ソニーリサーチ株式会社の一部門として研究開発に携わるソニーAIは、2026年4月23日、ロボットと人工知能(AI)領域の飛躍的進歩として、Aceの研究成果が国際科学誌Nature(第8110号)に掲載され、当該号の表紙にも採用されたことを発表した。
このAceとは、一流およびプロレベルの卓球選手と現実世界において対戦できる世界初の自律システム、卓球ロボットだ。
同社では、「本研究はAIとロボット領域の研究において長年重要な到達点とされてきた『ロボットが現実世界のスポーツ競技で一流のプレイヤーと肩を並べるプレイ』を初めて実現した事例です」と説明している。
以下、その発表内容を、同社ブログをベースにお伝えする。
仮想世界から現実世界への飛躍
過去数十年間、AIシステムはチェスから囲碁、複雑なビデオゲームまで、デジタル領域で超人的なパフォーマンスを実証してきた。しかし、現実世界、特に認識・計画・制御を1000分の1秒レベルで行なうことが求められるフィジカルな分野へのAIの応用は、この領域において最も重要な課題の1つであった。
そんな中にあってAceは、ソニー独自の先進的なセンサー技術、強化学習、精密なハードウェアを組み合わせたシステムとして誕生。
卓球台との衝突を避けるといった動作が制限される環境下で、人間の反応速度の限界に迫るような高速かつ高精度なインタラクションが求められる対戦型スポーツにおいて、一流選手レベルのプレイを実現する。
Aceの研究開発には、ソニーAIが手掛け、仮想空間における高速レースの中で超人的な動きを可能にしたAIエージェント「グランツーリスモ‧ソフィー」という革新的な研究をベースにしており、これを現実世界の環境へと拡大したものだ。
本研究では卓球での対戦にとどまらず、動的な環境下で高速かつ高精度な動作能力を有する人間と対戦する際、ロボットがどのように認識‧計画‧行動し得るのかについての知見を深めることも目的としている。
本研究の意義はスポーツの枠に収まることはない。高度なリアルタイムセンシングと制御を必要とする課題を解決した本研究は、動的な物理的環境における安全かつ信頼性の高い動作が可能なAIシステムの基礎を築くものだ。
その応用範囲は、安全性が極めて重要な環境から、人間の能力の限界付近でのインタラクションが結果を左右する、リアルタイム性のあるインタラクティブな領域にまで及ぶ。
■人間とロボットとのインタラクションの限界を広げる
卓球は、瞬時の判断力、正確な身体動作、そして予測不能な対戦相手に対して適応し続ける能力が求められるスポーツであるため、ロボットにとっては、非常に高難度で複雑な現実世界における挑戦となる。
ボールは高速かつ回転しながら複雑な軌道を描く。これらの要素は卓球競技において極めて重要だが、過去の研究の多くは公式試合と同等の環境を前提としておらず、特に回転については十分に対応していなかった。これらの要求に応えるため、Aceは以下に示した、新しい3つの要素を取り入れて設計されている。
・ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)のイメージセンサー「IMX273」を搭載した9台のカメラにより、高速認識システムを構築して3次元空間におけるボールの正確な位置を把握。さらに、SSSのイベントベースビジョンセンサー(EVS)『IMX636』を搭載したカメラと、パン‧チルトミラーおよび焦点可変望遠レンズを用いた3機の視線制御システムを組み合わせることで、ボールの回転の向きと速度(角速度)をリアルタイムで測定。
・事前にプログラムされたモデルに依存しない「モデルフリー強化学習」に基づく迅速な適応、および意思決定を可能にする新しい制御システム。
・俊敏な物理的インタラクションを実現するための高速で、高精度な制御が可能な最先端のロボットハードウェア。
人間の反応速度の限界に迫るパフォーマンスを実証
Nature誌で発表された研究成果は、国際卓球連盟(ITTF)のルールに基づいて、Aceと一流卓球選手5人、プロ卓球選手2人との試合で評価された。
Aceは一流選手に対して5戦3勝という結果を残し、残る2戦でも高い競争力を見せた。この他にも、評価を通じて注目すべき研究成果が数多く確認されている。主な成果は以下のとおり。
・ Aceは様々なスピンのボールを打ち返しただけではなく、最大450 rad/s(ラジアン毎秒)の回転数においても、リターン率75%超を安定して達成した。これは、スピンへの対応能力の高さを示すもので、競技用卓球ロボットでこれまでに報告されていた値をはるかに上回るものだ。
・Aceは一流選手に対して、サーブでの直接得点(エース)を16回決めた一方、一流選手がエースを決めたのは全部で8回にとどまった。
・さらに、Aceの低遅延認識‧制御システムにより、ネットに当たって跳ね返るボールなど予測しにくいショットにも素早く対応した。この挙動はシミュレーションでの再現が難しく、発生頻度が低い状況においても、ソニーAIの手法が高い汎化性を持つことを示している。
これらの研究成果は、インタラクティブかつリアルタイム性が求められるタスクにおいて一流選手を凌駕するという、フィジカルAIエージェントの可能性を初めて示したものと言える。
これまでにも卓球ロボットは研究開発されてきたが、その多くは協調的なラリーのみを前提としたもので、対戦でアマチュアレベルを超える性能を示したものは存在しなかった。
■論文投稿後も止まらぬ進歩
Nature誌に論文投稿後、研究チームは追加の競技試合を実施した。2025年12月には、新たに4名の卓球選手(プロ選手2人、一流選手2人)と対戦を実施。Aceは一流選手2人にいずれも勝利した他、プロ選手2人に対しては1勝1敗という結果になった。
また。2026年3月には、新たにプロ選手3名と対戦。Aceは3名全員に対して少なくとも1勝を挙げた。
以前の評価と比較すると、Aceはより高速なショット、台の端を狙ったより攻撃的なコース取り、そして、よりテンポの速いラリーを見せ、対戦下での継続的な性能の向上が確認された。
◎Ace研究プロジェクトおよびその技術の詳細はこちらから。
https://ace.ai.sony
https://www.natureasia.com/ja-jp
関連情報
https://ai.sony/news/project-ace-press-release
構成/清水眞希







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