海外のマクドナルドに出かけて楽しみなのは、なんといってもご当地メニューだ。基本的な品ぞろえは世界共通でも、ご当地メニューにはその国らしさがかいま見える。
バンズが主役のはずのマクドナルドでも、マレーシアではごはんメニューがある。日本でも期間限定で「ごはんバーガー」が登場したことがあるが、マレーシア人の主食はごはんや麺が多いことに配慮しているからだろう。
国民的朝ごはん「ナシ・ルマ」
注目したいのは、ナシ・ルマ(Nasi Lemak)があることだ。マレー語で「ナシ」は“ごはん”、「ルマ」は“油”や“脂肪”といった意味で、この場合はココナッツミルクのことだ。
朝、食堂や路肩の屋台では緑色のバナナの葉で三角に包んだナシ・ルマが売れていく。
ココナッツミルクで炊き込んだごはん(長粒種の白米)には、独特の香気がある。ナシ・ルマは、ごはんに固ゆでたまごと、輪切りにしたきゅうり、炒ったピーナッツなどの具を添えて、塩味の利いた小魚の「イカン・ビリス」と、「サンバル」という唐辛子ソースを薬味にして食べる、マレー系の料理だ。
マクドナルドの「ナシ・ルマ」
マクドナルドのナシ・ルマ(Nasi Lemak McD)には、3つの種類がある。もっとも基本的なのは、たまごとイカン・ビリスの組み合わせ(7.08マレーシア・リンギ/以下RM、約285円)である。

それに、辛みの利いた鶏肉の揚げ物「アヤム・ゴレン」を1本加えたセット(RM12.88、約518円)と、2本のセット(RM15.99、約643円)があり、アヤム・ゴレンの味はレギュラーとスパイシーの2種から選べる。
頼んでみると、確かにココナッツミルクの風味があり、ごはんの下にはしょっぱい小魚も入れてあった。たまごは、ゆでたまごではなく、丸い型に入れて焼いたもので、きゅうりはなし。これを辛いサンバル・ソースと混ぜながら食べる。

ごはんメニューには他に、鳥がゆの「ブブール・アヤム」もあるが、店内で観察していると、人気があるのはやはりナシ・ルマだ。さすが「国民的朝ごはん」とよばれているだけのことはある。
ところで、マレーシアでは多くのひとがセットメニューで注文する。フレンチフライと飲み物のセット「マックバリューミール(M)」は、主にこのような品ぞろえだ。
・マックチキン(RM12.05、約485円)/日本では500円~
・グリルドチキンバーガー(RM17.60、約708円)
・フィレオフィッシュ(RM13.65、約549円)/日本では690円~
・ブブール・アヤム(RM11.10、約446円)

先ほどの鳥がゆ、ブブール・アヤムにも、セットにするとフレンチフライがついてくる。やや不思議な気もするが、これも食習慣の違いなのだろうか?
定番メニューとしてはビッグマック、ビーフバーガー、チーズバーガーなどがあり、ハッシュブラウンと飲み物がセットになった朝食メニューには、ソーセージマックマフィン、ホットケーキ、ビッグ・ブレックファスト、クリスピー・チキンマフィンなどがそろっている。
*日本での価格は、日本マクドナルドの公式ウェブサイトを参照した。
マレーシアでは割高なファストフード
ここまで読んだ方は、マレーシアは日本よりも安い、と感じたかもしれない。
そこで、イギリスの経済誌『エコノミスト』が年2回発表する「ビッグマック指数」をみてみよう。ビッグマック指数は、各国のビッグマックの価格から、物価水準や購買力などを比較する試みだ。
2026年1月の発表によると、日本は48位(480円)に対して、マレーシアは44位(RM13.75、約553円)だ。つまり、マレーシアのビッグマックの方が「割高」ということになる。
マレーシアは外食が安く、どこでも気軽に食事が取れるところで、飲食店の種類も多彩だ。冷房が効いたカフェやレストランもあるが、日常的に利用するのは、開放的な造りの集合屋台「コピティアム」や、おかず食堂の「経済飯店」、「ナシ・カンダー」(インド・カレー食堂)だろう。

