ショッピングの〝相場化〟

Amazonなどの通販サイトで定期的に同じ商品を買っているという人はそれなりに多いとは思うし、筆者もその一人だが、特に最近気づかされるのは毎回の購入時に価格が微妙に異なっていることだ。
もちろん航空券やホテルの宿泊料金などが変動することは知られているが、さらに幅広く商品やサービスの価格を需要と供給のバランスに合わせてリアルタイムに変動させる価格戦略「ダイナミックプライシング(動的価格設定)」が昨今ますます消費の現場に普及してきている。
複雑化する消費の現場だが、「Business Insider」の記事によればあるアパレルECでは頻繁な価格変動が行われており、オンラインカートに入れた商品の価格が数日間で何度も変動していることが報告されている。値上がりすることもあれば、値下がりすることもあり、場合によっては、しばらく待つことで最大17%の割引が適用されるケースもあったという。
これまでの定期的なバーゲンセールではなく、頻繁に価格を変動させることによって企業側がどれほどの利益を得ているのかよくわからないが、企業は消費者がいつ、どのように支出しているかについてより多くの情報を持っていることは明らかだ。
確かに何となく気に留めている商品がある日、たとえわずかであれ値下げしているのを知ってしまった場合、必要性は低くとも思わず購入してしまうかもしれない。今買わなくては価格が戻ってしまう可能性があるからだ。
このようにもはや定価の概念がなくなりつつあるのだとすれば、今や我々消費者が日用品のデイトレーダーになりつつあるとも言える。ショッピングの〝相場化〟がますます進んでいることは間違いなさそうだ。
客によって価格が変動している

そしてさらに時代は進んでいる。
アルゴリズムによるデータ分析が高度化し、企業が顧客に関するデータを蓄積するにつれ、小売業者は個人データに基づいて価格を変動させるという、きわめてターゲットを絞った個別的な価格設定をますます容易に行えるようになっており、この手法は「監視価格設定(surveillance pricing)」と呼ばれている。
米「Money」誌が5月14日に発表したレポートによると、AIを活用した監視価格設定は、特定の時期に消費者が商品にいくら支払うかを正確に判断する能力をますます向上させており、アメリカの消費者擁護団体は小売業者がアルゴリズム技術と個々の消費者の購買習慣、履歴、行動に関する洞察力を駆使することで、値札の意味が失われる可能性があると警告しているという。
Amazonのような大手ECプラットフォームは、長年にわたり継続的なリアルタイム価格変更を行っており、企業は匿名化および集計されたデータを使用して、ますます複雑な顧客プロファイルを作成している。たとえば航空会社はこうしたシステムを利用して、直前予約のビジネス旅行者などから最大限の利益を得ようと試みているという。
同レポートはまた、昨年「Consumer Reports」誌が行った複数の食料品チェーンによる価格比較実験に関する調査にも言及している。
調査によると、アルバートソンズ、コストコ、クローガー、セーフウェイ、スプラウツ・ファーマーズ・マーケット、ターゲットなどの小売業者が、消費者に知られることなくアルゴリズムによる価格設定を行っていたという。
「一部の買い物客は、全く同じ商品を、全く同じ店で、全く同じ時間に購入したにもかかわらず、ほかの買い物客が購入できる価格よりも最大23%も高い食料品価格を発見した」(同レポートより)
同じ商品の価格が最大23%も変動しているということは、これにより4人家族の年間食費が最大1200ドル(約19万円)増加する可能性があるという。
同誌によれば食料品の価格が上昇基調にある昨今、多くの家庭が食費を少しでも節約しようと懸命に努力している中、戦略的な価格変動が消費者の懸念を引き起こしているということだ。
監視価格設定の禁止の動き
消費者擁護団体は監視価格設定を「パーソナライズされた価格の吊り上げ」と呼んでおり強く反対していることから、アルゴリズムによる監視価格設定は実際にいくつかの州で禁止の方向へと動いている。
「Money」誌によると、26の州で50以上の法案が提出されており、特に食料品などの生活必需品を扱う場合、この技術を制限または禁止することを目的としている。
ニューメキシコ州とオレゴン州選出の民主党上院議員2名は今年2月、食料品店がテクノロジーを用いて個別の価格を設定することを禁止する法案を提出した。この法案では、店舗に対し顔認証技術の使用を開示することを義務付け、大手スーパーマーケットによるデジタル値札の使用を禁止する内容となっている。
大手小売業者はデジタル値札の導入により価格をほぼ瞬時に変更できるようになっているが、問題はそれが〝便乗的〝に行えてしまう点にある。
法案を提出した議員たちは、特に食料品などの生活必需品に関して、こうした慣行やそれを可能にする技術を制限、規制、または禁止することを目指している。
全米最大の食料品小売業者であるウォルマートはすでに約2300店舗でデジタル値札を導入しているが、同社は今年3月、年内に全米の店舗でデジタル値札を導入する計画を発表した。同社はこの技術を変動価格制の導入や顧客データの収集には使用しないとしている。
監視価格設定に対処するためにこれまで以上に賢い消費行動が求められているのだが、やはりある程度は小売り側が規制されてしかるべきなのかもしれずしばらく議論は続きそうだ。
※調査レポート(Money)
https://money.com/surveillance-pricing-grocery-laws/?xid=moneyrss
文/仲田しんじ
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