ペットと一緒にオフィスへ出社する働き方が、海外を中心に広がっている。ペットと暮らす人にとって、愛犬や愛猫は家族同然の存在だ。毎日留守番させることを心苦しく思う人にとって、同伴出社は非常に魅力的な制度となる。
しかし実現のハードルは低くない。物件の制約やルールの整備など、具体的に何から手をつければいいのかがわかりにくいのが現状だ。
ペットフレンドリーオフィスの導入支援を手がけるJPB株式会社 取締役 行光 基氏に、必要なステップと現実的な始め方を聞いた。

ペット同伴出社はどこまで進んでいるか

ペット同伴出社自体は以前から存在する。例えば米国のAmazon。創業初期から犬同伴の文化を持ち、本社キャンパスには犬専用の設備を備えている。
しかし、こうした取り組みが一部の企業にとどまらず広がり始めたのは、コロナ禍以降のことだ。在宅勤務が長期化するなかで、世界的にペットを新たに飼い始める人が増えた。出社が再開されると、ペットを自宅に残して出勤しなければならないという問題が浮上し、GoogleやSalesforceなどの大手企業もオフィスへのペット同伴を認めるようになった。欧州でもEU機関の施設内で犬の同伴を認めるかどうかが議論され始めている。
日本にも先行事例はある。ネスレ日本は神戸本社でペット同伴出勤制度を導入しており、富士通は川崎オフィスに犬と一緒に勤務できる「Dog Office」を設置した。ペットフード事業を手がけるバイオフィリアは、同伴出社に加え、ペットの忌引き制度や扶養制度も整備している。
ただし、こうした企業に共通するのは、ペット関連事業を手がけているか、設備投資に余裕のある大手企業だという点だ。
不動産サービス大手のJLLは、日本のテナントオフィス市場でペット同伴を認めるビルがほぼ存在しないことを指摘しており、物件の制約が導入の障壁になっている。
動物医療グループが導入支援を始めた経緯

こうした状況のなかでペットフレンドリーオフィスの導入支援を事業化したのが、千葉を拠点とするJPB株式会社だ。
7つのグループ動物病院の運営を中心に老犬ホームの医療支援なども行い、スタッフは80名を超える。獣医師のほか動物看護師やトレーナーが在籍しており、グループ全体の年間診察件数は50,000件以上にのぼる。また、動物病院の採用や人材定着を支援するHR事業も展開しており、動物の医療と人事の双方に知見がある。
ペットフレンドリーオフィス事業は2025年3月に始まった。同社が運営する「SPM制度」という学生向けの事業創出インターンシップがきっかけだ。
「学生と一緒に新規事業をつくるインターンがあり、そこで発案されたのがペットフレンドリーオフィス事業です。獣医師やトレーナーが安全面・衛生面をサポートできること、動物病院向けのHR支援で培ったノウハウを企業の人事課題にも応用できることから、事業化を決定しました」
導入は目的の明確化から始まる
企業がペットフレンドリーオフィスの導入を検討する理由は、ペットと暮らす社員への配慮だけではない。企業が抱える様々な課題の解決策としても、ペットフレンドリーオフィスは選択肢になりうる。
出社が再開されたものの対面でのコミュニケーションがうまくいかない、1on1面談を実施しても本音が引き出せないといった人事面の課題に対して、ペットの存在を活かすという発想だ。ペット同伴出勤を認める企業はまだ少ないため、採用の差別化にもつながる。
目的が異なれば、導入の進め方も変わる。そのため、ペットフレンドリーオフィス導入の道のりは、目的を明確にすることから始まる。
「導入する目的に合わせてプランを練り、ペット可のオフィスであれば週1〜2回のトライアルからスタートします。少ない日数から始めることで、実際に起こりうる課題が見えてきます。同時にオフィス内での同伴ルールも策定していきます。導入して終わりではなく、導入後もトレーナーによる定期セミナーを実施し、フォローアップを行っていきます」
施設の状況にもよるが、初回の面談からおおむね3か月でトライアルを開始できるという。JPBとのサポート契約は初回6か月、以降3か月ごとの更新で、導入後も継続的にサポートを受けられる体制になっている。
事前のルール作りでリスクを抑える
導入を検討する企業が懸念するのは、職場の生産性への影響だ。ペット同伴出社を実施した企業では、応募者が増えたというプラスの報告がある一方で、ペットに夢中になって業務に集中できなくなるケースや、鳴き声が周囲の作業を妨げるケースも報告されている。
「ペットは飼い主にとって、どうしても可愛い存在です。そのため、様子が気になって仕事に集中できなくなることも考えられます。また吠える犬を連れてきてしまうと、一緒に働くメンバーの生産性が下がってしまう可能性も。連れてくるペットの性格を事前に判断することや、頭数制限などのルールを設けたうえで、運用しながら検討を続けていきます」
ルールは最初から固定するのではなく、トライアルを通じて調整していく方針だ。JPBには獣医師やトレーナーが在籍しており、ペットの行動面について専門的な判断ができる体制が整っている。
ペットが苦手な社員やアレルギーを持つ社員への配慮も欠かせない。JPBは、まず会議室1つをペット可にするといったスモールスタートを推奨している。ペットがいるエリアといないエリアを分けることで、すべての社員が無理なく働ける環境をつくることが重要になる。
月額5万円、大がかりな設備投資は不要
導入にかかるコストはどの程度か。JPBのサポート費用は月額5万円(税抜)で、導入から運用までのサポートがこの費用に含まれる。数頭の犬からのスタートであれば専用のスタッフを置く必要もないという。
では、オフィスの設備面にはどの程度手を加える必要があるのか。
「内装を一気に改装することは推奨していません。トライアルを経て中断するリスクもあるからです。ペットがいる場所だけ最低限の環境を整えれば、大きなコストをかけずに始められます」
なお、テナントオフィスの場合は管理会社への事前確認が必要になる。社内の合意形成も含め、金銭以外の課題は残るが、コスト面に限れば導入のハードルは高くない。
まずは保護犬・保護猫との触れ合いから
テナントの制約や社内の合意形成がすぐには難しいという企業に対し、JPBは本格導入の前段階として別のアプローチも用意している。社内イベントや研修に、保護犬・保護猫との触れ合いの時間を組み込むというものだ。
同社が2024年7月に設立したNPO法人Link toと連携し、保護犬や保護猫をオフィスに招いて社員が直接触れ合う場をつくる。ペットフレンドリーオフィスの導入準備であると同時に、保護犬・保護猫の存在を知ってもらう機会にもなる。
「たとえば保護犬や保護猫がそばにいる場で上司と部下の1on1ミーティングを行えば、動物がいることで普段より話しやすい雰囲気が生まれるかもしれません。本格導入の前に、職場に動物がいると何が変わるのかを社員に体感してもらうことができます」
日本でのペット同伴出社の普及には物件の制約や文化的な背景もあり、すぐに広がるものではないだろう。しかし、導入のハードルは想像ほど高くないこともわかった。月額5万円で専門家のサポートが受けられ、大がかりな設備投資も必要ない。まずは保護犬・保護猫との触れ合いイベントから始め、効果を確かめたうえで本格導入に進むという段階的な方法もある。
ペット同伴出社は「癒し」の文脈で語られることが多いが、JPBが提案するのは、採用やコミュニケーションといった企業の人事課題に対するアプローチだ。
出社回帰が進むなかで、社員にとって出社する意味のあるオフィスをどのようにつくるかは、多くの企業が向き合っているテーマだろう。ペットフレンドリーオフィスは、その答えの一つになる可能性がある。
取材・文/宮﨑駿
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