遊園地のマップを眺めているだけで、なぜか当時の空気まで思い出してしまう。
どこから園内を回ったのか、最初に乗ったアトラクションは何だったのか。売店の匂いや夕暮れの景色まで、マップを見ていると当時の記憶が次々によみがえってくる。
『あのころの遊園地マップ図鑑』は、昭和から平成の遊園地やテーマパークの園内マップを収録し、その時代ならではの遊園地の魅力をひもとく一冊だ。

今回話を伺ったのは、遊園地の研究を続ける369daysのmikkoさん、milfordさん。
なぜ〝マップ〟という切り口で遊園地を記録しようと考えたのか。そして、なぜ人はマップを見るだけで、過去の記憶を鮮明に思い出してしまうのか。
『あのころの遊園地マップ図鑑』を通して浮かび上がる、遊園地の魅力について語っていただいた。
マップに刻まれた〝あのころ〟の遊園地

発売後すぐに重版となった話題の『あのころの遊園地マップ図鑑』。
全国37園の昭和から平成のマップを収録し、時代ごとの遊園地とマップのデザインの変化を楽しめる一冊だ。
369daysは、遊園地をテーマにしたフリーペーパーや同人誌を制作するなど、長年にわたって遊園地の文化を発信してきた。そんな二人が、なぜ今回〝マップ〟という切り口で書籍を制作することになったのだろうか。

「以前から、フリーペーパーや、メリーゴーランド・ミニ鉄道をテーマにした同人誌を、遊園地にご協力いただきながら制作したりしていました。そうした活動を続ける中で、『マツコの知らない世界』やラジオなどにも出演させていただき、今回三才ブックスさんからお声がけいただいて、〝マップ〟をテーマにした書籍を制作することになったんです。

もともと遊園地が好きなので、遊びに行くたびに園内マップを持ち帰っていました。さらに昔の遊園地を調べる中で、古書店やフリマアプリなどでも当時のマップを集めるようになり、『こんなアトラクションがあったんだ』と見比べながら研究していたんです。
そうして集めていたマップを改めて整理してみると、想像以上の数が集まっていて、自分たちでも驚きました」(mikko)
書籍には、全国各地の遊園地が掲載されており、いわゆる有名テーマパークだけでなく、地元の人なら誰もが知っているようなローカル遊園地も数多く収録されている。
「今回の書籍では37園を掲載していますが、できるだけ多くの地域の方に楽しんでいただけるよう、全国各地の遊園地を取り上げています。
現在営業している施設だけでなく、すでに閉園した遊園地も含めています。本当は過去の遊園地も含めて全部載せたいくらいで、最初はもっと多くをリストアップしていました。『ぜひ載せてほしい』と言っていただいた施設もあったのですが、資料が残っていないケースも多く、最終的には資料を集められた施設を中心に掲載しました」(milford)
八木山ベニーランドと花やしきに見る「時代性」
初めて訪れる遊園地で欠かせない園内マップ。今では、スマートフォンから公式サイトのマップを確認できるなど、その形もデジタル化が進んでいる。しかしmikkoさんは、園内マップには案内図としての役割以上に、〝遊園地側のメッセージ〟が込められていると語る。
「園内マップの魅力って、一目見るだけで、その時代の遊園地の雰囲気や、『こんなアトラクションがあったんだ』ということが伝わってくるところだと思うんです。
しかも、ただ情報を整理した案内図ではなく、イラストとして描かれているものが多いので、その遊園地が『どんな人に来てほしかったのか』『どう楽しんでほしかったのか』という思いまで見えてくるんですよね。
言葉で直接書かれているわけではないのですが、〝こういう体験をしてほしい〟という遊園地側のメッセージが、マップの中には自然と込められている。そこが面白さであり、魅力だと思います」
そして園内マップには、それぞれの遊園地の個性が表れる一方で、〝時代性〟も色濃く反映されているという。
「時代の変化が特にわかりやすいのが、仙台の『八木山ベニーランド』ですね。
初期のマップは、写実的なテイストだったんですが、80年代に入ると、一気にファンシーで華やかなイラスト調になっていくんです。
まさに〝80年代っぽさ〟が出ていて、例えば描かれている女性の髪型が聖子ちゃんカット風だったり、当時流行していたネッシーをモチーフにした遊具が登場していたりして。その時代の空気感が、そのままマップに表れているんですよね。
さらに90年代になると、80年代のかわいらしいファンシー路線から少し変わって、今度はトレンディーでおしゃれな雰囲気になっていく。未来感のあるデザインも増えていて、時代ごとの流行や価値観の変化が、マップを見るだけでも伝わってきます」(mikko)

また、今回掲載した遊園地の中でも、八木山ベニーランドは特に資料がしっかり残っていたという。
「八木山ベニーランドは、過去から現在までのマップがきちんと保存されていて、見比べるだけでも面白かったですね。どれを掲載しようか迷ったほどでした。
マップは専門のイラストレーターや制作会社が手がけていたと思うのですが、遊園地側の要望も入れて一緒に作り上げていったそうです。
また、ベニーランドのロゴやマーク、テーマソングの歌詞などもパンフレットに掲載されていたりして。遊園地側の思いがしっかり込められていたんだと感じました」(mikko)


