KFC(ケンタッキーフライドチキン)と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、秘伝の11種類のハーブ&スパイスが香るオリジナルチキンでしょう。じゅわっと口いっぱいに広がる肉汁、カリッと弾けるクリスピーな衣。世界150以上の国と地域で長年にわたって愛され続いている定番のあの味です。
しかし、ここグアムのKFCは日本でイメージするフライドチキン専門店とは大きく異なり、店頭に並ぶのはグアム、フィリピン、そして米国の食文化が大胆に融合したカオスなメニュー。グアムのKFCは土地に根ざしたローカル色の強い食事を出す生活密着型の「ローカル食堂」として親しまれているのです。


朝の定番はお粥とスパムむすび
朝メニューの定番はフィリピン由来のお粥「Arrozcaldo(アロスカルド)」。ガソリンスタンド併設のコンビニでも売られているアロスカルドはグアムの一般的な朝食。

とはいえKFCでお粥?と戸惑う人が多いかも知れません。しかしフライドチキンを作る際に出る鶏ガラからとった出汁に生姜とにんにくを効かせた一杯は「餅は餅屋」的に実に理にかなったメニュー。朝から30度近い気温の中で、あつあつのお粥をハフハフしながら食べるのがグアムスタイルです。
もう一品「Colonel’s Musubi(カーネルムスビ)」と「Spicy Zinger Musubi(スパイシージンガームスビ)」も人気。これはハワイ発祥のSPAM(スパム)むすびをグアム風にアレンジしたもので、ご飯の上に分厚く切ったスパム、卵焼きと海外のKFCでは定番のスパイシーマヨネーズ、ジンガーソースを重ねて海苔で巻いただけのシンプルな一品ですが、手軽にしっかり満足感が得られる軽食として出勤前や登校前に買って行く人があとを絶ちません。


チャモロ文化を丸ごと味わうプレート
それ以外のメニューで外せないのが「Chamorro Plate(チャモロプレート)」。このプレートの背景にはグアムの先住民チャモロの人たちが大切に受け継いできたFiesta(フィエスタ)文化があります。年に一度、各地域の守護聖人を讃えるためのお祭り・フィエスタで振る舞われるのがグアムの伝統食チャモロ料理。現在ではフィエスタの時だけでなく、誕生日や結婚式などお祝いの席に欠かせないグアムのソウルフードのその味をKFCが取り入れているのです。

プレートの主役は「Red Rice/Hineksa’ Aga’ga’(レッドライス/ヒネクサアガガ)」。レッド=赤、ライス=ご飯から日本の赤飯を想像しがちですがまったくの別物。レッドライスの見た目は鮮やかなオレンジ色でケチャップご飯そっくりですがアチョーテ(ベニノキ)という植物の実で色付けした、ほんのり香ばしい味わいがクセになるご飯です。
そして レッドライスに欠かせないのが「Fina’denne’(フィナデニ)」。酢やカラマンシー果汁をベースに玉ねぎ、Donne’ Sali Pepper (ドニサリ)とよばれるグアム産の激辛唐辛子、しょう油を加えたソース。ご飯だけでなくお肉にもお魚にも合う味の決め手的なグアムの食卓には必ず登場するピリ辛万能調味料です。

ハバネロ超の激辛文化が根付くグアム
日本ではあまり馴染みのない唐辛子ドニサリの辛さを示すスコヴィル値は、激辛で名高いハバネロ100,000SHUをしのぐ辛さの100,000~450,000SHU。

このドニサリ文化が根付くグアムの食文化に欠かせないのがホットソースです。その代表格であるTabasco(タバスコ)の製造元・Mcllhenny(マキルヘニー)社の発表によるとグアム島民のタバスコの年間消費量は、1人平均113.4グラム。これは2オンス(約56.7グラム)入りの瓶を1人で年間2本使う計算になります。
グアムでは「母親が赤ちゃんの哺乳瓶にタバスコを添えることで生後すぐからホットソース愛が生まれる」と冗談まじりに語られるほど、激辛好きが集う島。グアムの食文化とホットソースは切っても切れない存在なのです。
伝統料理をファストフード化したKFC
KFCには細かく刻んだ海老(春季限定)や鶏肉に削ったココナッツの実を加え、酢やカラマンシー果汁、玉ねぎやドニサリで和えたケラグェンを現代風にアレンジをし、トルティーヤで巻いた「Kelaguen Twister(ケラグェンツイスター)」もあり、伝統料理をファストフードへと昇華させるKFCのセンスには脱帽です。
KFCのチャモロプレートにはレッドライス、ケラグェンツイスター、ビスケットの炭水化物3種にオリジナルフライドチキン2ピース、コールスロー。それにフィナデニとホットソースがワンプレートに盛られた満足度の高いセットメニュー。



スイーツとドリンクも個性的
スイーツとドリンクにもグアムならではの個性とアメリカンテイストが融合しています。アップルソースたっぷりの「Baked Apple Pie Poppers (ベイクドアップルパイポッパース)4ピース」やソフトクリームがトッピングされた「Root beer Float(ルートビアフロート)」3.20ドル(約510円)はアメリカンな甘さが全開。


一方、レモンの約30倍のビタミンCを含むといわれる地元産の柑橘カラマンシーをたっぷり使った「Calamansi(カラマンシー)」ジュースはさっぱりとした爽やかな酸味が口一杯に広がるドリンクで、フライドチキンや激辛料理との相性も抜群です。
グアムでしか味わえないKFCメニュー
これらローカル色豊かなメニューに共通するは「主食+お肉/お魚+激辛+甘味」という組み合わせ。日本のファストフードメニューのような軽食ムードはほぼなく、一食でエネルギーをフルチャージするボリュームと質なのです。その価格帯はおおよそ12ドル(約1912円)前後と円安が加速する昨今、決して安価ではありません。それでも地元の人たちが日常的に通い、観光客もリピートするのは、ファストフードの枠を超えた「グアムのKFCでしか食べられない魅力的な味」があるからです。

※ドル円為替レートは1ドル=159.32円で換算
米国領グアム在住ライター・陣内 真佐子(じんない・まさこ)
文筆家/翻訳家。1996年3月より家族と共にグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、00年に米国永住権を取得しグアム政府観光局などに勤務。10年にはグアム政府公認ガイド資格を取得。現在はラジオ出演のほか各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳活動をしている。海外書き人クラブ会員。https://www.kaigaikakibito.com/







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