薄毛に頭を抱える人が注目する毛髪再生医療の分野で、発毛に関与する〝第3の細胞〟が発見された。これによって頭髪事情はどう変化していくのか。研究チームを率いるキーマンにAGA治療の未来を聞いた。

オーガンテック
取締役会長
辻 孝さん
再生医学研究者としてこれまでに様々な研究機関に従事。三次元的な器官再生を可能にする細胞操作技術「器官原基法」開発のチームリーダーも努めた。
AGA治療の進化と現在地

AGA治療の最先端を走る毛髪再生医療という救世主
生え際やつむじで進行する薄毛に悩み、クリニックでAGA診療を受ける人は、世代を問わず増えつづけている。AGA治療の大きな転換機となったのは、1970年代のことだ。高血圧の治療薬として開発したミノキシジルに、全身の毛が濃くなる副作用があることに注目した研究者たちが、発毛剤としての転用を考案。その後のAGA治療の中心となっていった。
00年代に入ると米国で前立腺肥大症の治療薬『フィナステリド』を使い、脱毛の根本原因である男性ホルモンを制御する治療法が登場。2000年代以降は、薬物療法以外の選択肢も拡大している。
そして現在、AGA治療の最終形として期待されているのが、自分の毛髪細胞を培養して頭皮に移植する毛髪再生医療だ。中でもこの分野で大きなブレイクスルーといわれるのが、理化学研究所とオーガンテック社が発見した第3の細胞を使った再生治療法である。
毛包器管の原基を作る毛包再生医療の基本技術

後頭部から毛包再生に関与する細胞を採取した後、専門の施設で毛包器管の原基(タネ)を培養。それを毛穴へひとつひとつ移植する。これまでは上皮性幹細胞と毛乳頭細胞のみを使った技術だった。
世界中から歓喜の声!
〝第3の細胞「毛包再生支持細胞」特定の衝撃〟のワケ
今年2月に報じられた第3の細胞発見のニュースの影響で、再生医療ベンチャーのオーガンテックには業界内外から様々な問い合わせが殺到しているという。第3の細胞発見の何が画期的なのか? その役割など衝撃の理由を紹介する。
約50年間未解明だった仮説を実証

髪が頭皮に伸びるのは、毛包が皮膚の奥に根を張るように成長しているから。3つの細胞により毛包を再生したマウスは毛流まで再現された。
第3の細胞の役割はダウングロース支持機能

マウスによる実験では、2つの細胞に毛包再生支持細胞を加えることで毛包が完全に再生。線維芽細胞や脂肪細胞とする従来の仮説は覆された。
発毛器官を生体外で完全再現


コラーゲンをゲル状にしたコラーゲンゲルの粘性を使用。オーガンテックは体外培養だけでなく3つの細胞を正しい順番で縦に積み重ねることにも成功した。

しっかりした再生毛が形成されている。再生した毛包は生体外で完全にダウングロースして成長期の毛包になった。
第3の細胞の発見によってふさふさの髪の毛がよみがえる
薄毛の根本原因は、髪を生成する〝毛包〟と呼ばれる器官の萎縮だ。オーガンテック社の辻孝博士率いる研究チームは、2010年より毛包再生研究を続けてきた。
「毛包再生には髪のもととなる〝上皮性幹細胞〟と毛の種類や周期を司る〝毛乳頭細胞〟が重要であることは既知の事実でした。一方で、毛包が成長期に入り発毛するには、〝第3の細胞〟の存在が不可欠とされながらも、その正体は長らく不明だったのです。線維芽細胞や脂肪細胞とする従来の仮説に対し、私たちは毛包のバルジ領域周囲の間葉領域にて、毛包の成長を強力に支える新たな細胞集団を発見しました。それが、毛包が皮膚深部へと伸長するダウングロース現象を主導する、第3の細胞〈毛包再生支持細胞〉なのです」(辻博士)
第3の細胞が分裂し、毛根の先端を皮膚の奥へと力強く押し進める発見こそが従来の研究を覆す画期的な成果だ。これら3種の細胞を縦に積み重ねて配置することで、完全に機能する毛包が再生されることがマウス実験で実証された。
実際にどのような工程で施術は行なわれるのか。辻博士は解説する。
「後頭部から3つの細胞を採取し、専門設備で約3週間かけて毛包細胞を培養。そしてタネを再生し、毛穴へ1箇所ずつ注入することで、後頭部の1本の毛包から100本もの髪を再生できることが最大のメリットです。施術により幹細胞が一度定着すれば、自然なヘアサイクルが回復。以後は治療をせずとも一生涯、髪が再生しつづけます」
今後は第3の細胞を脱毛症部位に注入する療法を27年に実施予定。その後、第3の細胞を加えた毛包のタネの移植を28年までに、さらに生体外培養した再生毛包の移植(第3世代)を30年代までに実現することを目標としている。
「第3世代の決定的な違いは、生体外で培養して、種から苗を作って移植すること。稲作と一緒で、もみを撒いて生えたものを取るよりも、ちゃんと苗になったものを植える方が確実です」(辻博士)
コスト面は、カツラなどを一生涯使用するのと同等の2000万円程度と試算するが、段階的にコストダウンを図り、現在の植毛治療と同水準の500〜1000万円程度に抑えてたいと話す。
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