AIが秘書のようにタスクをこなす「AIエージェント」が、スマホにも徐々に搭載され始めている。このような中、ドコモが新たに始めるのが「SyncMe」というAIエージェントだ。最大の特徴は、dアカウントに紐づいた個人情報を活用して、ユーザーのことを理解していること。dポイントやd払いといったドコモのサービスに蓄積された情報を使い、個人の趣味嗜好や生活パターンなどを把握したうえで、AIが回答を返す。
現在、SyncMeはモニターを募って試験的にサービスを提供しており、夏ごろに正式版が投入される予定。各種サービスを簡単に利用するためのツールとしても、期待されている。筆者は、このモニターサービスに応募し、当選した。ドコモ歴も13年以上(MNPで出戻りがあるため、合算すると期間は20年を超える)と長いため、蓄積された情報がどのように活用されるのかに興味があったからだ。
あくまで正式サービスではなく、まだ機能は限定されているものの、モニターサービスでどのようなことができるのか、その概要をつかむことは可能だ。これまで、「iコンシェル」や「my daiz」で、コンシェルジュ的なサービスを志向してきたドコモだが、それが生成AIと組み合わさることでどのような利便性を発揮できるのか。モニター版を元に、その使い勝手をレビューしていく。
初心者でもとっつきやすいUI、AIチャットとして一通りの会話は可能
「パーソナルデータを活用した、エージェント型のAI」と横文字を使うと、何やらとても難しいサービスのように聞こえてくるが、SyncMeのユーザーインターフェイスは、そのイメージとは真逆。どちらかと言えば、AIになじみがないユーザーでも気軽に話しかけられるよう、工夫されている。同アプリは「ワラピィ」「ヨミドーリ」というキャラクターが前面に出ており、雰囲気は緩い。あたかもゲームのような印象すらある。
キャラクターから吹き出しが出て、先回りして会話を提案しているところは、既存のAIサービスにはないユーザーインターフェイスだ。例えば、Androidに標準搭載されるGeminiは、チャットボックスが表示されるものの、Gemini側から何かを話しかけてくることはない。そのため、AIに慣れていないと、何を聞いたらいいのかが分からないことがある。会話を提案してくるSyncMeは、この点が親切設計と言える。
会話のきっかけになる吹き出しは、筆者の個人情報に基づいているものと思われる。初期設定時には、20枚の写真をアップロードして、dアカウントに紐づいている情報に合わせて趣味嗜好を判定しているようだ。また、チャットの履歴も覚えているようで、4月にハワイ旅行のプランを立ててもらったら、5月に「そろそろハワイ旅行だね」という吹き出しが表示された(実際には帰ってきた後だったのだが……)。会話をすればするほど、こちらの情報を理解するという打ち出しは本当のようだ。
AIが自分を理解できるように、こうした会話は積極的に行っていった方がいいだろう。その意味では、ガチのビジネスユースというよりも、気軽な相談相手といったところ。ChatGPTを「チャッピー」という愛称で呼ぶようなユーザーの、やや緩めな使い方を想定していることもうかがえる。とは言え、そのエンジンには本格的な生成AIが使われているため、複雑な質問をすることも可能だ。
例えば、「直近でソフトバンクが打ち出した新料金プランの概要を分かりやすく教えて」とあえて他社のことを聞いてみたところ、6月にスタートする「ペイトク2」や「テイガク無制限」の概要を教えてくれたうえに、筆者のスマホの使い方に基づき、データ容量は無制限の方がいいといったアドバイスまであった。他社のことなのに、意外と詳しいうえにフラットだ(笑)。並列に情報を並べるだけでなく、趣味趣向に合わせてプランの提案までした。
また、「夏休みにコストを抑えていきたい海外旅行」のお勧めをたずねたところ、ベトナム、タイ、台湾をピックアップ。それぞれお勧めの理由を挙げてきたが、その中にも、現地の鉄道や配車アプリが充実しているという筆者が重視しそうな項目が入っていた。位置情報も把握しているようで、渋谷の事務所でお勧めのランチ3選を聞いたところ、特に場所を指定しているわけではないにも関わらず、きちんと渋谷周辺のランチ情報が表示された。
文章作成なども可能、エージェント同士の対話も
もっと仕事寄りの使い方も可能だ。筆者が上梓した書籍の見本誌を献本する際の送付状を考えてもらったところ、ビジネスシーンであることを考慮しながら、テンプレートが作成された。名前などを置き換えれば、そのままコピペして使っても問題なさそうだ。ただ、コピペの際に、チャットを丸ごとコピーする必要があり、ワラピィのコメントまでそのまま残ってしまう。
