畳を“アート”に昇華する――『山田一(やまだはじめ)畳店』5代目・山田憲司さん
岐阜県羽鳥市の畳職人・山田憲司さんは、2018年から光の反射による畳の色の変化を利用し、多様なデザインの畳を制作するアーティストでもある。
山田さんは、大学の建築学科を卒業後、建築会社に勤め、2017年に退職。「ほぼ1年間、ニートでした」と笑う。
「実家が100年続く畳屋だったこともあり、畳を作ったことはありませんでしたが、親しみと興味はありました。ある日、友人から『車の後ろを畳張りにしてほしい』というリクエストをもらい、時間はあまるほどあったので変わったものを作り始めました。
その一つが、畳の目の向きを変えて表現するデザイン畳です。畳は、目の向きや光の反射で、同じ素材でも色が変わって見えます。それを利用したものが、チェッカーズフラッグのような配置で知られる琉球畳。10度、45度と、微妙に角度を変えたらどうなるんだろうと、いろいろな形や角度を試していきました」


デザインする際に欠かせない道具。畳の目の向きを微妙に変えてある(写真提供:山田一畳店)
ほどなくして山田さんは家業を継ぎ、畳職人として一般的な畳も手がけるように。
仕事の合間を縫って、三角、丸、自由曲線など、少しずつ他にはない畳を制作しては、SNSにアップ。新潟県加茂市の本量寺の龍の畳がSNSで数百万PVと大バズし、知名度は一気に広がった。
山田さんの作品はとても華やかだが、なにも奇抜さを狙っているわけではない。一人の畳職人として、畳の価値を向上したいというのが真の願いだ。だからこそ、年々、畳の数が減っている現実は、悪い面だけではないのでは?と考えるに至ったそうだ。
「かつて畳は格式の高い人のためのもので、高級品でした。これこそ、畳がプロダクトとして未来に受け継がれるヒントのように感じます。
ここ30年、生活様式の変化もあり、畳の数は減り続けています。でもそれは必然かもしれません。戦後の復興で爆発的に増えた粗悪な畳が淘汰され、畳の価値を高めるターニングポイントにきているのではないでしょうか」
また、畳の価値を向上するべく多彩なデザインを発表する中で、「畳はまだまだ美術的な価値が認められていない」と悔しがる。
「今の僕は、変わったことをしているおじさん(笑)。デザインすることと、美術的な価値は、またちがうのだと痛感しています。僕の夢は、ベルサイユ宮殿やニューヨーク近代美術館に畳を展示することなのですが、欧米の美術展や画廊にプロモーションをかけても芸術畑の人にはまったく相手にされません。
でも、諦めたわけではありません。火焔型土器も、もとは実用の器だったのにアートとして認められた。友禅染も、500年前から絵を描いたことで、実用品から芸術になった。僕は、畳の歴史にターニングポイントをつくろうと、新たな表現を模索しているところです」
新たな表現の一つが、畳の建築材料という側面を活かした作品だ。2023年に東福寺・光明院で発表した「鶴休飲水図」では、枯山水の庭を水飲み場に見立て、部屋の中に水を飲みに来た鶴を畳で描いた。

「一般的なアートは、作品を床やテーブルなどに置きます。つまり世界から分断される。でも畳は床材なので、外部と内部の境界線があいまいになり、空間そのものが作品になるんです」
この3月には、名古屋市のギャラリーで3人展を開催。そこでは鏡を使った新たな作品も発表する予定だ。
「僕の作品に使う畳は、一般的な畳の部屋と同じように、全部同じ素材・色のい草を使っています。それを畳の角度で色のちがいを演出しているわけですが、一般的な畳も、立つ場所や光の当たり方で美しさが変わります。朝と夜、夏と冬、晴れと雨。それぞれちがって、それぞれ美しい。1300年近くも使われる床材の、底知れない可能性を感じます」
空間を丸ごと使う山田さんの作品は、見る人がその世界に入り込めることも大きな特徴だ。それゆえ、発表の機会は限られるから、作品展は超貴重!入場無料なので、興味のある人は訪れてみてほしい。
【作品展】
「三人展」
2026年 3月27日(金)~3月29日(日)・入場無料
会場:岳見町ギャラリー(愛媛県名古屋市瑞穂区岳見町2-3)
開催時間:
3月27日(金)13:00~18:00
3月28日(土)10:00~18:00
3月29日(日)10:00~16:00
個展 「畳は芸術か?否か?Ⅱ」
2027年1月14日(木)~1月18日(月)・入場無料
会場:松坂屋名古屋(愛知県名古屋市中区栄3-16-1)
開催時間:10:00~18:00
文/ニイミユカ







DIME MAGAZINE


















