実は昆虫学者でもぱっと見ただけでは、目の前の昆虫がどの種や亜種なのかが分からないことはよくあります。そこで、注目するのがペニスなどの交尾器です。交尾器を見れば、種や亜種の同定が一気にできるようになります。今回は昆虫のペニスとはどのようなものなのか?ペニスを観察するためには?更には、交尾器が新種や新亜種発見のカギとなるかも!?ということについて解説いたします。
昆虫のペニスとは!?
昆虫の形を調べる研究者であれば、ペニス(陰茎)含む交尾器は必ずと言っていいほど調べる場所です。それは、交尾器の形が異なると、交尾できないため、種が分かれる要因になるからです。
例として、僕が研究しているオサムシのペニスを紹介したいと思います。まず、こちらはマヤサンオサムシというオサムシの体全体の写真です。中国地方東部から近畿地方、そして北陸地方にかけて分布している種で、地域によって多くの亜種が知られています。しかし、色や模様だけではどの亜種かを見極めることは非常に難しいです。
そこで、チェックするのが交尾器です。こちらはマヤサンオサムシのオスのペニスの写真で、これをメスに差し込んで交尾を行います。先端(以下の写真では左側)に付いているのは内袋という袋のような部分で、通常はペニスの中にしまわれていますが、交尾の時に膨らんできて、内袋の一部の交尾片(写真内、矢印の細長い部分)という部分をメスの膣盲嚢(ちつもうのう)という部分に差し込みます。
もしこの時に、オスの交尾片とメスの膣盲嚢がカギとカギ穴のようにしっかりと組み合わさなければ、うまく交尾できません。そのため、交尾片はじめ、交尾器の形を見ることが種や亜種を見分ける上で重要なポイントになります。
どうやって観察する?
では、昆虫の交尾器はどのようにすれば、観察することができるのでしょうか。もちろん、仲間にもよるのですが、オサムシなどの大型の甲虫はピンセットを使ってオスのおしりから交尾器を引きずりだします。慣れていないと、交尾器そのものや体全体を傷つけてしまうこともあるため、注意が必要です。
また、僕が経験した限り、チョウや小さな甲虫の仲間の交尾器を観察する時には、腹部全体を切り離した後に、水酸化カリウムというものを使います。水酸化カリウムは筋肉などの軟組織を分解・透明化することができるため、交尾器周りを溶かして、観察しやすくします。
昆虫の交尾器の中には小さくて壊れやすいものも多いため、仲間によっては顕微鏡でよく観察しながら慎重に行う必要があります。
交尾器は新種や新亜種発見のカギとなる!?
昆虫学者は「これはもしかすると、新種や新亜種かもしれない」と思った時も、必ずと言っていい程、交尾器を解剖してその形を調べます。交尾器が異なるということが種や亜種を分ける重要なポイントとなるからです。
僕は2021年にマヤサンオサムシの新亜種を三重県から発表したのですが、その時も交尾器の各部位の形や長さなどを徹底的に調べ、他の亜種とは異なることを示しました。
もし、新種や新亜種を見つけたい人がいれば、交尾器の形に着目することをおすすめします。よく観察してみると、「体全体の雰囲気は似ているのに、交尾器はこんなに違うのか!?」と驚かされることもよくあります。こちらはドウキョウオサムシというオサムシで、右がそのペニスです。マヤサンオサムシと体全体の大きさは近いですが、オスは圧倒的に巨大な交尾片を持っています。
さて、今回は昆虫のペニスをはじめとする交尾器の世界について解説してきましたが、もし、交尾器を観察する機会があれば、写真で撮影するだけではなく、スケッチを描いてみることもおすすめします(昔は小さな交尾器の写真が困難であったため、スケッチが主流でした)。スケッチを描くことで、その構造の理解がより深まるはずです。
昆虫ハンター・牧田習
博士(農学)。1996年、兵庫県宝塚市出身。2020年に北海道大学理学部を卒業。同年、東京大学大学院農学生命科学研究科に入学し、2025年3月に同大学院博士課程を修了。昆虫採集のために14ヵ国を訪れ、9種の新種を発見している。「ダーウィンが来た!」(NHK)「アナザースカイ」(NTV)などに出演。現在は「趣味の園芸 やさいの時間 里山菜園 有機のチカラ」(NHK)、「猫のひたいほどワイド」(テレビ神奈川)にレギュラー出演中。昆虫をテーマにしたイベントにも多数出演している。
著書:「昆虫博士・牧田習の虫とり完全攻略本」(小学館)、「昆虫ハンター・牧田習のオドロキ!!昆虫雑学99」(KADOKAWA)、「昆虫ハンター・牧田習と親子で見つけるにほんの昆虫たち」(日東書院本社)、「春夏秋冬いつでも楽しめる昆虫探し」(PARCO出版)好評発売中。Instagram・Xともに@shu1014my
文/牧田習







DIME MAGAZINE




















