最強のメディアでは!?”という結論に達したんです(笑)。であれば、自分自身の経験も含め、ラジオのすごさを本にして残しておくべきだなって思ったんですよね。
──橋本さんの中で、ラジオが劇的に変化したなと感じたのはいつ頃だったのでしょう?
橋本:やはり2005年、ポッドキャストが日本で始まった頃、つまりデジタルに移行した化がはじまった時です。それまではラジオは電波でしか聴くことはできませんでしたからね。そうしたら、ほどなくしてポッドキャストがアメリカから日本にも入ってきました。ラジオ100年の歴史のうち、80年経ってようやく訪れた大変革です。その状況に、“ラジオは間違いなく多様化して、もっと幅広く認知もされていく”と感じたんです。
また、それとほぼ同時期に、僕はRHYMESTERの宇多丸さんと一緒に「ウィークエンド・シャッフル」を立ち上げていくのですが、そこで生まれた映画評のコーナーが人気になったのも、ラジオの聴かれ方が多様化する時代にフィットしたことが大きかったと思ってます。
──実際に宇多丸さんの映画評のコーナーは、ラジオリスナーのみならず、多くのカルチャー好きに支持され、YouTubeの公式切り抜き動画でも常に高い再生数を保持しています。
橋本:映画ファンに宇多丸さんの映画評を見つけてもらえたんですよね。ラジオの電波だけだと広げにくかった部分が、ポッドキャストや違法なアップロード音声も含めて映画ファン同士で共有されるようになった。リスナーの中には当時「宇多丸のネットラジオで聴いたんだけど」と堂々と言ってる人もいましたからね(笑)。ラジオはプラットフォームを越えられる存在なんだと思いました。あとは、この本の対談の中で宇多丸さんもおっしゃっていますが、実はラジオと映画評ってすごく相性がいいんです。というのも、話す側も聴く側も、映画のシーンを頭の中で思い浮かべながら、“俺はこういう捉え方をした”と語りあえる余地が生まれるからなんです。つまり、目の前に映像も場面カットもないからこそ、自分の感想や感覚に集中できる。これって、まさにラジオならではの良さで。しかも、リスナーからの賛否の声を紹介することで、多くの人とリアルタイムで批評空間を共有できる。毎週の放送で「宇多丸さんと車座になって映画を語り合う場」ができたのはラジオだからこそ作れたと思ってますし、これこそラジオが最強な理由というか。
ラジオの世界は理想的な人間関係の縮図!?
──また、この本を読んでとても興味深かったのが、面白いトークを生み出すための戦略。特に、パーソナリティを2人体制にする際、あえて個性の異なる人たちを組ませるという考えは、素人ながらに、“それだと、逆に会話が成立しないのでは……?”と思ってしまいした。
橋本:もちろん、気心の知れた人同士、元々仲が良い人たちで番組を作るやり方は王道です。でも、それだけでは到達できない領域があります。特に今は、簡単に個人でコンテンツを発信できる時代。例えばタレントさん自身がやりたいことをファンのニーズに応えて発信するだけならSNSやYouTubeチャンネルを作ればできてしまう。だからこそ、本人たちが気づかない魅力を番組が引き出し、それを既存のファン以外のリスナーが聴いて、新しい世界が広がったりするとみんなハッピーだと思うんですよね。それがプロデュースの力であり、ラジオ番組の存在意義というか。
──たしかに人気のあるラジオ番組は、偶然耳にした時でも入りやすい感覚があり、初めて耳にするパーソナリティでも、すぐにその魅力に惹き込まれるところがあります。
橋本:そして、それが一過性のファンではなく、長く愛されるのもラジオの良いところです。今って、SNSでもそうですが、コミュニティを作ることが大事だと言われているんです。頑張ってフォロワー数を増やすよりも、いかに減らさず、長く支持してくれるフォロワーを育てていくかが重要だとされている。でも、それってラジオにとっては今さらで、その作り方を何十年も前からやっているんです。だから、「ラジオは衰退するメディア」と50年くらい言われつづけているのに、まだなくならないのはただ惰性で残っているのではなく、殺伐とした現代の人間社会にとって大切な「居場所」としての機能があるからだし、これからも時代に合わせて進化して、残り続けるはず。
──なるほど。ラジオの良さって、個としての没入感やいい意味での閉塞感だと思っていましたが、コミュニティとしても成り立っているんですね。ひとりの世界に入っていける心地よさもあるし、適度な連帯感も味わえる。これって、理想的な人間関係に近いものがある気がします。
橋本:そうなんです。しかも、リアルな関係性だと疲れちゃう時がありますが、ラジオは匿名性があるから、ゆるいつながり感があって、ずっと気持ちがラクなままでいられる。それに、ラジオはリスナーからのお便りで成り立っている要素も大きいので、みんなで番組を盛り上げているような充実感もある。番組に関わる全員がポジティブに当事者になれるという意味でも、やはりラジオは最強だなと思いますね。
──ちなみに、橋本さんがラジオ以外で“最強”だと思うものを挙げていただくと?
橋本:やっぱり「最強説」といえばプロレスですね。僕は元々学生プロレスをやっていて、今でも時々リングに上がっているんですが、つくづくプロレスはラジオっぽい存在だなと感じていて。プロレスも一時期、冬の時代みたいに言われていたことがあり、でもそこから時代にフィットさせてV字回復しました。どことなくオールドメディアな存在でありながら根強いファンと新しいファンにより活況になっていて、そこがラジオと似ている。それに、昭和、平成、令和と時代ごとに象徴的な名レスラーがいますが、サーガのように、その都度いろんなドラマを作り出し、魂や文化が受け継がれている。そこもラジオ局の長寿番組の改編の歴史に近いなと思います。完全にこじつけですが。……まあ、そういうラジオとプロレスを強引なロジックを使って語っていくあたりも「ラジオ最強説」の隠れた読みどころです(笑)。
取材・文/倉田モトキ 撮影/田中麻衣







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