「海外旅行って、こんなに高かったっけ?」
ここ数年、航空券やホテルの価格を調べるたびに、そうため息をつく人は少なくないだろう。かつて、海外旅行は学生や若手社会人でも比較的気軽に楽しめるレジャーだった。それがいまではかなり特別なイベントに近づきつつある。
ご存じの通り、最大の要因は急速な円安と世界的なインフレだ。コロナ前の2019年頃、ドル円相場は1ドル110円前後で推移していたが、近年は160円程度まで進む時期もあり、足元でも円安が続いている。
さらに、コロナ禍からの世界的な観光需要の急回復に伴い、現地のホテル代や外食費も高騰した。欧米ではビジネスホテルのような一般的なホテルでも1泊3万円を超え、ランチだけで1人5000円以上の出費となることも珍しくない。燃油サーチャージの存在も大きい。国際情勢や原油価格高騰の影響で引き上げが続き、たとえ航空券自体は安く見えたとしても、最終的な総額が想定外の値段になるケースも多い。
のしかかる「見えないコスト」
このコスト高の波は、日本人が「安く行ける海外」として愛してきたアジアや身近なリゾートにも押し寄せている。
例えばタイは、物価が安く三連休にふらっと行く人もいるような人気の渡航先だったが、現在は「円安バーツ高」が進行している。特にバンコク中心部のホテル料金は高騰し、以前のようなお得感は薄れつつある。
同じく「近くて安い」の代表格であった台湾も、台北の人気エリアでは週末のホテル価格が日本の都市ホテル並みになることもしばしば。「身近なアジア圏=物価が安い」というかつての常識は、徐々に通用しなくなっている。
さらに、定番のリゾートであるハワイに至っては、一定の覚悟がなければ訪問できない地域となった。円安の影響で例えばスーパーのベーグルが1つ700円、缶ビール1本が1000円といった水準に達しており、1泊5万円のホテルでも「いいほう」という状況だ。ショッピングや食を楽しみにハワイへ行く人も多いが、懐を気にせず思い切り遊ぶことは非常に難しくなっている。
「安さ」から「タイパ・失敗しない」へ。旅行スタイルの劇的変化
こうした時代を迎え、日本人の旅行先選びや、旅に対する価値観は根本から変化している。
かつては「安い航空券を手に入れてできるだけ長く滞在し、多くの国を巡る」というスタイルに憧れる人も多かった。しかし現在は、コストパフォーマンスだけでなくタイムパフォーマンスが強く意識されている。せっかくの旅行で長距離移動や複雑な乗り継ぎで消耗したくないと考え、「短期間でも確実に満足感が得られるか」が重視されるようになったのだ。
また、なんとなくふらっと行って到着後に観光地やレストランを調べるのではなく、確固たる目的を持って旅先を決めるパターンも増えている。
特に韓国では、美容施術やコスメ購入を主目的にした渡航も定着しつつある。2泊3日の短期滞在でクリニックや化粧品店を集中的に回るスタイルで、旅行と美容を一体化して考える感覚だ。ライブやアイドルイベントなど推し活を軸に海外へ行くケースも増えており、もはや観光は「おまけ」のような旅行スタイルも定着しつつある。
また、現地のグルメ情報などは事前にSNSで徹底的に収集し、限られた時間とお金で最大限の満足を得る「失敗しない旅行」を組み立てる傾向も顕著だ。「せっかく高いお金を払ったのに、SNSで見た人気店が予約必須で入れなかった」「移動に時間を取られ、思ったより観光できなかった」など、損した気持ちになることを避けたいという心理が背景にある。
さらに、eSIMや翻訳アプリ、海外キャッシュレス決済の普及により、現地でのSIM手配や両替といった心理的ハードルや手間は劇的に下がった。そのぶん、旅行者はよりシビアに「その旅費に見合う質の高い体験ができるか」にこだわるようになっている。海外旅行は「気軽な娯楽」から「慎重に選ぶ消費」へと変わりつつあるのだ。
円安・インフレ時代の現実的な選択肢は?
では、今の時代において「現実的な渡航先」はどこなのだろうか。
まず筆頭に挙がるのは、やはり韓国や台湾だ。旅行アプリ「NEWT(ニュート)」は予約データを基に、29歳以下の25年の夏休みにおける海外旅行トレンドを調査。予約ランキングの1位は韓国、2位台湾、3位フィリピンという結果となった。
これらの旅先は、フライト時間が短く、2~3日の短い日程でも海外気分を満喫できる。以前と比べて高くなったといっても、やはりほかの国へ遊びに行くよりは低価格だ。中心部のホテルは高価格だが、繁華街から少し離れていてもアクセスの良いエリアのホテルや、清潔感のあるお得なユースホステルなどを利用すれば出費を抑えられる。
また、新婚旅行など特別感のあるイメージから、これまで気軽な旅行先の候補としては挙がりにくかったインドネシアのバリ島(インドネシア)が、いまダークホース的な存在として注目されている。ほとんどのエリアで旅費が上がっているなか、2024年との比較では2025年にバリのお得感が高まったというデータもある。ハワイ旅行が高騰しているいま、リゾートに行きたい人にとってバリ島は穴場かもしれない。
乗り継ぎを有効活用!
ヨーロッパやアメリカなど、もっと遠くに旅行したいという人には、1週間ほど時間を確保できるのであれば乗り継ぎ便(トランジット)の活用をおすすめしたい。
あえて中東やアジア、ヨーロッパのハブ空港を経由し、乗り継ぎ時間が長めの便を選ぶ。そうすると、移動のついでにもう1都市楽しめるというわけだ。
筆者は過去にヨーロッパへ旅行した際、ポーランドのワルシャワで12時間、韓国の仁川(インチョン)で15時間ほど乗り継ぎの時間があった際、中心地まで行って観光したり、地場のグルメを楽しんだりしたことがあるが、一石二鳥でお得な気分だった。
シンガポールのチャンギ空港でトランジットする人には、乗り継ぎ時間に楽しめる予約制のツアーも用意されている。例えば、マーライオンやマリーナベイサンライズなどで写真が撮れる「市内観光ツアー」や、無料でシンガポールの南海岸をめぐる2.5時間の「セントーサ・ディスカバリーツアー」など、かなり充実した体験ができそうなラインナップだ。
直行便の価格が高騰する中、移動のプロセスそのものを旅として楽しむハック術があることも覚えておきたい。
安さから「納得感」で選ぶ時代へ
海外旅行は、もはや学生や若者が簡単にできる娯楽ではない。それでも多くの人が海を渡りたくなるのは、日本とは異なる景色、食、空気に触れたいという純粋な欲求があるからだ。
いま問われているのは、「どこが一番安いか」だけではなく、「限られた予算と休暇の中で、どこに満足感を求めるか」である。近距離をこまめに攻めるもよし、トランジットを旅として楽しむもよし、思い切って国内の贅沢にシフトするもよし。円安とインフレの時代、私たちの渡航先選びは、安さよりも納得感で選ぶ本質的なフェーズへと突入しているのだ。
文/田中節子
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