2025年に製造元出荷ベースでの市場規模が約1,960億円となり、2024年度から39.0%も増加しているカプセルトイ市場(一般社団法人日本カプセルトイ協会調べ)。カプセルトイメーカーは70社ほどまでに増加しており、中でも大人たちが夢中になるようなカプセルトイを作り出しているのが東京都千代田区にある「ケンエレファント」だ。
「mojojojo フィギュアマスコット」や「むにゅのミニチュアマスコット」など、人気作家とコラボレーションした商品は完売→再販の繰り返し。ニッチな需要をガッチリとつかみ、ヒット商品を生み出す秘訣を、フィギュア事業部取締役部長の樽見純さんに伺った。

「カリモク60」や「mojojojo」が大ヒット。ケンエレファントの歴史
ケンエレファントは2000年に創業し、ミニチュアトイやソフビの企画・制作・販売を行うメーカー。もともとは海洋堂と共同で飲料品などのノベルティを企画しており、カプセルトイ市場に参入したのは2014年。そして2015年にはメーカーとしての歴史を歩み始め、ケンエレファントオリジナルのカプセルトイ第1弾として「手芸」シリーズを発売した。
2019年に爆発的なヒットを遂げたのが、「カリモク60ミニチュアファニチャー」。ほかにも「ONKYO」「T-fal」「Technics」「Victor」など、有名なメーカーの商品を細部まで再現し、カプセルトイに落とし込こんだ。当時はまだ、カプセルトイメーカーとしての方針を模索している最中だったがゆえ、あまりにこだわり過ぎて赤字だった商品もあったという。しかし業界の常識にとらわれなかったからこそ、ケンエレファントらしさが生まれたようだ。
樽見さん「みなさんが知っているプロダクトを精巧に作ることに、躍起になっていた時代ですね。いかに小さく、いかに細かく。海洋堂さんの精神を受け継ぎ、リアリティを追求することに当時からこだわっていました。当時は企業様の許諾を取り、商品を細かな点まで再現すること自体が、珍しかったです。そこから、“ケンエレファント=リアルなミニチュアづくり”というイメージが定着したと思います」
ライセンサーと契約し、本物をカプセルトイで届けるケンエレファントが次に目をつけたのは、人気の「作家」。カプセルトイを手がけるフィギュア事業部とは別の、アート事業部とのシナジーによって、新たなラインナップが誕生したという。
樽見さん「東京駅に『VINYL』という小さなギャラリーを併設した店舗があり、さまざまなジャンルの作家さんの作品を展示しています。そちらは弊社のアート事業部が手がけていて、個展を開催した作家さんを紹介してもらい、そこからカプセルトイ化が進行しました」
そしてケンエレファント直営店で開店前から行列ができ、ECサイトでは発売開始後に約2分で完売するほど人気を博したのが「mojojojo フィギュアマスコット」シリーズ。尾崎歩美さんの生み出した「mojojojo」のカプセルトイで、2024年の第1弾完売後も第2弾、第3弾、限定品を発売し、2026年8月頃には第4弾が発売予定のロングセラーだ。キャラクター自体の人気とともに、チャームとして付けられる「カラビナ付き」というのも人気に拍車をかけた。
樽見さん「当時は売れ行きがまったく予想できなかったので、一度、企画は止まっていたのですが、アート事業部から個展が盛況だったという話を聞いて企画会議で再アタックし、商品化の運びとなりました。結果として、桁違いの売上になったので、本当に驚きました。
商品化するにあたって、“作家さんの世界観を忠実にカプセルトイ化する”というのが弊社のこだわりです。mojojojoは足が丸っこくて、自立しないことが課題でした。補助パーツをつけることも考えましたが、開発担当の社員が以前に提案してくれていたパステルカラーのカラビナが『ここで使える!』となり、吊り下げスタイルにしました」
面白いポイントは、カラビナを採用したのはケンエレファントはあくまでも「作品をそのままの形にするため」ということ。近年トレンドとなっているチャームブームに合わせたわけでも、マーケティング調査をしたわけでもないのだ。
ケンエレファントのカプセルトイの購入者は20代後半~中高年の幅広い大人世代で、おおよそ7:3の割合で女性の方が多い。1個400円~500円と少しカプセルトイとしては高価格帯のため、子どもよりも大人に選ばれているという。高価格帯といえども、例えば各人気作家の作品を購入しようとすると、数千円~万単位が一般的。それを誰でも気軽な値段で買えるのはやはり嬉しい。日々頑張って働く大人たちの自分へのご褒美として、ケンエレファントのカプセルトイは支持されているだろう。
