■連載/阿部純子のトレンド探検隊
三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)は、5月7日にGoogleとのリテール領域における戦略的提携を発表した。今回の提携は、MUFGが進めるリテール戦略のもと、日常生活の中で金融がより自然に利用されることを目指し、Googleが有するAIや多様なサービス・コンテンツを活用した、新たな金融体験の創出を目的としている。発表会では第一弾として、GoogleクラウドとのAI領域における協業を中心に紹介された。
Googleと連携しAIエージェントを活用した金融、非金融のサービスを拡張
MUFGは昨年6月に、銀行・決済・資産運用・ポイント管理などをスマホアプリで一元管理できる新たな金融サービスブランド「エムット」を立ち上げた。
エムットはリテールビジネスの成長に寄与し、三菱UFJ銀行の口座開設数は前同期比で6割以上増加、三菱UFJカードの発行数は約2倍に拡大。三菱UFJeスマート証券の口座開設数は約7倍に増加し、ウェルスナビの預かり資産残高も30%以上成長している。
「次なる成長に向けて、エムットを金融の領域に止まらず、お客様が日常生活の中で自然に金融と出会える形へと進化させていく必要があると考え、MEFGとGoogleは、リテール領域における戦略的提携を始動いたしました。
MEFGはGoogleと共に、金融を意識して使うものから、生活の流れの中で自然に出合い、使い続けるものへ進化させます。両社のパートナーシップは、昨年5月のリテール戦略発表会でのデジタルバンクにおけるGoogleクラウド基盤の活用から始まり、本日の発表はその第2章です。
今回の戦略的提携には3つの柱があります。1つ目は、AIエージェントの開発・実装による先進的な金融体験の創出、2つ目は、データ・マーケティングの高度化、3つ目は、金融と非金融の融合、そして新技術の活用による新たな価値創出です。
今回のMEFGとGoogleの戦略的パートナーシップにより、総合金融サービスとして進化を続けているエムットをさらに一歩進め、非金融のレジャーやエンターテインメント、ヘルスケア、ライフスタイルといった、お客様の日常生活への拡張を進めていきたいと考えています」(株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役専務 リテール・デジタル事業本部長 兼 グループCDTO 山本忠司氏)
MUFGとGoogleクラウドの戦略的提携の目的は、「AIエージェント」を核に、購買から決済、金融取引の意思決定までをAIエージェントが支える次世代金融体験を推進することにある。
MUFGは金融知見や顧客、決済基盤を提供、GoogleクラウドはAI、データ、クラウドインフラの技術の提供、技術的な助言や開発面での支援を行う。新サービスの具体的な運用先は今後検討するとし、2026年度中に実証を始める予定。
「AIエージェントとは、目的を達成するために周囲の状況を自ら判断し、自律的に行動や提案を行うシステムです。これまでのAIとの大きな違いはプロセスにあります。AIエージェントは、置かれた状況を正確に把握し、目的達成のために必要なステップを自ら考えます。今の状況が目的に対して十分か、誤差はないか、計測しながら思考を深めます。最後はアクションで、AIエージェントは実際に自律的な行動へと移ります。
例えば、家族で海外旅行に行きたいと目的を伝えたとします。従来のAIであれば、人気の観光地をリストアップするなど表層的なものに止まっていたかと思います。しかし、 AIエージェントはみなさんの過去の好み、家族の予定、現在の予算、さらには現地の状況や為替レートまでを総合的に理解します。
その上で最適なプランを作成するだけでなく、ホテルの予約、航空券の確保、さらには決済の実行まで、みなさんの代理として一気通貫で行うことができます。
金融サービスについても同様です。単なる資産運用の提案にとどまらず、お客様のライフイベントに合わせて、最適なポートフォリオの組み替えを自律的に実行したり、煩雑なローンの審査のプロセスを裏側で整えたりすることが可能になります。
