コア層によるライト層誘致と 野球以外の文脈での接点づくり
ライト層を球場に呼び込むにあたり、既存ファンの存在は欠かせないと喜瀬さんは力説する。
「仮に15万人のファンが年7回来場すれば、延べ動員数は100万人を超えます。そのファンたちがもう1人ずつ連れて来れば、動員は倍になる。だからこそ、コア層の多い今のうちにアプローチする必要があるのです」
その事例として、全国各地への展開を見せている各球団のアカデミー(育成組織)が挙げられる。
「アカデミーで野球をやっている子どもたちが、野球に関わりのなかった家族や友人を連れて来ることで、野球との接点を増やしていこうとしているのです」
こうした既存ファンを通じた集客とは別のアプローチとして、「野球とは関係のない切り口で、非ファン層を取り込む」施策もある。例えば中日ドラゴンズでは、チアチームのOGが子どもに教えるチアスクール『チアドラゴンズダンスレッスン』を展開している。
「日曜日の試合前などに、ドームで発表会をやるんです。すると、それを見に来る親や祖父母、近所の人たちがその日の席を買ってくれる。球団の団体パッケージの中で、チア関係で売れたチケットは売り上げの上位に入るそうです」
また、オリックス・バファローズは球界初の男女混成ユニット『BsGravity』など、推し活の文脈で女性ファンを急増させた。かつては男性客がほとんどだった球場も、今では男女比がほぼ半分になるなど、ファン層は劇的に変化した。その経済効果も、従来の野球ファンのものとは大きく異なっている。
「グッズの購買量が桁違いに多い上、パフォーマンスをより近くで見るために前方の良い席を買うので、客単価が跳ね上がるのです」
さらにソフトバンクはお祭りの要素を活用している。『鷹祭 SUMMER BOOST』では、来場者への限定ユニフォーム配布に加え、空港のスタッフや駅員、百貨店の店員までもが同じユニフォームを着用するのだ。
「街をホークスでいっぱいにすることで、参加しなければ損をするような巨大な夏祭りに仕立て上げて、野球に興味がない層もお祭りの渦に巻き込んでいくんです」
CASE 3|福岡ソフトバンクホークス
エンタメ性を極限まで追求!〝お祭り化〟で満員御礼
福岡ソフトバンクホークスはイベントの〝お祭り化〟による一体感が強みだ。『鷹祭 SUMMER BOOST』では野球の枠を超え街全体をハック。『ピンクフルデー』では球場をピンクに染め、新企画では選手全員が王貞治さんの魂を纏う。この独自戦略で各イベントは全試合満員御礼となった。

地元の祭りとのコラボで福岡全体を巻き込む祭典へ
2024年に生まれ変わった『鷹祭 SUMMER BOOST』では、来場者に特別ユニフォームを配布。『天神夏まつり』や飲食店との連動で、球場と街の両方を盛り上げた。

球場がピンクに染まる、非日常の3日間
入場者全員に限定ユニフォームを配布し、球場がピンク一色に染まる『ピンクフルデー』。26年5月開催時は、『ハローキティ』との限定コラボモデルを含む2種のユニフォームを配布する予定だ。

