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なぜ、人は失敗をナメてしまうのか?心理学が暴いた「失敗ギャップ」という落とし穴

2026.05.29

失敗は過小評価されている

スーパーでいつも買っているミネラルウォーターが陳列棚で品切れだった場合、たまには別の銘柄のものを買ってみてもよいし、近場の用事で外に出たら案外肌寒くてもう一枚羽織ったほうが良さそうだが、どうせすぐに戻るからとそのまま行くこともあるだろう。

このように「きっとうまくいくだろう」、「まず問題ないだろう」という見込みで日々の些細な判断を行っていることが多いと思うが、それでも場合によってはうまくいかないことや失敗することもある。

野球のバッティングは打率3割あればまず上出来だが、裏を返せば7割は失敗していることになる。それでもバッターは希望を失わずに次も打席に立っている。

10回のうち7回失敗しても気持ちが折れないのはどういうことなのか。我々は基本的に楽観主義者なのだろうか。それとも失敗を軽視しているのだろうか。

新たな心理学研究によると、人々は世の中で物事がうまくいかない頻度を体系的に過小評価している傾向があることが報告されている。

失敗を「見なかったことにする」

ノースウェスタン大学やコーネル大学をはじめとする研究チームが昨年10月に「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した研究では、人々が失敗を過小評価する傾向である「失敗ギャップ(failure gap)」を実験を通じて検証している。

研究チームは約3000人の参加者を対象とした大規模な複数研究プログラムを実施し、人々が失敗をどのように認識し、その認識をどのように変えることができるか理解を深めることに取り組んだ。

研究チームは「Amazon Mechanical Turk」や「Prolific」などのプラットフォームから募集した参加者に、国家的な問題(犯罪、医療など)、地球規模の問題(貧困、汚染など)、日常生活における個人的な経験(人間関係の破綻、商品の返品など)を含む30以上のテーマで、さまざまな種類の失敗がどのくらいの頻度で発生するかを推定するよう求めた。

たとえば事実としてアメリカ人の40%は基本的な計算能力が不足していることがわかっており、また病院職員の半数は基本的な衛生規則を守っていないことが判明している。しかし人々の認識はその実際の割合よりもはるかに低いと楽観視しているのだ。

研究チームは問題は楽観主義だけではなく、情報の共有方法にあるのではないかと推測している。失敗は不快であったり、屈辱的であったり、コストが大きかったりするため、成功よりも議論される頻度が低く、その結果、失敗についての情報量が少なくなり、「見なかったことにする」のが容易になるというのである。

「失敗ギャップ」の強い傾向が明らかに

続いて研究者らは広く入手可能な情報源において、失敗と成功がどの程度頻繁に議論されているかを検証するため、「Nexis Uni」などのデータベースを用いて約240万件のニュース記事を大規模に検索し、参加者が以前に評価した分野全体で、失敗と成功がどの程度頻繁に言及されているかを体系的に比較した。

さらにこの手法をソーシャルメディアやオンラインの消費者レビューなどの形式の共有情報にも拡張し、従来のニュース以外でも同様の傾向が見られるかどうかを検証した。

こうした複数の研究を通して、人々が失敗の発生頻度を大幅に過小評価している「失敗ギャップ」の一貫する強い傾向が明らかになった。

これは、国レベル、国際レベル、個人レベルといったあらゆる領域において当てはまり、スポーツ、教育、医薬品の有効性といった特定の状況においても同様だった。

研究者らはまた、この認識のずれが情報の共有方法と関連しているという強い証拠を発見した。ニュース報道、ソーシャルメディア、オンラインレビューにおいて、実際の失敗の発生件数に比べて失敗事例が常に過小評価されていた。さらに人々が失敗を軽視しやすい情報環境に実験的に置かれると、彼らの認識はさらに不正確になった。

〝失敗の可視化〟の重要性

しかし「失敗ギャップ」は手に負えないわけではない。

彼らが目にした情報が現実世界の失敗率を正確に反映していた場合、興味深いことにそのギャップは縮まったのだ。失敗について議論することがより一般的になった状況、例えば「セクシャルハラスメント」の議論などは、人々はもはや失敗(過失)を過小評価しなくなっており、むしろ過大評価するようになる場合さえあるということだ。

つまり失敗に関する正しい情報に触れることで「失敗ギャップ」が短縮するのである。

「失敗ギャップ」によって人々が問題(失敗)の発生頻度を過小評価するとそれを解決しようとする問題意識も低下するのだが、人々が正しい情報を知ることができれば「失敗ギャップ」を短縮させたり解消することができるのだ。

そして前出のセクシャルハラスメントの件のように、実際の失敗の実態を共有するだけで、認識の変化を促すことができることも明らかになった。場合によっては、説得力のあるメッセージよりも効果的な場合もあるということだ。

ある研究では、現在200万人のアメリカ人が清潔な飲料水を利用できないという事実を知った後の方が、環境団体の政策提言を読んだ後よりも、人々は清潔な水に関する取り組みを支持する意欲が高くなったことが報告されている。

あるグローバル企業では、女性の産後健康問題の実際の発生率(出産後6カ月以内に94%の母親が健康上の問題を抱える)が周知されたことで、管理職の間で有給産休延長への支持が高まり、育児休暇の延長などのより支援的な取り組みが促されたという。

このように失敗から学ぶことは多く、失敗がどれほど起こっているのかを正確に知ることは重要である。そして「失敗ギャップ」をなくすためにも、社会は“失敗の可視化”に正面から取り組んでいかなければならない。

※研究論文
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fpspa0000468

※参考記事
https://www.psypost.org/new-psychology-research-shows-people-consistently-underestimate-how-often-things-go-wrong-across-society/

文/仲田しんじ

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北海道生まれ東京育ち。学業ドロップアウト後、小説家を志しつつ広告代理店営業マン、任期制陸上自衛官、家電販売員などを経て経て出版業界へ。アスキーなどで編集者として勤務した後、フリーライターとして活動。科学から心理学まで幅広いテーマを執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。 X: @nakata66shinji

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