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引退5年半でスポーツテック企業の役員に!元日本代表DF近藤直也が歩む独自のセカンドキャリア

2026.06.05

元サッカー日本代表は指導者転身例が多いが、本田圭佑のような起業家も

6月から(株)Qonceptの取締役に就任した近藤直也さん(左)と林建一社長

 2026年北中米ワールドカップ(W杯)が6月11日に開幕する。日本代表は14日の初戦・オランダ戦(ダラス)を皮切りに、20日のチュニジア戦(モンテレイ)、25日のスウェーデン戦(ダラス)とグループリーグ3試合を戦う。そこで首尾よく勝ち上がれれば、そこからはノックアウト方式。過去に一度も決勝トーナメントを勝ち上がったことのない彼らにとって越えなければならない関門は少なくないが、史上最高のベスト8以上を達成してほしいところだ。

 その日本代表には森保一監督を筆頭に、98年フランスW杯の10番・名波浩コーチ、2006年ドイツ・2010年南アフリカW杯の10番・中村俊輔コーチ、2010年・2014年ブラジル・2018年ロシアの3度のW杯でキャプテンを務めた長谷部誠コーチなど、数々のレジェンドが並んでいる。彼らのように現役引退後の元選手は指導者に転身する例が非常に多い。

 だが、必ずしも全員がサッカーを教える側に回るとも限らない。今回のW杯で解説者を務める本田圭佑氏(FCジュロン)のように現役時代から起業し、ビジネスを展開する選手もいるのだ。

自身の立ち上げた運動教室で子供たちを見つめる近藤さん

現役時代に株式会社DOMAを設立し、すでに16期目を迎える近藤さん

 アルベルト・ザッケローニ監督時代の2012年のアイスランド戦(長居)で日本代表デビューを飾った近藤直也さんもその1人。彼は柏レイソルに在籍していた2011年に株式会社DOMAを設立。2012年に「DO SOCCER CLUB」を設立し、2013年1月からつくば市、土浦市、取手市の3会場からスクール事業をスタート。柏市にも展開し、さらにはスポンサー営業にも精を出し、2020年末の現役引退までに経営基盤を確立させたという。

「引退から5年半が経ちましたが、クラブのほうは順調に運営できています。指導はスタッフに任せて、自分は経営に専念しています。そのなかで『子供たちの運動能力が低下しているな』と感じることが多くなったんです。

 そこで2022年9月に『みんなDE体幹トレーニング』という名称の運動教室をサッカークラブとは別で立ち上げました。子供の運動を研究している筑波大学の教授にも監修で入っていただき、自分が現役時代に取り組んでいたトレーニングも踏まえながらメニューを立案。最初につくば研究学園校を立ち上げ、その後、流山市、印西市、藤沢市にも展開しました。

 今夏には川崎市にも広げる予定です。子供たちの運動機会が減っているのは間違いないので、こういう活動は子供たちの発育にもプラスになると思います」と近藤さんは前向きに語る。

 この活動を発展させて、発達障害を抱える子供たちにスポーツの機会を与えるべく、運動療育に特化した放課後等デイサービスに進出する計画もあるという。

「みんなDE体幹トレーニングと同じで、こちらもフランチャイズ方式なんですが、事業として持続可能な形を作りながら拡大させていきたいと考えています。子供の運動機会を増やし、運動能力向上につながる活動をしたいという思いが強いんです。

 株式会社DOMAは今年で16期目。サッカークラブ部門、スポーツ教室部門の2事業部に分かれていて、スタッフはアルバイト含めて総勢16~17人。みんな熱意を持って働いてくれています。経営面も黒字化できていますし、ここまでは一歩一歩、着実に前進してこられました」と近藤さんはしみじみ言う。経営者として確実に組織をまとめつつ、社会貢献に尽力しているのは確かだ。

運動機会の少ない令和の子供たちにとって体幹やコーディネーション強化は重要だ

6月からはスポーツテック企業の取締役に。新たなビジネスに積極的にチャレンジ!

 その手腕を見込んだのが、AI・映像解析技術を強みとするスポーツテック企業・(株)Qoncept(コンセプト)の林建一社長である。近藤さんは兄を通して知り合った林社長から今年1月に「経営陣に加わってほしい」と打診を受け、6月から取締役に就任することが決定。一緒に事業を進めていくことになったのだ。

「林さんは僕の出身校である茨城県立竹園高校の2つ上の先輩で、兄の友人でもあります。大阪大学大学院博士課程在学中だった2019年にこの会社を作りました。そこで、画像処理によるリアルタイムトラッキング技術を生かして、サッカーシュート計測アプリ『シューソク』、ゴルフ弾道計測アプリ『Golfboy』などを開発。リリースしたんですが、ユーザーは着実に増えていると聞いています。

『シューソク』に関しては、これまでイベント会場などで積極的に導入され、大人から子供まで参加者のシュートスピードを計測し、そのシュート動画をアプリやQRコードを通してプレゼントするといったサービスが行われてきたと聞いています。そこに僕が関わることで、Jクラブや育成年代のチームがアプリを採用してくれる可能性がある。機能追加やトレーニングメニューの考案などもできますよね。林さんと僕の持っているノウハウを有効活用すれば、もっと大きなプラスアルファを出せると確信した。それで経営に参画することになりました」と近藤さんは目を輝かせる。

サッカーシュート計測アプリ『シューソク』のイメージ画面

近藤さんが新たな企業で関わる「シューソク事業」とは?

