Googleは米カリフォルニア州マウンテンビューにて開催した年次開発者向け会議「Google I/O 2026」において(※)、数々の開発成果と併せて、Google Labsの実験的ツールによって実現する未来の科学的発見の可能性も紹介された。
この研究者向け実験的ツールはCo-Scientist、Alpha Evolve、Empirical Research Assistance、NotebookLM を基盤に構築されており、同社では「Gemini for Science 」と総称している。本稿では同社発表ブログをベースに、その概要をお伝えする。
※開催時期:2026年5月19日~20日
人間のアイデアを何倍にも高める原動力
Googleは現在 、科学界はあるパラドックスに直面していると指摘する。人類全体の知識が急速に拡大しているため、個々の科学者がその全体像を把握するとがますます困難になっているというのだ。
科学的なブレイクスルーの多くは、データ間のクリエイティブな結びつきを見つけることから生まれるが、これを手作業で行うには数週間、あるいは数か月もの時間がかかってしまうことがある。
AIはこうしたボトルネックを解消し、複雑なタスクを処理することで、科学研究の力を何倍にも高める原動力となり得る。これにより研究者は、進歩の鍵を握る最も重要な課題や研究の方向性を見極め、それらの解決に集中できるようになるはずだ。
Google Labsで提供されるGemini for Scienceの実験的ツールには、こうしたタスクを処理するために開発された3つの主要なプロトタイプが含まれている。
■Hypothesis generation (仮説生成機能、 Co-Scientistを基盤に構築)
新しいアイデアの創出は科学の中心だが、毎年発表される何百万本もの論文をすべて読み込み、統合することは、人間の力だけでは不可能だ。 Hypothesis generation は、科学的手法をシミュレートすることで、このギャップを埋めていく。
研究者と協力して研究課題を定義した上で、複数の AI エージェントによる「アイデア トーナメント」を開催して、仮説の生成、議論、および評価を自動で行なう。また、絶対的な厳密性を担保するため、生成された主張は徹底的に検証され、クリックして参照できる引用元(出典)が必ず明記される。
■Computational discovery (計算科学的発見機能、 AlphaEvolveおよびERA [Empirical Research Assistance: 実証的研究支援]を基盤に構築)
科学の進歩は、コンピューターを用いた計算実験で実際に検証できる仮説の数によって制限されてしまうことが少なくない。自律的に動く研究エンジン(エージェント型研究エンジン)であるComputational discoveryは、何千ものコードのバリエーションを並列で生成・評価することで、この課題を解決するプロトタイプだ。
これにより、太陽光発電の予測や疫学といった極めて複雑な分野において、手作業では数か月かかるような新しいモデリング手法の検証を、スムーズに行なえるようになる。
■Literature insights (文献インサイト機能、 Google NotebookLMを基盤に構築)
科学文献を深く理解することは、すべての研究活動において不可欠なプロセスだ。 Literature insightsは、膨大な科学文献を検索し、カスタマイズ可能な検索属性を持つテーブル(表)に対比形式で整理してくれる。
研究者は、チャット機能を使って、自身で厳選した文献データ(コーパス)に基づいた詳細なニュアンスを掘り下げることができ、レポート、スライド資料、インフォグラフィック、さらには音声や動画による概要解説といった高品質な成果物を簡単に作成できる。 Google NotebookLMを活用することで、 Literature insightsは複数の論文にまたがる知見の統合や、未開拓の研究分野の特定、新たな機会の発見を強力にサポートしていく。
科学のためのワークベンチを
Gemini for Scienceの一環として、Googleは新たにScience Skillsの提供を開始する。これは、UniProt、 AlphaFold Database、AlphaGenome API、InterProなど、ライフサイエンス分野における30以上の主要なデータベースやツールから得られる知見を統合した特化型のパッケージだ。
Google Antigravityのようなエージェント型プラットフォーム上でこれらのスキルを活用することで、研究者はこれまで何時間もかかっていた構造バイオインフォマティクス(構造生物情報学)やゲノム解析といった、複雑で手作業の多かったワークフローを、 わずか数分で実行できるようになる。
Science Skillsを活用しているGoogleの研究チームは、すでにこの圧倒的なスピード向上を実証している。 実際、初期のテストにおいて 、同チームがScience Skillsを使って、通常であれば何時間もかかる複雑な分析をわずか数分で完了させた。
その結果、AK2遺伝子の変異によって引き起こされる、ある希少な遺伝性疾患の潜在的な発症メカニズムに関する、これまでにない新しい知見を得ることに成功したという。
科学コミュニティとの共同の取り組み
Googleでは、新しいシステムやツールの検証を行なうため、100 以上の研究機関と提携している。これには、肝線維症の研究におけるスタンフォード大学、薬剤耐性(AMR)研究におけるインペリアル・カレッジ・ロンドン、およびフランシス・クリック研究所との 複数年にわたる共同の取り組みなどが含まれている。
また、 AI が生成する知見の信頼性を担保するため、博士課程の学生から企業の第一線で活躍する研究者、さらにはノーベル賞受賞者に至るまで、幅広い専門家からなる「信頼できるテスターのコミュニティ」を構築。実世界の複雑な課題を用いてシステムに負荷テスト(ストレステスト)を実施している。
さらに、ICML、STOC、NeurIPS といった世界をリードする主要な科学学会と連携した独自の試験的な取り組みも立ち上げている。ここでは、実験的な論文支援ツールであるPaper Assistant Tool ( PAT )やScholarPeerなど、 AIエージェントを活用した査読や科学的検証を行うための先駆的なツールの開発が進められている。
これらの取り組みはすべて、 Googleが長年にわたり積み重ねてきたAIの進化の歴史の上に築かれている。
同社の特化型AIモデルは、すでに様々な分野で進歩を加速させており、例えば、AlphaFoldはこれまでに300万人以上の研究者を支援して、マラリアワクチンの開発やプラスチック分解酵素の研究に貢献してきた。AlphaGenomeは、科学者が病気の原因を特定する手助けをしている。
これらは、研究者が日々信頼を寄せているGoogle ScholarやEarth Engine、Colab、MedGemma、Earth AI、そしてGemini Deep Researchといった日常的なツールと並んで活用されている。さらに、最新のGemini Deep Thinkのリリースにより、複雑な科学的タスクにおけるコアモデルの能力を継続的に向上させている。
Googleは今回の発表に際して、以下のようにコメントしている。
「エージェントを活用した研究の未来を皆さまと共に探求しながら、私たちは AI が科学の進歩を加速させ、人類が直面している最も緊迫した社会的課題の解決に貢献できる未来を目指して、これからも歩みを進めてまいります」
関連情報
https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/technology/gemini-for-science-io-2026/
構成/清水眞希







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