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近い将来、畳がなくなる!?海外進出、飲み物化、アート、畳業界が目指す未来図

2026.03.25

私ごとで恐縮だが、筆者は田舎で生まれ育ち、実家は100年をゆうに超える日本家屋だ。だから家のほとんどの部屋は畳張りで、夏休み、川遊びの後でゴロリと畳に寝そべる時間が大好きだった。

こんなふうに、畳となんらかの記憶が結びついている日本人は多いのでは?ところが、そんな畳が近い将来なくなるかもしれないという。

農林水産省の調べによると、全盛期の1996年に約2694万枚あった畳表生産量が、2025年には約103万枚にまで減少。1996年から約9割減少し、国内受給率は約70%から約18%まで低下。これにより、畳職人や畳屋、そして原材料のい草を育てる農家も減少しているそうだ。

夏はすずしく、冬は暖かい。独特の、爽やかでなつかしい香り。フローリングにはないやわらかさや、思わずゴロゴロと寝そべりたくなる感触……畳の魅力は唯一無二である。畳のない未来なんて、想像できない!

そこで、様々なかたちで畳を未来に受け継ぐべく奮闘する3者に話を聞いた。

(写真提供:久保木畳店)

畳は日本発祥の床材

まず、ご存知だろうか?「畳」は日本発祥の床材であり、約1300年もの歴史を持つことを。

日本で古くから親しまれている、茶碗、らん間、襖、刀などの伝統工芸品。その多くは、大陸(中国)から日本に伝わり、独自の進化を遂げてきた。その中において、畳は西暦700年ごろに日本で生まれ、奈良時代に聖武天皇が使用した「御床畳(ごしょうのたたみ)」が最古の記録だ。

平安時代には、貴族が板間に置く座具や寝具として使われ、鎌倉時代になると部屋全体に敷き詰められるように。すこしずつ一般に普及していったのは江戸時代中期以降で、明治維新以降、庶民にも一気に浸透。戦後の高度経済成長期に入ると、新築戸建の増加も合間って、生産量は一気に倍増した。

畳は、規定のサイズはあるが、部屋に合わせてオーダーメイドで作られる。まさに職人技だ(写真提供:久保木畳店)

「高度経済成長期には、団塊の世代がどんどん家を建てました。畳は大衆化して、どの畳屋さんも大忙しだったそうです。でも今は、仕事がないと悩むほうが多い」

そう話すのは、1740年に創業した、福島県須賀川市の畳メーカー『久保木畳店』代表取締役の久保木史朗さんだ。老舗である『久保木畳店』も例外ではなく、東京で会社員をしていた久保木さんは、7年前に父親から苦悩を聞き、家業を継いだ。

銀座店の前に立つ『久保木畳店』代表取締役の久保木史朗さん。もともと東京でITエンジニアをしていた(写真提供:久保木畳店)

畳業界が苦しくなった原因の一つは、畳屋にあると久保木さんは言う。

「高度経済成長期に価格競争が起こり、畳屋の多くは安さをウリにするため、品質が低い外国産のい草を使い、粗悪な畳が普及しました。粗悪な畳は、すぐぼろぼろになり、ささくれ、黒ずんでしまう。そのイメージもあり、畳はすぐに傷むと消費者から敬遠されてしまいました。

外国産い草の流通増加により、質のよいい草を育てる日本の農家さんも減少しています。畳屋は、自分で自分の首を絞めてしまったのです」

刈り取られてすぐのい草。青々として美しい(写真提供:久保木畳店)

久保木さんによると、日本のい草のほとんどを生産するのは熊本県八代市だ。八代市のい草農家は現在約200軒で、ここ20年間、毎年平均すると41軒が廃業。30年間、残念ながら新規就労者はいないそうだ。

久保木さんは熊本のい草農家さんのもとを訪ね、刈り取り作業を手伝った(写真提供:久保木畳店)

“海外進出”と“産業観光”で真の価値を伝える――『久保木畳店』15代目・久保木史朗さん

つまり畳は、背水の陣である。

2020年から、『久保木畳店』15代目の久保木史朗さんが取り組むのは、国内外に真の価値を伝えるPR活動だ。畳の本質を伝えることで、少々値が張っても本当によいものを求める人が増え、日本のい草農家の減少も食い止めたいと考えている。

い草を編んだ畳表を縫い合わせる作業(写真提供:久保木畳店)