ヒットの秘密は「青ファイル」。社員全員がアイディアを出せる社風
現在は作家さんとのコラボレーションや人気キャラクターを中心に、毎月平均して10タイトルものカプセルトイを販売しているケンエレファント。どうやってケンエレファントはヒット商品を生み出しているのか――。その理由の一つが、「社員全員が発案者」というユニークな社風だ。強制をしているわけではなく、各々が好きなタイミングで発案するシステムとなっている。しかし、自然と数多くのアイディアが集まり、企画を担当している樽見さんは「ありがたい」と話す。
樽見さん「約90名の社員全員から、常にアイディアを募集しています。私たちが『青ファイル』と読んでいる青いバインダーにA4用紙1枚の企画書を挟んでもらうことで、アイディアの提出は完了です。それをもとに月2回、弊社の代表も含めて企画会議を実施します。おおよそ、アイディアは1回につき多い時で30~40ほど集まりますが、そのうちライセンサーとの契約やコストなどを乗り越え、製品化に至るのは1~2個です」
その会議を経て、2025年にヒットの末、今年5月より第2弾が発売中のカプセルトイが「しりみみうさぎ」でおなじみの「beco+81 フィギュアマスコット」。ほかにも陶器作家のHONGAMAさんの作品がミニチュア化した「HONGAMA miniature collection」など、次々とヒットを生み出している。
樽見さん「作家さんとのコラボレーションにおいて注目するのは、濃いファンの方が存在していらっしゃるか。直感的にかわいいかどうか。そして、それが世の中にでたときに、『あの作家さんのカプセルトイが出るんだ』と楽しんでもらえるかどうか。プレゼンがうまい提案、とかではなく、『楽しんでもらえるものになりそうだね』『いいじゃん』と会議に参加している人みんなが同じ感覚になるものを選んでいます」
数年前まで企画会議の参加メンバーは40~50代だったが、近年社員が大幅に増え、20~30代も参加。新しい風が吹き、「ハッチポッチステーション フィギュアコレクション」など若い世代ならではの商品が生まれ、完売するほどの人気となった。
さまざまなヒット商品を生み出しているケンエレファントは、いつも流行の先頭を走るような仕掛け人。現在、作家とのコラボレーションは他社からも数多くリリースされており、次なるヒット作を模索する段階になっているという。
2026年5月下旬に発売する「PEZ バイシクル バルブキャップ」は、なんと自転車の空気を入れる注入口に付ける「バルブキャップ」をカプセルトイ化したユニークな商品だ。バルブキャップをカプセルトイとして発売しているメーカーを筆者は見たことがなく、遊び心であふれている。
樽見さん「市場を開拓している、という感覚はなく、面白いことをやっているイメージですね。SNSでバズっているようなカプセルトイのアイディアがあったとしても、“ケンエレファントらしさ”に立ち返り企画をセレクトしています。本当は取り入れたいものもあるんですけどね」
樽見さんがカプセルトイ作りにおいて、特に大切にしているのは「消費されない」こと。カプセルトイは回した後、少し時間が経つと捨ててしまった経験が誰しもあるのではないだろうか。消費されず、ずっと手元においてもらえるように細部までこだわり作っているのも、ケンエレファントらしさだろう。
樽見さん「弊社がまだカプセルトイを手がけていない時に、私も好きだったので、よく遊んでいました。勢いで爆回
しした時は気付けば沢山のフィギュアが手元に(笑)
同じような方もいらっしゃると思うのですが、後日振り返った時にもずっと持っていたい、置いておきたいと思うようなカプセルトイを作り続けたい、と思っています。」
ほかにないような新しいアイディアとともに、次々とヒット作を生み出しているケンエレファント。データよりも社員の「面白そう」という感覚を大切にしているからこそ、それに共感した大人たちが夢中になるような商品を作れるのだと感じた。働いている社員たちも、とても楽しそうだ。次のトレンドは「バルブキャップ」なのか、はたまたまったく違う、新たなアイディアか――。これからも、つい回したくなるようなカプセルトイを、きっと作り続けてくれるだろう。
・ケンエレファント
HP:https://kenelephant.co.jp/
取材・文/小浜みゆ
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