人間を動物にたとえるフレーズの数々
昨年秋ごろから「馬車馬のように働く」というフレーズをにわかに耳にするようになっているが、人間を動物にたとえる言い回しは数多い。
「空を飛ぶ鳥のように自由に」、「水を得た魚のように生き生きと」、「蛇のように執念深い」などいろいろあるが、形容詞的用法だけではなく「食べてすぐ寝ると牛になる」など、その動物になってしまう言い回しもある。
最近は主に若者の間で〝蛙化(かえるか)〟という一読してやや不可解な言葉が使われるようにもなっている。

蛙化とは好意を抱いていた相手が自分に好意を持っているとわかった途端、その相手に嫌悪感や冷めた感情を抱く心理現象のことで、グリム童話『かえるの王さま』で王子様が醜いカエルになることにちなんで用いられるようになったという。
意外にも複雑な意味合いを持つ〝蛙化〟なのだが、最近の科学研究からは両生類ならぬ爬虫類である〝カメレオン化〟という言葉が語られていて興味深い。なんとそこには完全菜食主義者であるヴィーガンが関係しているという。
ヴィーガンという困難な生き方

カナダのコンコルディア大学とモントリオール大学の合同研究チームが昨年9月に「Journal of Consumer Research」で発表した研究では、完全菜食主義者のヴィーガンは社会をうまく渡り歩くための4つの「特別なスキル」を身につけていることが報告されている。
ヴィーガンになることは、ある意味では人生を変える決断である。
動物の搾取を完全否定し、動物性食品を摂らないばかりでなく、ウールや毛皮などの革製品、動物由来の製品の使用も避けている。厳格なヴィーガンともなれば人間関係に制約が生じてくることもじゅうぶんにあり得る。
倫理的な理由だけで肉やそのほかの動物性食品を断つことは、ヴィーガンと友人、家族、パートナー、職場、さらにはほかのヴィーガンとの間に緊張を生むことがある。こうした緊張関係をテーマにしたこの研究では、ヴィーガンが時に経験する人間関係の亀裂と、その課題を乗り越えるために彼らが用いる戦略を検証している。
「ほとんどの人は雑食で、食卓を共にする者の食生活のニーズに合わせることに慣れていますが、私たちはヴィーガンの視点からこれらの亀裂を考察したいと考えました」と研究チームのゼイネップ・アルセル氏はプレスリリースで言及する。
研究チームは2017年から2022年にかけて、ヴィーガンへのインタビューの実施、ヴィーガンフェスティバルや抗議活動、座り込みに参加したりするなどして、ヴィーガンが人間関係のストレスにどのように対処しているかについての知見を探究した。研究チームのアヤ・アボレニエン氏はまた、オンラインニュース、動画、ブログ、Redditなどのソーシャルメディアのヴィーガン関係の投稿も調査した。
ヴィーガンが直面する3つの関係断絶リスク
収集した調査データを分析した結果、アボレニエン氏はヴィーガンが直面し得る人間関係性の断絶を、協働作業(co-performance)、共同学習(co-learning)、市場(marketplace)という3つのタイプに分類した。
家族での食事など、そのグループで共通の習慣や活動にヴィーガンが新しい要素を取り入れると「協働作業」における亀裂が生じる可能性がある。食習慣からの逸脱は、普段一緒に食事をする人たちに許容と理解を求めるプレッシャーにもなる。この変化は緊張や誤解を生み、ヴィーガンが「面倒な人」とレッテルを貼られる原因となることがあるのだ。
「共同学習」における亀裂は通常、ヴィーガンコミュニティ内で発生する。ヴィーガンになったばかりの人が、ほかのヴィーガンにアドバイスを求める際に、意見の対立が生じることがある。ヴィーガン食とは何か、非ヴィーガンとどのように交流するのか、あるいはそもそも交流すべきかどうかといった点について、意見の食い違いが生じる可能性があり、往々にして硬直的な考え方は、ヴィーガン初心者やヴィーガンに関心のある人を混乱させるため、関係を遠ざけてしまう恐れがある。
「市場」はヴィーガンが食生活のニーズを満たす場所が不足していることに起因している。植物性食品の人気が高まっているとはいえ、ほとんどのスーパーマーケットやレストランは雑食の食生活に対応しており、ヴィーガン食に対応した店を見つけるのは難しい。
「私が話を聞いた多くの人は、自分が抱えている個人的な苦悩について真剣に話し合いたがっていました。多くの場合、それがヴィーガン生活を続けることを阻害していたのです。彼らの多くは人間関係のストレスが原因でヴィーガン生活から遠ざかってしまったのです」(アボレニエン氏)
ヴィーガンの苦肉の策「カメレオン化」

アボエレニエン氏はさらに、ヴィーガンが対立を解消するために用いる4種類の社会的スキルを特定した。
研究チームによればヴィーガンが対立を解消するために用いる〝処世術〟としての4つの戦略は「解説(Decoding)」、「分断(Decoupling)」、「撤収(Divesting)」、そして「カメレオン化(Chameleoning)」である。
「解説」ではヴィーガンは友人や家族に自分の選択を説明しようと努める。またヴィーガンはコミュニティのほかの人々からヴィーガニズムについて学び続け、主に雑食の市場において食品表示ラベルの読み方、幾多のメニューの食材と原材料など食品に関する詳細な情報について理解を深めていく。
彼らはまた「分断」を試みることもある。雑食動物と似たような行動を取りながら、積極的に対立の引き金となるものと一線を劃すのである。たとえば家族の集まりでは自分だけの食事を用意して持参することで、料理は共有できないものの空間を共有することなどが挙げられる。
ヴィーガンの中には可能な限り食に関する問題のある人間関係を避けて「撤収」を実践する者もいる。これはヴィーガンではない人とは食事を共にしないという関係終了であり、妥協のない姿勢を伴う。
最後に「カメレオン化」は、自分の信念と「波風を立てないために周りに合わせる」姿勢をとることで、たとえば誤解を避けるために仲間内では雑食になるような場合を指し、特定の状況において周囲に合わせて身体の色を変えるカメレオンのように、より柔軟な態度をとる戦略である。
インタビューを行ったあるヴィーガンは「義理の両親を訪ねる際には、自分の食生活についてプレッシャーをかけたくないので動物性食品を食べる」と話している。
同様に一部のヴィーガンは旅先などで現実的にヴィーガン向けの食品が入手できない場合は動物性食品を食べることもあると言及している。
この戦略を採用するヴィーガンにとって最大の問題は、実はほかのヴィーガンとの対立であり、彼らから「嘘つき」や「偽ヴィーガン」とレッテルを貼られる可能性があり、悩みは尽きそうもない。もちろんヴィーガンになるのかどうかは当人の自由だが、できればカメレオン化することなく日々を送りたいものである。
※研究論文
https://academic.oup.com/jcr/advance-article/doi/10.1093/jcr/ucaf052/8245827
文/仲田しんじ
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