久保木さんによると、畳の真の価値は「癒しを届ける」ことと「暮らしを豊かにする」こと。これには3つのファクターがある。

(1)よい香りがする
「畳には、フィトンチッドとバニリンという成分が含まれています。フィトンチッドは、リラックス、抗菌・防虫・防カビ、森林浴効果などがある揮発性物質。バニリンは、リラックスや集中力向上などが期待できるい草の香りの主成分です。どちらも嗅ぐことで副交感神経が優位になり、だから帰宅して畳があると心が安らぐのです」

(2)耐久性がある
「国産の良質ない草は、1本1本、身が詰まっています。これにより、摩擦に強く、より長く使っていただけます」

(3)経年美化
「耐久性に優れた畳は、摩擦や日光などにより、時間が経つと美しく色が変わっていきます。その様子を毎日眺めることで、こころが豊かになり、生活も豊かになります」

これらの魅力を、『久保木畳店』はNYやパリなど海外でのPRイベントや、銀座の直営店、自社ウェブサイトなどを通して発信。現在、世界30カ国に自社輸出している。

JAPAN HOUSE Los AngelesでのPRイベント(写真提供:久保木畳店)

「正直、輸出数はさほど多くはありません。国内では歴史の古い畳ですが、そもそも畳を知らない海外の方々はまだまだ多い。優れた床材の一つとして、文化のちがう国々にどう発信していくかは、模索している途中です。

2025年1月、「パリ日本文化会館」での講演のようす(写真提供:久保木畳店)

一方で、魅力が伝わった方々は、国境を超えて『使いたい』と連絡をくださったり、銀座の直営店へ見に来たりしてくださる。現在は、海外に在住されている日本人のお客さまからの需要がもっとも多いですね。国でいえば、アメリカが断トツ。ヨーロッパはやや苦戦しています」

また、3年前には自社工場を改装。畳の魅力を体験できる複合施設「TATAMI VILLAGE(タタミ・ビレッジ)」をオープンした。

ここでは、工場見学、畳作りのワークショップ体験、畳を使ったアイテムが並ぶショップ、畳の空間でくつろげるカフェが、予約不要で誰でも楽しめる。

複合施設「TATAMI VILLAGE(タタミ・ビレッジ)」(写真提供:久保木畳店)
職人の仕事を目の前で見学したり、体験したりできる(写真提供:久保木畳店)
畳のない家の人たちも畳のある空間を味わえるカフェ(写真提供:久保木畳店)

「地元の小中学生が授業で見学に来たり、地域の方がカフェを利用してくださったり、ここ1年ほどはインバウンドの観光客も増えてきました。

わたしたちが拠点を構える福島県須賀川町は、あまり観光できる場所がないのですが、『TATAMI VILLAGE』が産業観光として街の新たな一手になれば。行政とも連携して、世界中から人を呼ぶ努力をしています」

さらにこの4月には、イタリア・ミラノでインテリアデザイナーに向けた合同展示会を予定。畳という素材のよさを伝え、海外からのオーダーを増やしたいと、久保木さんは心を燃やす。

施工例のひとつ。モダンな空間に畳が溶け込んでいる(写真提供:久保木畳店)

「わたしが受け継ぎ、7年目。一つひとつ、トライ&エラーですが、講演会などで各地の畳屋さんにノウハウをシェアする機会も生まれ始めました。それに、ここ1~2年で熊本のい草農家さんたちの収入が上がったとも聞いています。だから何よりも、実行することが大事。

今後やってみたいことは、ラグジュアリーホテルに畳の空間を作ること。日本のホテルは、まだまだ洋室メインです。和を感じられるジャパニーズ・スイート・ルームができるよう、アプローチしているところです」

老舗『久保木畳店』の畳を未来に受け継ぐ活動は、夢半ば。今後の動きにも注目したい。

【ショップ・施設】
・TATAMI VILLAGE
福島県須賀市仲の町55
営業時間 11:00~17:00・水曜定休

・久保木畳東京 KUBOKI TATAMI TOKYO
東京都中央区銀座2-11-18
営業時間: 10:00~17:00(不定休)

1983年、兵庫県生まれ、東京・浅草在住。朝ランが日課の編集者・ライター。女児の母。大阪の大学を卒業後に上京。編集プロダクション勤務を経て、フリーランスに。「衣食住子」と地に足のついた企画を編集・取材・執筆しています。Instagram @yuknote

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