マーケッターとして「おひとりさま」「草食系」など数々のトレンドワードを世に広め、テレビのコメンテーターとしても活躍中の牛窪恵さん。実は牛窪さんが熱狂的な阪神ファンだということをご存じでしょうか?
大学教授でMBAホルダーでもある著者が、推し活と行動経済学などの研究を経て導き出した「Well-being(幸福感)」に繋がるキーワード、それが「阪神ファンと熱狂」でした。毎年40試合前後を球場で観戦する著者だからこそ気づいた、彼らの体感的リアリティと行動心理の意外な関係をまとめた新著『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』から阪神ファン自身も気づいていない「幸福感」に繋がるヒントをピックアップして紹介していきます。
選手と自分を重ねる「一体化感情」で「よし、頑張ろう」と思える
「阪神ファンにとって、タイガースは『趣味』ではない、『人生』そのものなんです」。以前、私がコメンテーターとしてレギュラー出演していたテレビ番組(NHK総合「サタデーウオッチ9」)でそう発言すると、ご覧になった人の一部から、「言いすぎではないか」や「よく意味がわからない」などのコメントを頂きました。
ですが、阪神ファンの皆さんは、「そうそう」と共感してくださるかもしれません。
なにしろ、甲子園では「勝っても負けても虎命」というフレーズを刺繍したユニフォームを、しばしば見かけるほど。熱狂的な阪神ファンにとって、それほどタイガースは「命」「人生」との思い入れが強い証しでしょう。
そう、阪神ファンが一体感を感じるのは、ファン同士だけではないのです。チームや選手に対しても、まるで我が事のように思いをかけ、「大丈夫かな」「ケガしないかな」などと一体感を抱くのが、彼ら(私たち)の特徴でもあります。
こんなこともありました。古巣のホークスを「現役ドラフト」で出された大竹耕太郎投手が、タイガースでプレーを始めた年(23年)のこと。現役ドラフトは、出場機会の少ない中堅選手に「環境を変えて他チームで活躍できるように」と22年から始まった制度で、大竹投手は前年、ホークスでわずか2試合しか登板機会を与えられず、23年に起死回生を懸けていました。
そしてこの年の5月、彼は見事な投球で、相手チームを7回表まで「0点」に抑えたところでマウンドを降りました。直後の7回裏、タイガースの打者陣は、「彼になんとか勝ちを付けてやろう」と一丸となって奮起し、決勝点を挙げました。ベンチでその様子を見ていた大竹投手は、号泣したのですが……。それを見た阪神ファンの多くも、まるで自分ごとのように号泣したり、目に涙を浮かべたりしたのです(私もその一人です・笑)。
ファンがこうした「一体化感情」を抱くことは、「チーム・アイデンティフィケーション(Team Identification /チームID)」と呼ばれます。じつは近年、こうしたチームIDが幸福感に繋がる可能性が、複数の論文で指摘されているのです(チームID効果/住田健ほか,(2023),「スポーツ観戦への関与と個人の幸福度との関係」,「日本福祉大学スポーツ科学論集」第6巻,pp.13-23)。
なぜなのか。それは、ある対象(選手ほか)に「拡張された自己」のような一体感を抱く人は、その対象が頑張る姿を見て、「よし、自分も頑張ろう」と決意を新たにしたり、「結果が出なくても、また努力すればいい」など、対象と自分を重ね合わせて励ましたりできるからでしょう。
チームIDは、おもにスポーツやファンに向けた概念ですが、「一体感」の効果が期待できるのは、職場も同じ。仲間と一体感を醸成できる組織では、互いを思いやるため、他者の頑張りや好成績が「自己の満足や誇り」にも繋がりやすいとされています。チームワークが発揮されることによって、組織全体の業務効率や業績の向上にも役立つと考えられるのです(「リスキル」ウェブサイト/25年8月15日掲載)。
具体的には、たとえば普段から皆で「褒め合う」文化を育むと、チームの一体化に効果的であるほか、人材の定着率も上がる(離職率低下)とのデータもあります。
23年、組織エンゲージメントを扱う企業が、「褒め合い」を取り入れているベンチャーの経営者や役員に実施した調査では、約6割の企業がチームミーティングなどに、なんらかの称賛などの時間を設けていました。そのうち、社員の定着率が「『非常に』+『やや』改善された」との回答は、8割以上にのぼったほど。褒める手法では、メンバーの好事例を共有して称賛したり、いいと思った人に「サンクスカード」を手渡したりするなどの声があったといいます(Sunby〈アンパサンド〉「企業の『承認・称賛』文化に関する実態調査」)。
仲間同士でポジティブに褒め合ったり認め合ったりすることが、組織やチームを強くする。まるで「全員野球」(チームプレー)に定評がある、タイガースのようですね! 皆さんの職場でも、「一体化(感)」の施策にトライしてみませんか?
☆ ☆ ☆
いかがだったでしょうか?
なぜ甲子園で見ず知らずの人達とあれほどまでに連帯感をもって応援できるのか、道頓堀に飛び込んでもいいぐらいの気持ちになるのか、阪神ファンたちの行動がまさか幸福とこれほど結びついているとは!
間もなくプロ野球が開幕しますが、彼らの行動から学べることは多そうです。阪神ファンから学ぶウェルビーイングのヒントが詰まった一冊、ぜひ書店やオンラインでチェックしてみてくださいね。

「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう
マーケッターが気づいた「効果と法則」
牛窪 恵(著) 集英社
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790234-1
牛窪 恵
世代・トレンド評論家/立教大学大学院客員教授/修士(MBA)
マーケティング会社インフィニティを20余年経営し、大手企業各社と数千人の消費者を取材。
その知見から、財務省 財政制度等審議会専門委員や内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターなど、数多くの政府委員や研究会メンバーを歴任してきた。
マーケティング関連の著書を通じて「おひとりさま」「草食系(男子)」「年の差婚」などの流行語を世に広める。
近著は『Z世代の頭の中』(日経BP)。
テレビ番組のコメンテーターとしても知られ、現在「ホンマでっか!? TV」(フジテレビ系)、「所さん!事件ですよ」(NHK総合)、「よんチャンTV」(毎日放送)ほかに出演中。
阪神タイガースの大ファンで、毎年40 試合前後を現地(球場)にて観戦。
阪神ファンへの取材経験も多い。推しは森下翔太選手。
DIME最新号の特集は超マニアック野球観戦ガイド、豪華付録「タッチ」と「MIX」のクリアファイル2枚付き!!
侍ジャパンの快進撃で日本中が熱狂中!今こそ読みたい野球特集 WBCでの大谷翔平選手の活躍や韓国、オーストラリアとの激戦など、日本を沸かせる侍ジャパン。その興奮冷…







DIME MAGAZINE