一方で、『浅草花やしき』も〝時代性〟を象徴するマップとして印象的だったと話す。
「浅草花やしきの1939年頃のマップでは、すでにさまざまな遊具や劇場、大きな食堂まで存在していて、『当時こんな大規模な遊園地があったんだ』と驚かされました。
その一方で、〝シヤゲキ〟や〝シユーゲキ〟など、戦争を連想させる遊具も描かれていて、当時の時代背景も見えてくるんです。1853年開園という花やしきの長い歴史も含めて、〝その時代の人たちがどう遊んでいたのか〟が感じられるのが面白いですね。
また、開園当時の花やしきは、動物園的な要素が強く、マップもどこか歴史の教科書の挿絵のような雰囲気でした。それが時代を追うごとに色使いも華やかになっていき、マップそのものにその時代らしさが表れていると思います。
今回の書籍では、そうした時代ごとの変化が伝わるように構成しました。同じ遊園地でも、年代によって雰囲気が大きく変わるので、その違いも楽しんでいただけたらと思っています」(mikko)
『奈良ドリームランド』から始まった遊園地研究

「遊園地」というテーマを通して、時代の移り変わりまで見えてくる本書は、懐かしさだけでは終わらない魅力を持った一冊だが、mikkoさん、milfordさんが369daysとして活動する原点は、大学時代にまで遡る。
「そもそも遊園地に興味を持つきっかけになったのが、奈良県にあった『奈良ドリームランド』でした。今回の書籍にもマップを掲載しているのですが、私が高校生だった2006年に閉園してしまったんです。
奈良ドリームランドは、子どもの頃から家族によく連れて行ってもらっていた思い出の場所でした。母も子どもの頃に通っていた遊園地だったので、家族にとっても特別な存在でした。
だからこそ、閉園がすごくショックで。でも同時に、『日本にはまだ素敵な遊園地がたくさんあるから、それを巡って発信していきたい』と思うようになりました。それが、遊園地を研究し始めた原点ですね」(mikko)
そして、『奈良ドリームランド』をきっかけに始まったmikkoさんの遊園地の研究は、後にmilfordさんとの活動にもつながっていく。
「大学では地域社会学を専攻し、卒論では『中小遊園地が生き残るためには、地域との関わりが重要なのではないか』というテーマで研究していました。
milfordさんとは大学で出会ったのですが、私が生駒山上遊園地の歴史について話したことをきっかけに、遊園地に興味を持ってくれて。そこから、歴史や文化の視点から面白さを感じて、一緒に巡るようになりました」(mikko)
貴重な遊園地マップを通して、時代ごとの遊園地文化や空気感が丁寧に掘り起こされている『あのころの遊園地マップ図鑑』。mikkoさん、milfordさんは、なぜ今も遊園地に惹かれ続けるのか、その魅力について改めて語ってくれた。
「遊園地って、新しい出会いをくれる場所だと思うんです。
一緒に行った人との思い出や、スタッフさんとの触れ合いはもちろんなのですが、遊園地の歴史を調べていく中でも、いろいろな発見があるんですよね。『ここには昔何があったんだろう』『どういう経緯でこの遊園地ができたんだろう』と掘り下げていくと、例えば鉄道会社が作った遊園地なら、その沿線開発の歴史につながっていったりする。
また、昔の建物が残っていれば、『これはどんな建築様式なんだろう』と建築に興味が広がることもありますし、遊園地と博覧会は関係が深いので、『当時こんな博覧会があったんだ』と時代背景を知るきっかけにもなるんです。
遊園地は、遊ぶ場所であると同時に、いろいろな文化や歴史、人との出会いへ興味を広げてくれる場所なのだと思っています」(milford)
「今回の本は、細かい解説を読み込む〝研究本〟というより、マップを眺めながら気軽に楽しめるビジュアルブックとして作りました。
例えば家族で一緒に見ながら、『お母さんの頃はこんな遊園地だったんだ』『おばあちゃんの時代はこうだったんだ』と、思い出話が広がっていったら嬉しいですね。
そして、興味を持って実際に今の遊園地へ足を運んでもらえたら何より嬉しいです。
この本で伝えたかったのは、『昔の遊園地の方が良かった』ということではありません。遊園地には長い歴史があり、その魅力は今も続いている。だからこそ、〝今の遊園地〟にもぜひ足を運んでほしい、そんな思いを込めています」(mikko)
遊園地のマップには、その時代の流行や価値観、人々の思い出、そして〝どう楽しんでほしかったのか〟という遊園地側の思いまで刻まれている。
『あのころの遊園地マップ図鑑』は、マップを通して日本各地で育まれてきた遊園地文化の豊かさと、その魅力が今も続いていることを感じさせてくれる。
取材・文/Tajimax
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