DIME2026年7月号では、「不動産のウソ、ホント」を大特集。映画『正直不動産』と大コラボし、不動産の買い時を徹底検証!住宅価格高騰の今知るべき不動産の「ウソ・ホント」を専門家と解き明かしていく!
今回は、賃貸にかかるリアルコストの節約術を紹介する。
不動産価格の上昇で増えつつある、家賃値上げの打診。しかし、実は納得できなければ拒否できることは知っているだろうか。敷金礼金から退去時費用まで、知らないと損する「賃貸コスト」の抑え方をプロが解説!

ニッセイ基礎研究所
渡邊布味子さん
不動産市場や不動産投資を専門とする。東海銀行(現三菱UFJ銀行)、総合不動産企業などを経て2018年5月より現職。
原則拒否が可能!〝家賃の値上げ〟
合意なき値上げに義務はない。ただし交渉は誠実に
物価高の影響から値上げの打診が増えているが、「必ずしも応じる義務はない」とニッセイ基礎研究所の渡邊布味子さんは断言する。
「日本の借地借家法では、賃借人の権利がとても強く、納得ができなければ拒否できます。売買が一度の取り引きで完結するのに対し、賃貸は最初に約束した家賃を払いつづける限り継続する仕組みです」
仮に交渉が難航したとしても、即座に立ち退きを迫られるなどの心配はない。
「所有権よりも賃借権が強力に保護されるのが、賃上げと立ち退きの局面です。借主はこれらの要求に対し、法的に極めて強い立場にあります」
ただし、一方的に突っぱねるのではなく、大家(賃貸人)や管理会社と誠実に対話することも重要だ。
「法律はあくまで心の拠り所。応じるか拒否するか、あるいは折衷案を探るかは自分次第です。正当な防衛ラインを正しく理解して交渉に臨むことが、無駄な出費を抑える最良の手段になるのです」
〝賃貸借契約〟と、その〝更新〟を正しく理解しよう

賃貸借契約とは建物の使用と賃料の支払いを軸に、賃貸人と賃借人双方の合意で成り立つ継続的な関係だ。そして家賃など賃貸借契約の条件を互いに再確認する重要なタイミングが「更新」なのだ。
法律で定義されてはいない〝更新料〟
慣習や判例に基づく入居前の相談がベスト
更新料は民法等に規定はなく、過去の判例によって判断される。
「地域ごとの慣習も強く、更新料という文化自体が存在しない地域もあります」
一度契約を交わすと後からの減額は困難なため、交渉は入居前に行なうのが原則だ。
「ただし、周辺相場を調べた上で、家賃値上げの打診時に『ほかは1か月分なので相談できませんか』と切り出す余地はあります」

地域によっても有無が異なる〝敷金礼金〟
夏の交渉は可能性UP!信頼できる仲介業者を探そう
初期費用の仕組みもまた、地域で全く異なる。
「例えば関西では、敷金を多めに取って、一部を礼金のように返金しない『敷引き』という仕組みが一般的です。エリア内の慣習や相場を把握することが重要です」
注意が必要なのが「敷金礼金ゼロ」の物件だという。
「初期費用を抑えられる反面、その分を回収するために賃料が割高の物件もあります」
交渉する時期として、入居者が決まりにくい夏場の閑散期を渡邊さんはおすすめする。
「早く空室を埋めたい大家側の心理が働くため、交渉の余地が生まれます。物件の資産価値や利回りに直結する家賃を削るよりも、一時金である初期費用の方が、大家側の心理的ハードルは低いのです」
ただし、無理に自分で交渉するより、信頼できる仲介業者を味方にするのが賢明だ。
「引っ越し予定の地域の不動産業者と仲良くなっておくことが得策です。そうすれば『礼金を免除してくれたら即決します』といった、直接伝えると角が立つ交渉でも、無理のない範囲で代わりに聞いてくれるかもしれません」
プロと仲良くなっておくメリットはそれだけではない。
「市場に出る前の優良物件を優先して紹介してもらえることがあります。また、家賃は周辺の治安や物件の状態も含めて決まるものです。そうした点についても客観的な意見をくれる不動産業者と関係を築くメリットは大きいのです」
餅は餅屋、それは不動産業界も同じなのだ。

物価高の昨今、請求金額も上昇傾向〝退去費用〟
国交省のガイドラインが基準。一部費用は交渉の余地あり
退去費用は契約書の記載内容、および国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいて決定される。
「書面やガイドラインに従った範囲を超える請求に対し、借主側が配慮する必要はありません。それは不動産投資家が負うべきリスクだと考えます」
退去費用の代表例がエアコンクリーニング代だが、安価な業者を自ら提案する余地はある。
「実費で支払う代わりに、その分の請求を外してほしいという交渉は可能です。管理側で業者指定がある場合は難しいですが、試みる価値はあるでしょう」
なお、故意の破損がない限り、修繕費用は原則として敷金の範囲内で収めるべきものだ。
「高額な請求に困ったら、信頼できる不動産業者に相談しましょう。また、自治体には無料の弁護士相談窓口があるので、そこで判断を仰ぐのも良いかもしれません」
年うん万円節約できる……? 番外編:事故物件
圧倒的な安さを追求するなら「事故物件」は有力な選択肢のひとつだ。前の住人が亡くなるなどの事情がある〝ワケあり〟物件で、家賃が通常の半額程度まで下がるケースもある。ただし、入居後に生活に支障をきたす異変が起きる可能性には注意が必要だ。貸主には「建物を使える状態で貸しつづける義務」があるため、深刻な異変で住環境が損なわれれば対策を要求できる。リスクを承知のうえで検討したい。

各コスト共通の交渉術まとめ!
【1】相談したいことは更新のタイミングにまとめて伝えよう
更新は契約条件を見直す好機だ。家賃値上げは更新の数か月前に行なわれるため、周辺相場を調べるなど入念な準備が不可欠。一方的な通知に怯えず、誠実な対話で妥当な落とし所を探ろう。
【2】法律を正しく理解しておくべし
借地借家法は借主を守る最強の盾だが、むやみに振りかざすと不要なトラブルの種になる。大家と円満な関係を保ち、交渉を円滑に進めるためにも、法律を正しく理解しよう。
【3】時間をかけても契約書をスミまで読み込むべし
賃貸借契約において、契約書は強力な効力を持つ。最初に決めた条件を守る限り、借主の権利は非常に強い。記載のない要求が来た際、交渉の根拠となるように、書面は隅々まで読み込んでおこう。
取材・文/桑元康平=すいのこ イラスト/岩井勝之 編集/轡田緒早
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