デパートの階上といえば、いまはレストラン街。専門店や有名チェーンが並び、休日には多くの買い物客で賑わっている。
そんな中、かつての〝大食堂〟は、もうほとんど姿を消してしまったようにも見える。
しかし実は、東京にはいまも〝大食堂文化〟を残す百貨店が存在している。
今回は、筆者が大好きなオムライスを食べながら、そんな東京のデパート大食堂を歩いてみた。
上野松坂屋「カトレヤ」
東京のデパート大食堂の中でも、昭和のレトロ感を色濃く残しているのが、上野松坂屋の「カトレヤ」だ。

店内にはどこか懐かしい〝わさわさ感〟が漂っていて、家族連れや観光客、年配客など、さまざまな人で賑わっている。配膳ロボットも走っているのだが、不思議と近未来感はなく、昔ながらの空気に自然と溶け込んでいる。
さらに印象的なのが、大きな窓から見える上野の街並みだ。今回訪れた4つのデパート大食堂の中で、ここだけは街の風景を眺めながら食事ができる。整いすぎていない、どこか雑多な上野の景色もまた、この店のレトロ感によく似合っている。
メニューも〝大食堂らしさ〟全開だ。上野らしい「パンダまん」は、つい注文したくなる人気メニュー。さらにオムライスは単品ではなく、エビフライ付きのセットになっている。こうした〝ちょっと豪華〟な感じもまた、デパート大食堂らしい特別感を演出してくれる。

新宿伊勢丹「イセタンダイニング」
イタリアン、天ぷら、中華、スパニッシュ、寿司。新宿伊勢丹のレストラン街には、有名専門店がずらりと並ぶ。全体に漂うのは、伊勢丹らしいオシャレで洗練された空気感。その一番奥にあるのが、「イセタンダイニング」だ。
入り口には狭いながらも食品サンプルも並び、和食、洋食、中華、デザートまで幅広いメニューが揃う。テーブルも広く、家族連れ、特に子ども連れにはかなり使いやすそうだ。
今回は、平日の夕方に訪れたこともあり、この日は比較的落ち着いていたが、週末には館内の他の飲食店同様、多くの買い物客で賑わうという。
印象的だったのは、レストランエリアの奥へと続く長い通路だ。非日常感のある、その空間を抜けると、予想していたより広い空間が現れる。どこか懐かしい〝大食堂らしさ〟と、現代的な百貨店レストランの空気感が不思議と同居する大食堂だ。

新宿伊勢丹といえば、オシャレで洗練された百貨店というイメージが強い。しかしその一方で、子ども連れでも入りやすく、家族それぞれが好きなものを自由に選べる〝大食堂的空間〟をきちんと残している。そこに、伊勢丹のやさしさのようなものを感じた。
店員さんたちの接客も、百貨店らしい丁寧さを残しながら、どこか堅苦しさがない。その空気感もまた、「イセタンダイニング」の居心地の良さにつながっているのかもしれない。
日本橋三越本店「特別食堂 日本橋」
今回訪れた4つの中で、もっとも〝昭和のデパート大食堂らしさ〟を残していたのが、日本橋三越本店の「レストラン日本橋」だ。
入り口は本館の催事場の横にあり、初めて訪れる人には少し入りづらく感じるかもしれない。しかし、入り口には食品サンプルが並び、その時点ですでに〝大食堂感〟が漂っている。
中に入ると、まず空間の広さに驚かされる。テーブルとテーブルの間隔も広く取られていて、今の飲食店ではなかなか見かけないほど贅沢なつくりだ。席に座った瞬間、まるで昭和のデパートにタイムスリップしたような気分になる。
さらに印象的なのが、店の前に用意された待ち合いスペースだ。椅子が並ぶだけのシンプルな空間なのだが、順番を待つ時間まで含めて、どこか昭和の百貨店らしい空気感が残っている。
注文できるオムライスは、卵で全体を包み込む〝ドレスオムライス〟と、チキンライスにオムレツがのったオムライスの2種類。どちらも卵はトロトロで、オムライス好きにはたまらない。