ホークス文化を次世代へ。王会長のレガシーを継承
王貞治さんが築いた歴史と精神を次世代へと繋ぐ『王レガシープロジェクト』が26年に始動。5月には全選手が背番号89のユニフォームを着用する記念試合が開催される。
点と面で展開する野球による街づくり
「野球目的以外の来場」を生み出す取り組みの発展形が、近年のプロ野球ビジネスにおいてトレンドとなっている「球場を核とした街づくり」だ。喜瀬さんによると、メジャーリーグでは10年以上前からこの街づくりがすでに進行しているそうだ。
「球場周辺の開発のために、子会社にデベロッパーが入っている球団もあるほどです」
日本で施設を中心とした「点」の街づくりの代表例が、北海道日本ハムファイターズの『北海道ボールパークFビレッジ』だ。広大な土地を活かし、マンションやホテルだけでなく小児科までも開院。野球ファンのみならず地域住民が日常的に訪れる場所になった。またソフトバンクもドーム隣に様々なエンタメが楽しめる複合型施設『BOSS E・ZO FUKUOKA』を20年に開設。野球を数あるエンタメコンテンツのひとつとして捉えたアミューズメントエリアを展開している。
大型施設による「点」の街づくりと並行して、ファーム(2軍や3軍、4軍チーム)を中心とした「面」の展開も地方創生のきっかけとなっている。そのひとつが、ソフトバンクが16年に福岡県筑後市に開業したファーム球場『HAWKSベースボールパーク筑後』だ。
「もうすぐ10年が経つんですが、この施設ができてから、なんと人口がプラスになった。地方人口減少が著しい時代なのに、ですよ。『ホークスの街』としてイメージが向上し、子育て世代が流入してきているそうです」
他球団はもちろん、JリーグやBリーグも視察に来るほどのモデルケースになっているそうだ。
「これは、アカデミー事業にも言えることです。各地に拠点が生まれることで周辺に子育て世代が流入し、地域経済を活性化させる可能性を秘めています」
巨大なボールパークという「点」で人を呼び、各地のファームやアカデミーという「面」で地域経済と結びつく。単なる野球チームの枠を超え、球団は街づくりの仕掛け人となっているのだ。
野球を見せる興行から総合エンタメビジネスへ
ここまで挙げたように、各球団は生き残るため様々な戦略を練っているものの、球界全体が完全に足並みを揃えられているわけではない。長年の歴史と強固なファン基盤を持つ伝統球団には、特有の難しさがあると喜瀬さんは解説する。
「老舗チームがファンサービスを極端にやりすぎると、人が集まりすぎて収拾がつかなくなってしまう。それに、入場料やファンクラブ会員費、グッズ売り上げにより現状でも十分な収益が見込めるので、急激な変革へは舵を切りづらいという事情もあります。東京ヤクルトスワローズが茨城にファーム拠点を作るなど、各チームで時代に合わせた施策はもちろん行なっていますが、裾野を広げるために動こうとしても、簡単には動きづらいジレンマがあるんです」
とはいえ、入場料収入の上限が見え、スポーツやエンタメの市場が多様化する中で、どの球団も次なる一手を模索している。プロ野球ビジネスが秘めるポテンシャルを引き出すには、これまでの枠にとらわれない発想が必要だと喜瀬さんは強調する。
「プロ野球を『限られた12の企業しか持てない希少価値の高いコンテンツ』だと解釈すれば、ビジネスとしての伸びしろはまだたくさんあると思います。近年になってようやく、各球団はその発想に基づいたビジネス展開へと、本腰を入れはじめたといえます」
これからのプロ野球ビジネスの成否は、ここまで見てきた〝2つの両輪〟に集約される。一つは、すでに球場に足を運んでくれているコア層に対し、没入感やホスピタリティーを提供し、体験価値と顧客単価を最大化すること。そしてもう一つが「球場へ行く野球以外の理由」を創出し、ライト層を球場や地域へと巻き込むことだ。これらの施策を通じて、球団、ひいては野球のあり方は変わりつつあると喜瀬さんは語る。
「野球の球団という肩書きでも、実態はエンタメビジネスを行なう企業へと変わりつつある。野球を数あるコンテンツのひとつとして捉え直すことが、これからの時代を生き抜く鍵になるでしょう」
従来の「野球の試合を見せる興行」から、空間と体験を球団自らプロデュースする「総合エンタメビジネス」への進化――ファン人口の横ばいという状況の中でも過去最多の観客動員数を記録できたのは、そんな球界の生存戦略が、コア層の定着とライト層の開拓という形で実を結びはじめた結果といえる。スポーツ市場だけでなく、エンタメ市場の中でも勝ち残るために、球界の〝ペナントレース〟は、これからも続いていく。
CASE 4|オリックス・バファローズ
「推し活」から野球の虜に!あなただけの推しが見つかる仕掛け
オリックス・バファローズは「推し活」を入り口とした戦略で新規ファンを開拓。コンセプトに合わせ選手を魅せる『Bsオリ姫デー』や、球界初の男女混成ユニット『BsGravity』など、野球に詳しくなくても自分だけの推しを見つけて球場へ通いたくなる施策が満載だ。
©ORIX Buffaloes


テーマに合わせて推し選手を堪能できる
女性ファン(オリ姫)向けイベント『Bsオリ姫デー2025』では、コンセプトのメガネ男子に扮した選手がグッズやポスターで登場。アイドルの感覚で推し活ができ、ファンクラブ会員の女性比率40%に貢献している。

力強いパフォーマンスで、選手もファンも元気に
2014年から活動する『BsGirls』と24年活動開始の『BsGuys』によるユニット。オリジナル曲は70曲以上、現役メンバー含め毎年選考が行なわれる実力派だ。26年は継続メンバー5名に新メンバー7名を迎え活動する。
野球界における観客動員数UPの秘訣3か条
1 体験価値を高めてコア層を定着
2 コア層経由のライト層呼び込み
3 野球以外の目的で来場を促進
取材・文/桑元康平=すいのこ 編集/原口りう子
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