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だから、あなたのお財布を直撃する【戦争と原油価格の話】

2026.04.09

「また値上がりしている……」

その原因を「円安だから」「インフレだから」だけで片付けてしまうのは、ビジネスパーソンとして少しもったいないかもしれません。実は、私たちの財布を直撃しているモノの価格変動の裏には、日本から遠く離れた中東にある「たった一本の狭い海峡」が深く関わっています。

それが「ホルムズ海峡」です。

ニュースで頻繁に耳にする名前ですが、「なぜあんなに狭い海の部分で、世界中が揉めているのか?」と疑問に思ったことはないでしょうか。

今回は、忙しいビジネスパーソンに向けて、「なぜ世界はホルムズ海峡に振り回されるのか」を、地理・交易・石油・戦争の400年史からサクッと解説します。

この記事を読めば、明日からの経済ニュースの見え方が劇的に変わり、「だから原油価格が動くのか!」と腑に落ちるはずです。教養と実利を同時に手に入れましょう。

【地理的特異性 ――「世界の血管」は、驚くほど細い】

まずは地図を思い浮かべてみてください(あるいはGoogleマップを開いてみてください)。中東のペルシャ湾とアラビア海(オマーン湾)を結ぶ、出口のキュッと絞られた部分。そこがホルムズ海峡です。北にはイラン、南にはオマーンとアラブ首長国連邦(UAE)が位置しています。

この海峡、驚くべきはその「狭さ」です。

最も狭い部分の幅は、なんと約33キロメートルしかありません。さらに重要なのは、海峡全体が浅瀬に囲まれているため、超大型の原油タンカーが安全に航行できる水路(航行可能帯)は、上り・下りそれぞれわずか約3キロメートルずつしかないのです。

毎日毎日、世界中から集まる巨大なタンカーが、この「たった3キロの道」をすれ違って行き交っています。

もしここに機雷が撒かれたり、大型船が座礁したり、あるいは沿岸からミサイルで威嚇されたりしたら、「迂回路がない」のです。

陸上のパイプラインも一部存在しますが、ペルシャ湾岸で産出される膨大な原油のすべてを代替できる容量はありません。この物理的な「ボトルネック(首絞め状態)」こそが、ホルムズ海峡が「チョークポイント(戦略的要衝)」と呼ばれる最大の理由です。

ここが詰まれば、世界のエネルギー供給という大動脈が即座に停止する事態に陥ってしまうのです。

【交易の400年史 ―― 香辛料、真珠、そして帝国たちの争奪戦】

「ホルムズ海峡が重要になったのは、石油が見つかってからでしょ?」

そう思われがちですが、実は違います。この海峡は、400年以上前から常に列強の争いの的でした。

時代は16世紀、大航海時代に遡ります。

当時、ヨーロッパの人々が喉から手が出るほど欲しかったもの、それがアジアの「香辛料」です。シルクロードを経由した陸路での交易に代わり、海からのルートを開拓したポルトガルが、いち早くこの海峡の価値に目をつけました。

1515年、ポルトガルの提督アフォンソ・デ・アルブケルケは、海峡にあるホルムズ島を占領します。ペルシャ湾からインド洋へ抜ける出入り口を制えることで、東西交易の利益を独占しようとしたのです。ここから、ホルムズ海峡の「争奪戦」の歴史が幕を開けます。

17世紀に入ると、今度はイギリス(東インド会社)がペルシャ(現在のイラン)と結託してポルトガルを追い出します。その後も、オマーン帝国やオランダなどがこの地域の覇権を巡って争いました。当時のペルシャ湾は、最高級の「真珠」の産地でもあり、東洋と西洋を結ぶ極めて豊かな交易のハブだったのです。

つまり、ホルムズ海峡は「誰かがここを封鎖すれば、世界の富の流れを止めることができる」という、地政学的な絶対法則を400年前から証明し続けてきた場所なのです。

【石油の発見 ―― 「黒い黄金」が世界を狂わせた】

ホルムズ海峡の運命、そして世界の歴史を決定的に変えたのは、20世紀初頭の出来事でした。

1908年、イランで中東初となる大規模な油田が発見されます。その後、サウジアラビア、クウェート、UAEなど、ペルシャ湾岸の国々で次々と「黒い黄金」が噴き出しました。

自動車の普及、航空機の発達、そして軍艦の動力源が石炭から石油へと移行していく中で、石油は「国家の生存と直結する最重要物資」となりました。

そして、ペルシャ湾で掘り出された膨大な石油を世界に運ぶためには、どうしてもあの「幅3キロの狭い水路」を通らなければなりません。

現在、世界で消費される石油の約2割(海上輸送される石油の約3割)が、このホルムズ海峡を通過しています。1日あたり約2000万バレル。ドラム缶にして数億本分ものエネルギーが、毎日この細い海峡をすり抜けていくのです。

特に、私たち日本を含むアジア諸国にとってはまさに「生命線」です。日本が輸入する原油の約8割以上が、ホルムズ海峡を経由しています。もしここが1ヶ月でも完全に封鎖されれば、日本の発電所は止まり、物流は麻痺し、工場は稼働できなくなるという、致命的な事態にも陥りかねないからです。

かつての「真珠と香辛料」の通り道は、現代社会を動かす「エネルギーの大動脈」へと変貌を遂げたのです。

【戦争と原油価格 ―― だから、あなたの財布が直撃される】

では、なぜ「原油価格」が動くのでしょうか?