印象的だったのは、客層だ。子どもや孫に支えられながら来店する上品な高齢女性の姿も多く、「幼い頃からこの場所に通ってきたのだろうな」と感じさせる光景が広がっている。
平日の昼間でも店内はかなり賑わっており、すぐには入れないほど人気が高い。実は筆者自身も、日本橋で打ち合わせを兼ねて食事をする際に時々利用している。隣の会話が気にならないため仕事の話もしやすく、それでいて“大食堂に来た高揚感”も味わえる。今の私にとって、特別な場所だ。
日本橋高島屋「日本橋高島屋特別食堂」
今回訪れた4つの中で、もっとも“優雅さ”を感じたのが、日本橋高島屋だった。
こちらにはオムライスはなく、今回はカレーを注文した。しかし運ばれてきたのは、“街の洋食店のカレー”とはまったく違う一皿だった。美しく盛り付けられたライスに、別添えのルー。どこかクラシックホテルの洋食にも近い、上品な空気が漂っている。


店内はシックな内装で統一され、まるで高級レストランのようだ。テーブルの間隔も広く、スタッフのサービスも静かで落ち着いている。必要なタイミングで自然に声をかけてくれる、その距離感も心地いい。
客層の年齢は比較的高めで、実際に訪れた際も、コース料理をゆっくり楽しむ人の姿が目立った。しかしその一方で、メニューには洋食だけでなく、和食やうなぎなども並ぶ。〝好きなものを自由に選べる〟という、大食堂文化のDNAも確かに残っていた。
入り口に食品サンプルはなく、知らなければそのまま通り過ぎてしまいそうな雰囲気もある。もはや〝デパート大食堂〟というより、〝百貨店が提供する最高のレストラン〟と呼びたくなるような空間だ。
待ち合いスペースも落ち着いた高級感があり、席につく前からどこか優雅な気分になる。「正装をして訪れたくなる」、そんな昭和の百貨店が持っていた特別感が、今も静かに残っていた。
百貨店が〝憧れ〟だった時代
高度経済成長期の頃、百貨店は多くの人にとって憧れの場所だった。
休日になると、お父さんと息子はジャケットにスラックス、お母さんと娘はワンピース姿で、普段より何倍もオシャレをして訪れた。
中でも階上にある大食堂での食事は、「デパートでのお買い物」のメインイベントだった。当時の家庭ではなかなか味わえない〝お料理〟が食べられ、その上、自分の好きなものを選べること自体もまた、デパートならではの楽しみだった。
多くの昭和世代が、「デパートの大食堂」で食べたオムライスやお子さまランチに強いノスタルジーを感じるのは、料理そのものだけでなく、〝デパートで過ごす特別な1日〟の記憶が残っているからなのかもしれない。
特にオムライスは、お子さまランチを卒業し、〝少しおとなになった気分〟で注文する特別なメニューだった。だからこそ、私にとっても今なお特別な存在なのかもしれない。
デパート大食堂、それぞれの生きる道
かつて〝家族の特別な空間〟だったデパートの大食堂。その多くは姿を消し、地方ではデパート自体がなくなってしまった街も少なくない。しかし一方で、いまも営業を続ける百貨店や大食堂も存在している。
今回歩いてみると、デパート大食堂には、それぞれはっきりとした個性があった。
昭和のレトロ感を色濃く残す店もあれば、家族連れが使いやすい〝現代型大食堂〟として親しまれている店、百貨店が提供する最高級レストランのような空間へ変化した店もある。それぞれが、街や客層に合わせながら、自分たちなりの役割を見つけていたのだ。
それでも、好きなものを自由に選び、少し特別な気分で食事をするという、デパート大食堂らしいDNAは、今もちゃんと残っている。
今度の休日は、少しだけオシャレをして、家族でデパートの大食堂へ出かけてみてはどうだろうか。
取材・文/内山郁恵
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