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BTSの新作はなぜ母国で炎上したのか?ソウル出身の識者が解き明かす「グローバル戦略の副作用」

2026.06.09

米ビルボードの主要アルバムチャート「Billboard 200」で3週連続1位。BTS(防弾少年団)の最新作『ARIRANG』は、K-POP史上初の快挙とともに’26年最大のヒットとして世界を席巻している。だが、世界のファンが熱狂するその裏で、BTS公式ファンダム「ARMY」の韓国メンバーたちは「本末転倒だ」「アイデンティティが失われている」と声を上げているという。グローバル市場を狙った戦略が、なぜ母国のコアファンの反発を招いたのか。

ソウル出身で韓国文化に詳しいスンジュン氏が、現地でしか聞けない内幕を解き明かす。

BTSはキムチ・イカゲームと並ぶ「国家代表ブランド」

BTSの世界的な大躍進を、母国はどう見ているのか。韓国での温度感を、スンジュン氏はこう読み解く。

「BTSは韓国を代表する文化ブランドとして完全に確立していて。『ドゥーユーノーキムチ? ドゥーユーノースクイッドゲーム? ドゥーユーノーBTS?』という問いかけが、外国人に韓国を紹介するときの定番フレーズとしてミーム化されているくらい韓国を表す存在です。好き嫌いを超えて、韓国自体を世界に広めてくれた存在、という認識になっています」

熱烈なファンでない韓国人も、BTSを批判されれば黙っていないという。

「もし誰かにBTSを悪く言われたら、熱烈なファンでなくても多分弁護するくらい。どうでもいいとはならない気持ちは、みんな持っているんですよ」

そんなBTSがリリースした今回の新アルバムには、韓国の伝統・文化要素が”無理やり”とも評されるほど詰め込まれた。なかでも象徴的なのが、収録曲に組み込まれた『アリラン』だ。スンジュン氏はその文化的な重みをこう説明する。

「アリランって、日本で言うと君が代みたいなものなんですよ。韓国人なら誰でも歌える、歴史の長い曲で、第2の国歌と言われるくらいの位置づけです。それが急に流れるっていうのが、やりすぎじゃないかって。国内では『くどい』という声が結構ありましたね」

アルバムリリース後、制作過程を追ったドキュメンタリーがNetflixで配信された。そこで赤裸々に映し出されたのが、BTSメンバーと経営陣の正面衝突だった。

「メンバーたちは、『アリラン』をもっと短くして、曲を際立たせるべきだって主張していて。経営陣は、韓国を象徴する曲だから、ライブで外国人もみんなで『アリラン』を合唱するアイコニックなシーンを作りたいという感じで。そこで結構対立していたんですよね。ファンはやっぱりBTSが好きなのでメンバー側の肩を持つわけで、『何言ってんだこいつら』という雰囲気になっていました」

この暴露をめぐっては、さらに踏み込んだ見方もある。スンジュン氏はマーケティング戦略の可能性をこう勘繰る。

「ドキュメンタリーが放映されなかったら、制作の意図がBTSのメンバー側で決まったと勘違いされて、BTSが叩かれていたかもしれない。おかげで経営陣が叩かれているという状況ですよね。もしかしたらノイズマーケティングの可能性もあります」

「韓国要素てんこ盛り、なのに歌詞は英語」その矛盾

さらに批判を呼んだのが、英語歌詞の多さだ。

「今までも英語の曲は多かったんですけれども、今回はほぼ全曲の歌詞が英語で。韓国語で、韓国の曲を歌うBTSが好きで世界で流行ったのに、あまりにも世界を狙いすぎて全部英語にしたら本末転倒じゃないかっていうので、また叩かれていて。韓国の要素をあれだけ詰め込みながら、なんで歌詞は全部英語なんだって。矛盾してないかって言いたくなりますよね」

さらに、日韓のファン文化の違いについても、スンジュン氏はこう分析する。

「日本の推し活が日常に推しを置く文化だとしたら、韓国の推し活は推しを勝たせる文化なんですよ。他のアイドルよりも自分の推しがすごいっていうのを、周りに知らしめるというか。例えば誕生日には、自分のお金をかけて駅の掲示板に推しの写真の巨大ポスターを出したり、ファンクラブが組織的にYouTubeの再生回数を回したりとか、そういった活動が韓国ではやっぱり強い。

お金の使い先も違ってて、日本のファンはチケットやグッズをたくさん買う。これは会社にお金が入るじゃないですか。でも韓国のファンって、会社じゃなくてその人自身が好きという文化なので、その人を応援するためにお金を使うんですよ。東方神起が韓国で爆発的に人気だった時も、熱狂的なファンが多すぎて、自宅に侵入してベッドの下に入り込んでいたりとか。日本のファンって、ある程度の距離感を守るっていうのがあるから、僕の友人のアイドルたちも、やっぱり日本の方が活動しやすいって、みんな言うんですよ」

韓国の伝統を全面に押し出しながら、歌詞はほぼ英語。この矛盾を抱えたまま、『ARIRANG』は世界的ヒットと母国の論争を同時に生み出した。国家ブランドを背負ったアーティストが、どこまでグローバル市場に最適化すべきか——BTSが直面したこのジレンマは、世界進出を狙うあらゆる日本のコンテンツにとっても、決して他人事ではない。

【スンジュン氏】
韓国ソウル生まれ。京都大学総合人間学部(脳科学、生理学、言語学専攻)卒業。大学卒業後、2年間の兵役を経て株式会社リクルート入社。翌年に起業。韓・日・英・中の4カ国語を操る。YouTubeチャンネル「韓国語は発音が9割」を運営し、オンライン韓国語スクール「K-PRO」主宰。韓国語や韓国文化、韓国エンタメにかんする情報を発信している

文/桜井カズキ

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