脳が砂糖漬けになる?「脳のインスリン抵抗性」と認知症リスク
近年、アルツハイマー病は単なる加齢現象ではなく、「代謝の異常」と深く関係していることが明らかになってきました。その中心にあるのが「脳のインスリン抵抗性」という概念です。インスリンといえば血糖値を下げるホルモンとして知られていますが、実は脳内でも重要な役割を担っています。糖質の過剰摂取が続くと、体だけでなく脳でもインスリンが効きにくくなる状態、すなわち「脳のインスリン抵抗性」が生じます。神経細胞がエネルギーをうまく利用できなくなり、脳機能そのものが低下していきます。(*5)
さらに問題なのは、このインスリン抵抗性が、認知症の原因物質とされる「アミロイドβ」の蓄積と密接に関係している点です。体内でインスリンが過剰な状態になると、インスリン分解酵素(IDE)はインスリンの処理に優先的に使われてしまい、アミロイドβの分解が後回しになります。その結果、アミロイドβが脳内に蓄積しやすくなり、神経細胞に障害を与える。これが、糖代謝異常とアルツハイマー病を結びつける重要なメカニズムの一つです(*6)
(*5)Brain insulin resistance in type 2 diabetes and Alzheimer disease: concepts and conundrums. Arnold SE, et al.
(*6)Insulin resistance in Alzheimer’s disease: The genetics and metabolomics links. Arwa M. Amin et.al
また、糖質過多がもたらすもう一つの大きな問題が「糖化」です。余分な糖は体内のタンパク質と結びつき、「終末糖化産物(AGEs)」と呼ばれる老化物質を生成します。AGEsは神経細胞や血管に対して強い毒性を持ち、炎症や酸化ストレスの原因となることが知られています。そして、このAGEsが脳内で蓄積し、アルツハイマー病などの神経変性疾患を引き起こしますこともわかっています。(*7)
このように、糖質過多の状態では、複数の経路で脳の老化が加速していきます。つまり、「アルツハイマー病は脳の糖尿病である」ともいえるわけです。そして、重要なことは、こうした変化はある日突然起こるのではなく、日々の食習慣の積み重ねによって静かに進行するという点です。毎朝のように血糖値を急上昇させる食生活は、脳を“砂糖漬け”の状態に近づけて、アルツハイマー病を呼び寄せている可能性があるのです。
(*7)Advanced Glycation End Products-Induced Alzheimer’s Disease and Its Novel Therapeutic Approaches: A Comprehensive Review. Dhivya Kothandan et.al
「やめる」より「置き換える」脳を守るスマートな朝食の選び方
ここまで読んで、「菓子パンはやめなければ」と感じた方も多いかもしれません。しかし、忙しい朝において重要なのは食品の選び方と食べ方です。ポイントは、血糖値を急上昇させない食べ方に変えること。そのためには、糖質単体ではなく、タンパク質や脂質、食物繊維を組み合わせることが重要です。
例えば、菓子パンを食パン+サラダ+ゆで卵に変えるだけでも、血糖の上昇は緩やかになります。また、見落とされがちなのが飲み物です。加糖コーヒーやジュースは、それだけで血糖値スパイクを引き起こす要因になりますので、無糖飲料に変えるだけでも、血糖管理の面では大きな改善になり、脳への負担は確実に減らせます。朝の選択を少し変えることが、将来の脳を守る習慣につながります。
朝食の選択が脳のパフォーマンスと未来を変える
朝の菓子パン習慣は、手軽さの裏で血糖値スパイクを引き起こし、血管や脳に見えないダメージを蓄積させている可能性があります。この血糖の乱高下は、午前中の集中力低下や倦怠感といった「その場の不調」だけでなく、長期的には脳の血流低下や神経細胞へのダメージを通じて、認知機能の低下や認知症リスクの上昇にもつながり、脳の老化を早める要因になりえます。
本来、脳は安定したエネルギー供給を好む臓器です。血糖値が緩やかに上昇し、その後も安定して推移する状態が、最も効率よく働ける環境です。しかし、菓子パン中心の朝食では、この理想的な状態とはま逆に、血糖値の急上昇と急降下が起こりやすくなります。重要なのは、「糖質を摂ること」そのものが問題なのではなく、どんな食事を摂ると「どのように血糖値が変動するか」を知っていることなのです。
忙しい朝だからこそ、何を選ぶかが一日のパフォーマンスと未来を左右します。「朝は時間がないから仕方ない」と思っているその選択が、実は脳の生産性を下げ、将来の脳の老化にもつながっているかもしれません。今日の朝食の選択が、10年後、20年後の脳の状態を決める。その視点を持つことが、最も現実的で効果的な認知症予防の第一歩です。
文/梶 尚志
かじ・たかし。梶の木内科医院 院長・七夕医院総院長。総合内科専門医、腎臓専門医、家庭医、日本抗加齢医学会専門医、健康スポーツ医。1989年富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業。2000年、岐阜県可児市で梶の木内科医院を開設。内科医として多くの患者を診療する中で不調の背景に栄養状態が関わることに着目。分子整合栄養医学を取り入れ、子どもから大人まで栄養学的なアプローチで治療と生活指導を行い、不調の改善に取り組んでいる。2025年、七夕医院名古屋分院を開設。







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