答えはシンプルです。「市場は、ホルムズ海峡での『万が一』を恐れているから」です。

ペルシャ湾岸は、歴史的に紛争が絶えない地域です。

1980年代のイラン・イラク戦争では、両国が互いの石油輸出を妨害するために、海峡周辺を航行するタンカーをミサイルで攻撃し合う「タンカー戦争」が勃発しました。この時、原油価格は高騰し、世界経済に大きな打撃を与えました。

そして現代、最大の火種となっているのが「イランとアメリカ(および親米アラブ諸国・イスラエル)の対立」です。

イランは長年、欧米からの経済制裁に苦しんでいます。その際、イラン政府高官がしばしば口にする「伝家の宝刀」があります。

「もし我々が石油を輸出できなくなるなら、ホルムズ海峡を封鎖して、他国の石油も出させない」という脅しです。

実際に海峡が完全に封鎖される確率は、アメリカ軍(第5艦隊)が睨みを効かせていることもあり、現実的には低いと見られています。しかし、重要なのは「物理的に封鎖が可能である」という事実そのものです。

投資家や原油のトレーダーたちは、中東でバッドニュースが流れると、一斉にこう考えます。

1. イランとイスラエル(またはアメリカ)の緊張が高まった。
2. もし武力衝突が起きれば、イランがホルムズ海峡を機雷で封鎖するかもしれない。
3. タンカーが通れなくなれば、世界の石油供給が2割減る。
4. 石油が足りなくなれば、価格は爆上がりする。
5. だったら、今のうちに高い値段でも原油を買っておこう!

これが「地政学リスクによる原油高(有事の原油買い)」のメカニズムです。実際に海峡が封鎖されていなくても、「封鎖されるかもしれない」という心理だけで、先物市場で原油価格は跳ね上がります。

原油価格(WTI原油先物など)が上がれば、それを輸入に頼る日本のガソリン代や電気代は数ヶ月遅れで必ず上昇します。輸送コストが上がるため、スーパーに並ぶ食品から日用品に至るまで、あらゆるものの値段が上がる「コストプッシュ型インフレ」が引き起こされるのです。

中東でミサイルが飛んだというニュースは、決して「遠い異国の出来事」ではありません。数ヶ月後のあなたの会社の利益率を圧迫し、あなたの財布から直接お金を奪っていく、極めてリアルなビジネスリスクなのです。

【ビジネスパーソンのための「ホルムズ海峡」】

「たった一本の狭い海峡」が、地理的なボトルネックであり、400年続く覇権争いの舞台であり、現在も世界経済の首根っこを掴んでいる理由がおわかりいただけたかと思います。忙しいビジネスパーソンが日々のニュースを読み解く際、以下のポイントを押さえておくと、先を読む力が格段に上がります。

【ホルムズ海峡ニュースの読み解きPoint】
・中東の緊張は「原油高」のシグナル | イラン、イスラエル、アメリカの動向は常にチェック。緊張が高まれば原油価格は上がり、日本のインフレ圧力になります。
・「迂回ルート」の動向に注目| サウジアラビアやUAEは、ホルムズ海峡を通らずに紅海やオマーン湾に抜けるパイプラインの建設を進めています。これが進めば、海峡への依存度は下がります。
・脱炭素(再生可能エネルギー)の裏テーマ| 欧州や日本が「脱炭素化」を急ぐのは、環境問題だけでなく、「中東(ホルムズ海峡)の地政学リスクからの脱却」という安全保障上の強烈なモチベーションがあるからです。

明日、ニュースアプリを開いて「中東情勢の悪化」という見出しを見つけたら、地図上のあの狭い海峡を思い出してください。そして、「これは自社の調達コストにどう響くか?」「生活防衛のためにどんな資産運用が必要か?」と、一歩踏み込んだ思考ができるはずです。

世界の歴史も経済も、すべてはあの「幅33キロメートルの海」で繋がっているのです。

著者名/鈴木林太郎
テックと経済の“交差点”を主戦場に、フィンテック、Web3、決済、越境EC、地域通貨などの実務に効くテーマをやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で“今日使える知識”に翻訳します。

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