毎年、春の訪れとともに始まる「ヤマザキ春のパンまつり」。点数シールを集めれば必ずもらえる〝白いお皿〟は、多くの家庭の食卓に自然と根づき、世代を超えて記憶に残り続けてきた。流行の移り変わりが激しい時代にあっても、このキャンペーンは変わらず続いている。
なぜこの仕組みは長く愛されてきたのか。いつ、どのような発想から生まれ、どのように時代に寄り添いながら続いてきたのか。
今回は、長年愛されてきた国民的キャンペーンの舞台裏について、山﨑製パン株式会社 マーケティング部の山口和寿さん、荻野陽文さんに話を伺った。

なぜ愛され続けるのか 春のパン祭り誕生の背景

春のキャンペーンといえば、「ヤマザキ春のパンまつり」は国民的な企画として知られ、世代を問わず広く認知されている。筆者の記憶をたどっても、子どもの頃から身近にあった親しみ深いキャンペーンだが、いったいどのような経緯で始まったのだろうか。

「『春のパンまつり』は1981年にスタートしました。日頃から山崎製パンの商品をご愛顧いただいているお客様への感謝を込めて、パンの消費量が最も多くなる春の時期に、白いお皿をプレゼントするキャンペーンとして始まったものです。
春は気候の変化とともに食欲が増す季節であり、同時に新生活が始まるタイミングでもあります。手軽においしく食べられるパンは、特に朝食を中心に食卓に上る機会が増えるため、こうした時期に合わせて本キャンペーンが実施されるようになりました」(山口さん)

キャンペーンは開始当初から順調な反響を集め、1991年には〝白いお皿〟の累計交換枚数が1億枚を突破。その後も支持を広げ、現在では累計5億枚を超える規模へと拡大している。
特定の商品購入や有料サービスの利用を応募条件とし、シールやレシートを集めることで景品がもらえる仕組みは、マーケティング用語で「マストバイキャンペーン」と呼ばれ、現在では多くの企業が取り入れている。
なかでも、山崎製パンの「春のパンまつり」は、「ヤマザキ春のパンまつり」という呼称で広く親しまれ、自然と耳に残り、記憶に定着しやすい。
企業名を冠したキャンペーン名が、ここまで消費者の間に浸透している例は、決して多くはないだろう。
「ネーミングの経緯については、当時の資料が残っておらず、はっきりとはわかっていないんです。ただ、第1回は現在の『春のパンまつり』ではなく、『食パンまつり』という名称だったそうです。
当時は対象商品が食パンに限られていたため、その内容に合わせたネーミングになっていました。その後、菓子パンなども対象に加わるようになり、扱う商品の幅が広がっていったことで、『パンまつり』へと呼び方も変わっていきます。
実際に『食パンまつり』という名称が使われたのは1981年の第1回のみで、翌年以降は対象商品が拡大したことに伴い、より広い意味を持つ『パンまつり』として定着していった、という流れになります」(荻野さん)
毎年変わる白いお皿 その裏にある緻密なリサーチ
そして、春のパンまつりといえば、やはりあの〝白いお皿〟を思い浮かべる人も多いだろう。対象商品のシールを集めてもらえるこのお皿は、シンプルでありながら、毎年つい手に入れたくなる不思議な魅力を持っている。
筆者自身も、子どもの頃はキャンペーンの時期が近づくにつれて山崎製パンの商品を口にする機会が自然と増え、春の訪れを心待ちにしていた記憶がある。
この〝白いお皿〟は毎年少しずつデザインが更新されており、その時々の暮らしやトレンドがさりげなく反映されている点も、このキャンペーンならではの醍醐味のひとつだ。

「同じデザインが連続して採用されたのは、2008年と2009年の『白いおしゃれ小鉢』、そして1999年の『白いワンディッシュ』と2000年の『大きなワンディッシュ』です。それ以外の年については、すべて異なるデザインを展開してきました。
2008年の〝白いお皿〟が非常にご好評をいただき、「もっと集めたい」というお声を多く頂戴したことから、翌2009年も同じデザインを採用しています。また、2000年の『大きなワンディッシュ』は、1999年のデザインをベースにしつつ、サイズを一回り大きくした点が特徴です。