そのため、WordなりGoogleドキュメントなりに貼り付けたあと、削除する編集が必要になる。先行モニター版のため、このままの仕様で出るとは限らないが、こうした使い勝手には改善が必要になりそうだ。ちなみに、上記で作られた文章をWord形式で出力してもらおうとしたが、「力不足でファイルの送信ができないよ……」と言われてしまった(笑)。エージェントを名乗るのであれば、この辺の機能もアップデートしてほしい。
また、マルチモーダルにも対応しておらず、現状だとインプットできるのはテキストのみ。そのため、GeminiやChatGPTのように、目の前にあるレストランのメニューを写して、その中からお勧めの注文を組み立ててもらったり、外国語の看板を翻訳してもらったり、使い方が分からない家電の操作を教えてもらったりといったことができない。生成AIに期待する使い方なだけに、画像やPDFの読み込みに対応していないのは残念だ。
加えて、AIエージェントとして、何らかのタスクを肩代わりしてもらうことが現時点では難しい。接続できるサービスがないからだ。買い物をする、メモを取る、メールを書く、予定を登録するなど、基本的な動作ができないは残念。この点は、現時点だとAndroidに搭載されるGeminiの方が大きくリードしている状況だ。現状では、AIエージェントというより、初期のAIチャットに近い印象もある。
便利だと思ったのは、ワラピィとヨミドーリからドコモサポートのエージェントを読み出せることだ。このサポートがなかなか優秀。個人情報を把握しているため、現在のデータ使用量や料金プランなどを理解していた。料金プランを仮に変更した場合、いくらになるかなどをサッと計算してくれるなど、思いのほか役に立った。自動で「ドコモ光セット割」を適用した金額を提示したのは、少々驚いた。
さらに、お勧めのスマホを聞いたあと、そのまま予約したいというと、ドコモサポートのエージェントが呼び出されて商品ページが案内された。こうしたエージェント同士の連携ができるのはおもしろい。やり取りも自然だった。ただ、サポートだけでは、このポテンシャルが生かせない。その意味では、正式サービス開始時に、もっとSyncMeから呼び出せるサービスが増えてくることに期待したい。
詳細まで把握するユーザー情報、深い推測だが間違いも
では、SyncMeはどこまでユーザーのことを分かっているのか。生データを確認することはできないが、SyncMeでは、「ワラピィのきろく」という項目にある、「#今のワタシの診断」というページで、その一端が垣間見える。ここでは、初期設定時と同様、20枚の写真を選択して性格などを推定するほか、dアカウントに紐づいた情報で個人のプロフィールを診断する仕組みだ。
あてずっぽうの占いとは違い、データに基づいているため、これがかなり正確。筆者の場合、総合診断として「最先端のテクノロジーとサブカルチャーを横断し、ファインダー越しに家族の愛おしい瞬間を切り取るグローバル・テック・エクスプローラー」と表示された。その根拠として、「バルセロナのMWC会場から休日のB級グルメまで、あらゆるシーンを全力で楽しむ多趣味な40代」と書かれている。
MWC会場やB級グルメは、おそらくアップロードした写真からの推定。40代という情報は、dアカウントに登録されている年齢から引っ張ってきていると思われる。これだけだと、アップロードした写真に依存しているようにも見えるが、診断では、「移動にはGOタクシーを駆使してタイムパフォーマンスを極限まで高め」といった情報や、「推定年収は800万~1000万クラス」「日常の決済にはiDやd払いをスマートに使いこなし、ポイントも無駄なく活用」など、適当に選んだ写真だけでは推し量れない情報も多数掲載されていた。
移動手段や、年収の推定、コード決済、ポイントの活用シーンが分かっているのは、dアカウントに紐づいた情報を使っているためだ。写真で性格やライフスタイルなどを補いつつ、dアカウントの情報と掛け合わせることで、個人をプロファイリングしていることが分かる。その意味では、dアカウントでログインした時点で、かなりそのユーザーのことを分かった状態からスタートしていると言えそうだ。
職業は、「外資系通信機器メーカーまたはグローバルIT企業の海外事業・マーケティング担当」となっており、残念ながらハズレだが、こうした人たちと接点が多い点では、ニアミスといったところか。写真をアップロードする際に、MWCの会場写真などを含めてしまったため、そちらに引っ張られすぎていることがうかがえる。
こうした個人情報はしっかり把握しているものの、現状では、それを生かした提案が弱い印象。サービス連携もしていないため、AIエージェントしてはまだポテンシャルを発揮できていない。かわいらしいAIチャットとしては使えるが、これは本来、ドコモがやりたいことではないはずだ。マルチモーダル化など、機能面での不足もあるため、正式サービス開始までに対応を期待したいところだ。
文/石野純也







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