 彼が関わる最初の一歩は、やはり「シューソク事業」。6月にはアプリがアップデートされ、サッカーのトレーニング、プロ選手によるアドバイスなど新たなコンテンツ導入が可能になるという。最近近藤さんと同い年の元Jリーガー・阿部翔平さん(元名古屋)がSNSを通してキック動画を積極的に配信しているが、それも新たなコンテンツとして盛り込んでいく方向だ。

「元Jリーガーのサッカー活動をコンテンツに追加できれば、彼らのセカンドキャリア支援にもつながると思います。それに元プロ選手に技術指導をしてもらえるわけですから、ユーザーもメリットがありますよね。

 今のところ、アプリ導入の手ごたえはJクラブやチームによってまちまちです。Jリーグは今年夏にシーズン移行を控えていて、8月から26-27シーズンが開幕しますが、ホームゲームでは数多くのスポンサーブースも設置されると思います。でも、そういうところの中には集客に苦労するブースもあります。そこでシューソクを使ってシュート速度を測るイベントなどを実施してもらえれば、多くのお客さんが立ち寄ってくれるようになる。そういったメリットを伝えながら、今、僕の方でアプローチを進めているところです」

 近藤さんはこう話しているが、営業活動はお手の物。株式会社DOMA設立以降、彼は練習・試合の合間を縫ってさまざまな企業経営者と会い、サッカークラブの支援を取り付けてきた豊富な経験値がある。そのアグレッシブさとインテリジェンスは元日本代表選手のビジネスパーソンの中でも屈指。近い将来には、このアプリを導入しているクラブがいくつも出てきそうだ。

ボールを蹴る子供たちもシュート速度を計測できればモチベーションが上がるはず

フィジカルトレーニングとパフォーマンス測定もアプリ展開へ

 彼が関わる2つ目の事業は「フィジカルトレーニングとパフォーマンス測定」。新たなアプリを開発し、それを提供していくことを考えている。

「僕の会社の1事業である『みんなDE体幹トレーニング』は今、リアルの教室だけですけど、フィットネス系のアプリがあれば、遠隔地に住んでいてもオンラインで参加できる。自宅で気軽に運動体験をしてくれる子供たちが増えれば、運動能力向上という僕が目指していることに近づいていく。そうなるように今、林さんと話をしているところです。

 パフォーマンス測定については、僕のサッカークラブでも1つ既存サービスを使っているんですが、そういうツールを導入したいと考えているチームは結構あります。新規開拓のニーズがあるなと感じています。林さんも興味を持ってくれているので、オリジナルのものを開発し、提供していく方向です。Qonceptは映像解析が武器なので、それを生かした独自性を出せると思います」と近藤さんは意気込みを新たにする。

 スポーツ界は映像分析技術が年々進化しており、ツールも多様化している。2026年北中米W杯に挑んでいる日本代表も専任のテクニカルスタッフが6人帯同し、さらに東京大学と筑波大学の学生を集めたチームを編成。幅広い情報にアプローチしている。そういう時代だからこそ、映像解析技術を生かしたパフォーマンス測定が気軽にできれば、指導者や選手たちも有難いはず。これは有望な領域ではないか。

近藤さんの運動教室がアプリで展開できればより多くの参加が見込めそうだ

AIカメラを使った新事業も計画。企業経営の経験をサッカー界に還元へ

 近藤さんが関わる3つ目の事業は「AIカメラを使った指導者目線での開発」だ。AIカメラというのは、三脚を立ててカメラを設置すると、ボールの動きに合わせて映像を撮ってくれるという優れモノ。今、多くのサッカーチームが導入しているという。

「この領域についても新規参入の余地があると林さんと話していて、より使いやすいものを開発できれば普及が進むと見ています。

 例えば、自分の子供が試合に出ている保護者だったら『自分の子供だけにフォーカスした動画がほしい』と考えます。そのニーズを加味して自動的に撮影してくれるものがあったら入手したいと思いますよね。そこに走行距離やスピードなど多種多様なデータも出てくるということになれば、もっとニーズが高まると思います。

 これも今後、着手していく事業ではありますが、自分のサッカー経験や会社経営の経験をいろんな形で還元できると確信しています。

 僕は指導者になる道を否定しているわけではありません。実際に素晴らしい指導者になっている元選手もたくさんいます。ただ、サッカー選手として培った経験や考え方は教育や福祉、テクノロジー、経営といった分野でも大きな価値を生み出せると思っています。

 現役時代に身につけたものを社会に還元する方法は一つではない。そういう姿を示すことでこれから引退を迎える選手たちにも新しい選択肢を提示できたら嬉しいですね」と近藤さんは力を込めていた。

 彼のように自分なりにビジネス経験を積み重ねた元プロ選手が将来的にJクラブや日本サッカー協会の経営に関わり、サッカー界をグングン成長させていくような時代が来れば理想的ではないか。年商300億円企業・(株)コミットの社長に就任した元日本代表の大津祐樹さんにしてもそうだが、「サッカーをやめても別の世界で成功できる」という例がどんどん増えていくことは重要だ。

 (株)Qonceptの取締役として近藤さんがどのような足跡を残すのか。それを興味深く見守っていきたいものである。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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