交換枚数については、2000年の『大きなワンディッシュ』が2169万枚で歴代2位となっています。なお、最も多かったのは2012年の『白いモーニングボウル』で、2269万枚を記録しました。お皿の名称は、それぞれの形状や特徴に合わせて名付けています」(荻野さん)
そしてデザインは、トレンドを反映するだけではなく、入念なリサーチをもとに毎年決定されている。幅広い世代の声を丁寧に取り入れながら、多角的な視点で選ばれているという。
「毎年のデザインは、常に30種類前後の候補の中から選定しています。社内調査やインターネット調査、モニター調査に加え、会場で実際にお客様に手に取っていただく調査など、さまざまな方法を組み合わせて検証を重ねています。
その中で、候補を段階的に絞り込みながら検討を進め、およそ半年ほどの期間で翌年のお皿の企画を固めていきます。
また、過去に使用された方のご意見や使い勝手に関する声、日頃から商品をご購入いただいているお客様のご意見なども、一つひとつ丁寧に大切にしています。できるだけ幅広い世代やさまざまなライフスタイルの方に、自然と手に取っていただけるようなお皿になっているかどうかも重視していますね。
こうした多角的な視点を踏まえながら、総合的に判断し、毎年〝白いお皿〟のデザインを決定しています」(荻野さん)
1400万枚を支える品質と進化、変わらないために変わり続ける仕組み
熱心な〝パンまつりファン〟であればご存じかもしれないが、キャンペーンで交換できる〝白いお皿〟は、フランスの老舗食器メーカー・アルク・フランス社が手がけている。アルク・フランス社の丈夫で丁寧な仕上がりだからこそ、無駄のないシンプルなデザインが、〝白いお皿〟の良さをいっそう引き立てている。
しかし、なぜアルク・フランス社が採用されているのだろうか。
「キャンペーンに向けて、毎年およそ1400万枚のお皿をご用意しています。そのため、品質を均一に保ちながら大量生産が可能な、特殊なラインを持つメーカーを選定していることが理由のひとつです。
一枚一枚の〝白いお皿〟が、きちんと均一な品質で、不備のない状態で仕上がること。さらに、安全性や品質面でも信頼できることが前提になります。そのうえで、この数量に対応できる生産体制を備えているかどうかも重要なポイントです。
そうした条件を満たす世界的な食器メーカーに、長年継続して製造をお願いしています」(山口さん)
また、そのためにフランスで製造された〝白いお皿〟は、船便で日本へと運ばれている。毎年11月頃にはアルク・フランス社とともにデザインを選定し、その後に製造されたものを船で輸送する流れだ。
「一番難しいのは、やはりスケジュールの調整ですね。キャンペーン期間に合わせて、フランスで製造した〝白いお皿〟を船で輸送し、お客様へ確実にお届けする必要があります。製造から輸送まで含めて、この一連の流れをきれいに合わせなくてはなりません。
また〝白いお皿〟は私たち自身も確認を行いますが、現地でも厳格なチェック体制を敷いていただいています。汚れや不備があるものは出荷しないなど、一枚一枚が基準を満たすよう丁寧に検品されています。
こうした短期間の中で、この枚数を同じ品質で安定して生産するという点においては、やはりアルク・フランス社でなければ実現できないと感じています」(山口さん)
今年で46回目を迎えた本キャンペーン。シールを集めて景品と交換するというスタイルは、長年変わらず続いてきた。今後はどのような展望を描いているのだろうか。
「『春のパンまつり』は、もともとお客様への日頃の感謝から始まった取り組みですので、その思いをきちんと形にできるよう、毎年工夫を重ねています。
現在はシールで交換する形でお届けしていますが、こうした仕組みや受け取り方については、デジタルトランスフォーメーションの進展によって変化していく可能性もあると考えています。例えば、IoTとスマートフォンでより簡単に参加できる仕組みや、ドローン配送で受け取れる方法など、将来的に求められる形は変わっていくかもしれません。
そうした変化にも柔軟に対応しながら、その時々に合った形でお客様に感謝をお届けできるよう、少しずつ検討を進めていきたいと考えています」(山口さん)

そして、2026年の〝白いお皿〟は『白いフレンチディッシュ』。
ゆるやかに立ち上がりのあるシンプルな平皿で、ほどよい深さがあるため、スープやソースを添えた料理にも使いやすい。サンドイッチや卵料理、サラダなど、パンと一緒に楽しむメニューに自然と馴染む一枚だ。
キャンペーン期間も残りわずか。ぜひこの機会に、今年の〝白いお皿〟を手に取ってみてほしい。
取材・文/Tajimax







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