帰る家を失った時の緊急支援プログラム「せかいビバーク」。
若い頃に何年か、ホームレス寸前の極貧生活をしたことがあるせいか、今でも「もしホームレスになったら、どこで一晩過ごせるか」という目線で、街のいろいろなスポットを見てしまう哀しい癖がある。だからある時、SNSで某カフェのオーナーの「うちは住まいをなくして突然行き場をなくした方のために、一泊休めて翌日公的支援に繋がる緊急お助けパック(せかいビバーク)の受け取り場所の一つになってます」という投稿を見た時に、「そんなありがたい仕組みがあるのか!」と驚いた。
「せかいビバーク」とは?
「せかいビバーク」をググってみると、特定非営利活動法人「トイミッケ」という団体が運営している活動で、以下のような活動をしている。
(1)1泊分の宿泊手段・食事・移動手段に加えて、乾電池式のモバイルバッテリーや非常食などを入れ、レターパック程度の大きさの封筒にまとめた「緊急支援パッケージ」を作成
(2)地域の飲食店、書店、不動産店、寺院、教会、そして支援を専門としない一般のNPOなどを「受け取りスポット」とし、緊急支援パッケージを預ける
(3)この内容と場所を「せかいビバーク」のサイトで公開
(4)この情報にアクセスした人が、近くの「受け取りスポット」で「緊急支援パッケージ」を受け取れば、その夜を安全な場所過ごすことができる
(5)翌日、同団体スタッフが公的支援につながる方法などをサポートする
2025年11月1日の時点で東京都と埼玉に56法人・67か所の「受け取りスポット」が存在しており、スマホなどの通信機器さえ持っていれば誰でもその場所を知ることができる。事前の煩雑な手続きなどは特に必要ないが、以下の4条件を満たしている必要がある。
(1)住まいを失い、今夜安心して泊まることができない
(2)翌日、公的な相談機関や民間の支援団体へつながることを約束できる
(3)まだ一度も「せかいビバーク」を利用したことがない
(4)自分の電子機器で本サイトを読み、自分で電子的な連絡手段を所有している
条件といってもハードルは極めて低く、今晩泊る場所がないほとんどの人にあてはまるのではないだろうか。
しかも(3)を見ると利用できるのは一度だけのように見えるが、サイトには「一度利用された方専用ご相談フォーム」も存在する。そこには「必ずお力になれます!明日も行き場が決まらなければ本フォームからご連絡下さい!」という頼もしい言葉が…。「必ずお力になれます!」という言葉を若い頃の自分が聞いていたら、号泣したかもしれない。
それにしても、この活動をしているのはどのような団体で、なぜこうした活動をしているのか。特定非営利活動法人「トイミッケ」代表理事の佐々木大志郎氏に話を聞いた。
きっかけは、コロナ禍でのネットカフェ休業要請
佐々木氏によると、「せかいビバーク」の活動が始まったきっかけは、2020年4月の新型コロナによる緊急事態宣言だった。このとき、ネットカフェなどに休業要請が出されたため、結果として、ネットカフェで暮らしていた(推計)4千人の人が突然、「今夜の寝場所」を失う危機が発生した。
佐々木氏らはコロナ禍が本格化した2020年3月から、「新型コロナ災害アクション」として、緊急駆けつけ支援を行ってきた。これは相談フォームに届いたSOSに対し、スタッフがその人がいる場所まで全件駆けつけるという、他に類をみない体制の支援だった(現在も「緊急アクション」として継続中)。
コロナ禍で対面での集団的な支援を避けて感染リスクを下げるための、いわば苦肉の策だったが、こうした支援から従来のホームレスのための生活支援の形ではリーチできない、新たな貧困層である「見えないホームレス」を数多く発見することにつながったのだという。
そして、スタッフにとってあまりに負担が大きいこの緊急駆けつけ支援を、持続可能なスタイルにするためにうまれたのが、都市の中に、一般市民とITCの力で「駆け込み寺」を作る「せかいビバーク」のシステムだったのだ。
「せかいビバーク」は佐々木氏が「一般社団法人 つくろい東京ファンド」という団体内で立ち上げたが、同氏が2022年10月からネットカフェなどで暮らす人の支援を専門とする「NPO法人 トイミッケ」を設立し、2025年11月から「せかいビバーク」も同NPOが中心となって取り組んでいる。
疑問(1)…ネットカフェも増えている今、ホームレス状態の人は減少しているのでは?
だがここまで聞いて、素朴な疑問が浮かんだ。コロナも収束し、ネットカフェも通常に営業している今、それほどの需要はないのでは…?現に国の調査では「ホームレス状態」の人は減少しているという報告もある。
だが佐々木氏によると、コロナ禍の中で始まったギグワークやスポットワークアプリなどで生計を立てながら、ネットルームで寝泊まりをする不安定な働き方が、一部の層で定着していることで、“見えないホームレス化”が進んでいるのだという。
「ネットカフェをチェックアウトして、その日のうちにスキマバイトなどで仕事を探し、夕方までに見つかれば働いて、そのお金でその日の宿泊と食事をまかなう。そして翌日も同じことを繰り返す、そういう循環の中で生活していると一見、それでも回っているように見えます。でも何かの都合で入金が遅れたりすることもありますし、避けられない理由で仕事が完遂できなかったためにアカウント停止になると、次の仕事自体が取れなくなってしまいます。ホームレスになるリスクと常に隣り合わせで仕事をしているのに、ある意味『不安定に安定』しており、その時点では困っていません。そのことが私達支援団体のアウトリーチを困難にしているといえます」(佐々木氏)
もうひとつ問題なのは、かろうじて踏みとどまっているために、役所などの公的調査には「存在しないもの」として扱われてしまい、公的支援が届きにくくなっていること。国が行っている全国ホームレス実態調査は、日中路上にいる人を目視で数えているにすぎず、例えば、スキマバイトが入らず、夜になって急に泊れる場所がなくなったようなケースはカウントされていない。ちなみに2024年度にせかいビバークにつながった人のうち、20代・30代が全体の5割、40代まで含めると7割が若年層だというから、驚きだ。







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