AI技術の発展により、本物そっくりの「フェイク動画」を簡単に作れるようになりつつあります。
しかし、他人のフェイク動画を勝手に作って公開することは大いに問題です。犯罪に当たるケースもあり得るので、安易なフェイク動画の作成・公開は控えてください。
1. 他人のフェイク動画を勝手に作って公開した場合に成立し得る主な犯罪
本人の許可を得ることなく、他人のフェイク動画を勝手に作って公開すると、次の犯罪などによって処罰されるおそれがあります。
(1)名誉毀損罪・侮辱罪
(2)わいせつ物頒布等罪
(3)詐欺罪・偽計業務妨害罪
1-1. 名誉毀損罪・侮辱罪
名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(刑法231条)は、公然と他人の外部的名誉(社会的評価)を傷つけるような言動をした場合に成立する犯罪です。
何らかの事実を摘示した場合は名誉毀損罪、事実を摘示していない場合は侮辱罪が成立します。
たとえば、本人が言っていない不適切な発言を、あたかも本人が言ったかのように見せかけるフェイク動画を作成・公開した場合は、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
また、本人が滑稽なポーズや不適切なポーズを取っているかのように見せかけるフェイク動画を作成・公開した場合は、侮辱罪が成立し得ると考えられます。
1-2. わいせつ物頒布等罪
わいせつ物頒布等罪(刑法175条)は、次の場合に成立する犯罪です。
(a)わいせつな物を頒布し、または公然と陳列した場合
(b)わいせつなデータを電気通信の送信によって頒布した場合
(c)有償で頒布する目的で、わいせつな物を所持し、またはわいせつなデータを保管した場合
たとえば、本人が性的な姿態をとっている、あるいは性行為をしているかのように見せかけるフェイク動画を作成・公開した場合は、わいせつ物頒布等罪によって処罰される可能性があります。
1-3. 詐欺罪・偽計業務妨害罪
フェイク動画は、不正に顧客を誘引するための手段として用いられるケースもあります。たとえば、フェイク動画によって著名人が参加しているかのように見せかけ、詐欺的なスキームへの投資を勧誘する場合などが典型例です。
この場合、他人から金銭などの財物をだまし取っているため詐欺罪(刑法246条1項)が成立します。
また、フェイク動画によって他人の業務を妨害した場合は偽計業務妨害罪(刑法233条後段)の責任を問われることもあり得ます。
2. フェイク動画を勝手に公開すると、本人から損害賠償を請求されることも
フェイク動画を無断で公開することは、本人の人格を傷つけたり、業務や社会的評価に対して悪影響を及ぼしたりする可能性があります。
これらの場合には不法行為(民法709条)が成立し、本人に生じた損害を賠償しなければなりません。
損害賠償の額は、実際に本人が被った(有形・無形の)損害の大きさに応じて決まります。場合によっては、数百万円以上の損害賠償責任を負うこともあり得るので注意が必要です。
3. まとめ
フェイク動画を作成するAI技術は加速度的に発展しており、一目見ただけでは本人との判別が難しいものも出回ってきています。それに伴い、フェイク動画を悪用する人も増えている点が懸念されます。
本人に無断でフェイク動画を公開することは、名誉毀損罪などの犯罪に当たり得ます。
まだ取り締まりの事例は限られていますが、今後は取り締まりが強化される可能性がありますので、安易なフェイク動画の作成・公開は慎んだ方が賢明でしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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