長時間のデスクワークで、気づけば前かがみの姿勢になっていませんか。集中しているはずなのに「頭が回らない」と感じることがあるなら、その原因は仕事量ではなく姿勢にあるかもしれません。近年、姿勢と脳の働き、さらには認知機能との関係が注目されています。
本記事では、日常の姿勢が脳に与える影響について解説します。
「スマホ首」「猫背」が招く脳の酸欠状態
「仕事がら前かがみでパソコンを見て気づいたら、ずっと座りっぱなし」「スマホを見るとき、首が前に出ている」こうした姿勢、思い当たる人は多いのではないでしょうか。いわゆる「スマホ首」や「ストレートネック」、「猫背」と呼ばれる姿勢は、単なる見た目の問題ではありません。実はこの姿勢、脳にとって「酸欠状態」を引き起こすという重大なことになっている可能性があります。前かがみの姿勢になると、首の付け根から脳へと血液を送る血管である頸動脈や椎骨動脈が圧迫されやすくなります。その結果、脳への血流が低下し、酸素や栄養の供給が脳に十分に行われなくなる可能性があります。
さらに、猫背の状態では胸郭(いわゆる胸まわり)が圧迫されるため、呼吸も浅くなります。呼吸が浅くなると、体内に取り込まれる酸素量も低下し、動脈の血液中の酸素濃度が下がりやすくなります。実際、前かがみ姿勢が呼吸機能を低下させることは複数の研究で報告されており、結果として脳への酸素の供給にも影響を与えると考えられています。(*)
(*)Association of kyphosis index with decreased physical function and cognitive domain in community-dwelling older adults: a cross sectional study:BMC Geriatrics (2025) 25:419
脳は全身の酸素消費量の約20%を占める「エネルギー消費の大きい臓器」です。つまり、わずかな血流や酸素供給の低下でも、機能に影響が出やすい特徴を持っています。
その結果として現れるのが、
・集中力の低下
・判断力の鈍化
・思考のスピード低下
といった「脳のフリーズ状態」がおこるのです。デスクワーク中に「なんとなく頭が回らない」と感じるとき、その原因は仕事量ではなく、実は「姿勢」にあるのかもしれません。
背中が丸い人は脳も丸くなる? 姿勢と「脳の萎縮」の相関関係
猫背は一時的な不調だけでなく、長期的には脳の構造そのものにも影響を及ぼす可能性があります。近年、姿勢の異常と認知機能低下の関連が注目されています。特に「亀背」と呼ばれる強い猫背姿勢の人では、認知症の発症リスクが高いことが示唆されています。実際に、認知症患者では猫背や亀背といった姿勢異常が多く見られ、姿勢と認知症リスクの関係性が指摘されています。その背景には、いくつかのメカニズムが考えられます。
まず1つは、慢性的な脳血流の低下です。前述のように、前傾姿勢が続くことで脳への血流が不十分な状態が続くと、酸素不足から神経細胞の活動が低下し、長期的には脳の萎縮につながる可能性があります。
2つ目は、活動量の低下です。姿勢が崩れている人は、身体活動量が少ない傾向があり、これが認知機能低下のリスク要因となることが知られています。
3つ目は、呼吸機能の低下です。浅い呼吸が慢性化すると、これも脳への酸素供給が低下し続けることになり、これも神経機能に悪影響を与えます。
つまり猫背は、
・脳への血流
・身体活動量
・呼吸状態
という3つの重要な要素を同時に悪化させる「複合的なリスク状態」を引き起こすのです。
「姿勢が悪い=見た目の問題」という認識を捨てて、姿勢は「脳の未来への健康状態を映す鏡」と考えることが大切なのです。
姿勢を支える「筋肉」と「栄養」の盲点
では、なぜ猫背になってしまうのでしょうか。姿勢の問題は「筋肉や骨格の問題」と考えられがちですが、実はその背景にある「栄養状態」が大きく関わっています。その最大の原因は「筋力低下」です。特に、背中・肩甲骨周囲・体幹の筋肉が弱くなると、正しい姿勢を維持することができず、自然と前かがみの姿勢になってしまいます。
そして、その筋力低下の原因として見落とされがちなのが「栄養」の問題です。筋肉はタンパク質から作られます。つまり、タンパク質摂取が不足すると、筋肉量が維持できず、姿勢も崩れやすくなります。特にデスクワーカーや更年期世代では、
・食事量の減少
・偏った食生活
・男性ホルモンや女性ホルモンの変化
などが重なり、筋力低下が進みやすい状態にあります。また、骨の健康も重要です。加齢とともに、骨の量や質が低下し、骨粗鬆症によって背骨が圧迫されると、物理的に背中が丸くなりやすくなります。特に「閉経前後は骨量が急激に減少し、姿勢悪化のリスクが高まる」ことが指摘され、カルシウムやビタミンDなどの栄養摂取の重要性が強調されています。
つまり姿勢の問題は、
・筋肉
・骨
・栄養
という「体の土台」の問題でもあるのです。
仕事の合間、3分でできる「脳を活性化させる姿勢習慣」
では、どうすればよいのでしょうか。重要なのは「長時間同じ姿勢を続けないこと」と「こまめに姿勢のリセットすること」です。おすすめは、仕事の合間にできる簡単な姿勢のリセット習慣です。まず、胸を開く動き。肩甲骨を寄せて胸を張ることで、呼吸が深くなり、脳への酸素供給が改善します。次に、座り直しをすること。骨盤を立てて座るだけで、自然と背筋が伸び、血流が改善します。さらに、首の位置を意識することも重要です。前かがみの姿勢では、肩が体幹より前に出ていることになります。常に肩の位置が、体幹の中心にくるように意識するだけで、前かがみの姿勢が改善して頸部への負担は大きく減ります。このように、たった数分でも、姿勢をリセットすることで脳の状態は変わります。
今日の姿勢が10年後の脳を変える
猫背やスマホ首は、単なる姿勢の問題ではなく、脳への血流や酸素供給を低下させることで、集中力や思考力に影響を及ぼす可能性があります。さらに、こうした状態が長期間続くと、脳血流の低下や活動量の減少、呼吸機能の低下が重なり、将来的な認知機能の低下や認知症リスクの上昇にも関与すると考えられています。
実際に、姿勢異常と認知機能低下の関連を示唆する報告もあり、「姿勢=見た目」という認識は見直す必要があります。また、姿勢の崩れの背景には、筋力低下や栄養不足といった問題も潜んでいます。特にデスクワーカーや更年期世代では、知らないうちに姿勢を支える力が弱くなっていることも少なくありません。
重要なのは、完璧を目指すことではなく、日常の中でこまめに姿勢をリセットすることです。胸を開く、座り直すといった小さな習慣の積み重ねが、脳のパフォーマンスと将来の健康を守る第一歩になります。
文/梶 尚志
かじ・たかし。梶の木内科医院 院長・七夕医院総院長。総合内科専門医、腎臓専門医、家庭医、日本抗加齢医学会専門医、健康スポーツ医。1989年富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業。2000年、岐阜県可児市で梶の木内科医院を開設。内科医として多くの患者を診療する中で不調の背景に栄養状態が関わることに着目。分子整合栄養医学を取り入れ、子どもから大人まで栄養学的なアプローチで治療と生活指導を行い、不調の改善に取り組んでいる。2025年、七夕医院名古屋分院を開設。







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