人間とAIがツールを使う側、使われる側という関係を超えて、AIが人間を支える頼もしい自律的なパートナーとなる。AIエージェントの実装こそがMUFGが実現しようとしている自律型金融の姿だと考えています」(グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 日本代表 三上智子氏)
ユーザーが問いかけ、選択し、最終的な判断や操作を行う、あくまで人が主導する従来の「対話型AI金融サービス」に対して、今回の戦略的提携を通じて目指す「自律型AI金融サービス」は、顧客が定めた目標や条件を踏まえて、 AIエージェントが状況に応じて判断し、探し、選び、支払う。
こうした一連の行動を顧客の最終的な承認を前提にAIが自律的に実行する。AIが全てを勝手に判断するのではなく、顧客の意向の範囲内でAIに安心して任せられるということが大きなポイントになる。
顧客が個々の操作や判断を行うのではなく、目的に沿ってAIエージェントが自律的に行動していく自律型金融サービスの世界観のひとつが、「エージェンティック・コマース/エージェンティック・ペイメンツ」の取り組み。
顧客がスマホでほしい商品の写真を撮ると、AIがおすすめの商品を検索して提案。ポイント還元率が高いクレジットカードなどを比較して、最適な決済方法を提案する。さらに家計データと合わせて支出を見える化するフィードバックも行う。
「エージェンティック・コマース/エージェンティック・ペイメンツでは、お客様があらかじめ定めた方針や条件に基づき、 AIエージェントが適切な商品やサービスを探し、選び、決済までを含めて自律的に実行をしていきます。
MUFGは幅広い決済基盤に加え、圧倒的な法人顧客と加盟店、そしてこれまで培ってきた信頼と信用という強みを有しています。今回の戦略的パートナーシップによって、 Googleクラウドの技術支援を受けながら、 AIエージェントの開発を進め、 AIエージェント時代における金融、決済の価値提供を行ってまいります」(山本専務)
今後は金融と金融を合わせたサービスを段階的に広げていく予定で、第一弾となるのがヘルスケア領域での協業。MUFGグループの家計簿アプリ「マネーツリー」にヘルスケア機能を実装し、家計簿とヘルスケアを組み合わせた新たなサービスをリリースする。
併せてMUFGの特定のサービスの利用者に、Googleのウェアラブルブランド「Fitbit」の最新デバイスを提供。マネーツリーの新サービスでは、生活習慣と支出傾向の可視化してデータの傾向に基づく気づきを提供し、健康継続へのリワードや特典を付与する仕組みも構築する。
【AJの読み】日々の買い物から家計管理、さらには健康管理までAIが生活に寄り添う
MUFGは従来からクラウドサービスの採用を積極的に推進しており、業務アプリケーションや金融サービスを支えるバックエンドシステムを、クラウドインフラ上にも構築している。
Googleクラウドを利用した新たなクラウド共通基盤を構築し、開発の迅速化とセキュリティを両立させる、次世代金融サービスとしてGoogleと協業してAIが顧客の決済や資産形成を提案、実行する「AIエージェント」を開発するなど、両社は関係を深めてきた。
さらにその協業をリテール領域にも拡大し、日々の買い物から家計管理、さらには健康管理までAIが生活に寄り添う顧客体験向上を図るサービスを展開する。
「今回の連携は金融を暮らしの流れの中で自然に出会い、役に立つ存在を変えていく挑戦です。MUFGは信頼と責任を土台に、お客様の人生に寄り添う金融を磨いてきました。そしてGoogleは人々の日常に深く根差したサービスの中で、行動そのものを支える体験を作ってきました。MUFGとGoogleの両者が手を取り合うことで、MUFGは金融の枠の中に留まらず、みなさまの日常へ浸透し生活の様々な場面に広がっていきます」(山本専務)
「MUFGとGoogleクラウドの提携は、単なるシステムの移行や導入だけではありません。AIやデータを活用し、お客様ひとりひとりに寄り添った次世代の金融体験を創出するための大きな挑戦の始まりです。私たちのこの歩みが、日本の金融業界全体の活性化、社会全体のデジタルトランスフォーメーションに貢献できるものと確信しております」(三上代表)
取材・文/阿部純子







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