こういう店ではサービス料もかからないので、10リンギ(約402円)もあれば、麺料理やおかずとごはんが食べられる。マレーシアが「外食天国」といわれるのもうなずける。
これだけ多くの選択肢があるなか、マレーシアではファストフードは「安い」とはいえない。先に紹介したナシ・ルマにしても、わたしの行きつけの食堂なら2.8リンギ程度(約113円)で食べられる。
おかず食堂の類は、出来合いのおそうざいを選ぶだけだから、待ち時間もほとんどない。しかも、気軽に入れる店の多くは、出勤前に朝食を取る客のために、朝7時から営業している。
ファストフードのお株を奪うような、「安くて早い」飲食店があるなかで、マクドナルドは、どういう位置づけにあるのだろうか。
マレーシアでは2番目のファストフード・チェーン
マレーシアのマクドナルドは、現在370店舗以上。ボルネオ島を含めて、13州すべてに店舗がある。第一号店は首都クアラルンプールの繁華街、ブキッ・ビンタンに1982年に開店した。日本の第一号店は1971年の開店だから、約十年後ということになる。

ちなみに他の大手ファストフード・チェーンは、1990年代からマレーシアに進出したところが多い。
・KFC 600店舗以上、1973年に一号店が開店
・ドミノピザ 260店舗以上、同1997年
・バーガーキング 120店舗以上、同1997年
・サブウェイ 230店舗以上、同1999年
マクドナルドはファストフード・チェーンとしては大手だが、今のところ9年早く進出したKFCに次ぐ二番手といったところだろうか。
多民族社会の「食」
さて、マレーシア人と食事に出かけるときに「マレーシア料理が食べたい」と言ったとしたら、たぶん相手は「マレーシアの、どの料理?」と聞き返すはずだ。マレーシアは、マレー系、中国系、インド系と先住民族から成る複合社会で、それぞれの民族が特有の食文化を保っている。食堂やレストランも系統ごとに分かれていて、主な客層も違う。
背景には、宗教がある。イスラム教徒は、豚肉とその加工品、そして酒類を口にしない。仏教徒のなかには、殺生を避ける意味で菜食を実践するひとも少なくない。ヒンドゥー教徒は牛肉を食べず、菜食者が多い。ただし、動物性食材でも魚や乳製品などの許容度はひとによって異なるので、「食べられないもの」は一様ではない。
このように多民族・多宗教のマレーシアだが、国教はイスラムと定められている。信徒は豚肉とその加工品を食べず、酒類を飲まないだけでなく、調理や食材の輸送時にもこれらの禁忌と接触がないものを食べることになっている。この規定に合うものが「ハラール」(許されたもの)で、マクドナルドは公的な機関からハラール認証を受けている。

「日本でも、マクドナルドならハラールフードがあるんでしょ?」と言われたことがあるが、そう早とちりされるほど、イスラム教徒にとっては戒律に沿った食事ができるレストランとして認知されている。
日本のマクドナルドと違うこと
マレーシアのマクドナルドでは、メニューもマレー語と英語で、店員にはマレー人、中国系、インド系の店員がいる。国語はマレー語だが他の言語を使っているひとも多いので、英語が事実上の共通語として機能していて、多くの店員は二言語、またはそれ以上のことばを切り替えながら客に接している。
郊外店舗はもちろんだが、ショッピングセンター内にある店舗でも、子どもだけの利用は意外と少ない。治安がよくないこともあり、マレーシアの子どもたちはスクールバスに乗るか、家族の車で登下校する。つまり、道草を食わずに帰る、または塾に行く(これも塾バス)ので、放課後に友だちといっしょにマックでおしゃべり、というわけにはいかないのだ。
一年を通じて最高気温が30℃を超えるマレーシアにおいて、マクドナルドはいつでも冷房で涼める場所だ。定期的にそうじが入るので、清潔なトイレが使える点もありがたい。車社会のマレーシアでは広い駐車場があり、ドライブスルー形式の店舗も多いから、冷たいジュースがあるマクドナルドは、自動車利用者の手ごろな休憩場所にもなっている。

食べる、飲むはごく日常的な営みだから、その国の暮らしぶりがわかる。マクドナルドは世界100か国以上に店舗があるので比べやすく、違いにも気がつきやすい。違いが生まれる理由に考察をめぐらせると、外国の社会や文化を理解する手がかりになると思う。
**1マレーシア・リンギ=約40.22円(2026年4月17日現在)
取材・文/森純
文筆業。出版社・国際協力NGOなどを経て、マレーシアに在住十余年。日本と東南アジアを往復しながら、複数拠点生活を営む現役バックパッカー。衣食住など、ひとの暮らしに興味があり、東南アジアの社会・生活文化の観察を新聞・雑誌・Web媒体、ラジオなどで紹介している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。
オランダのマクドナルドで出会った濃厚アップルタルトが絶品!現地ライターおすすめのご当地スイーツはコレ
マクドナルドの1業態であるマックカフェ。1993年にオーストラリアのメルボルンで1店目がオープンし、手軽に本格的なコーヒーが楽しめる場所として、現在では世界中で…







DIME MAGAZINE












