三井住友カードは2026年3月9日、「stera transitシンポジウム2026」を開催。クレカのタッチ決済を活用した公共交通機関向けソリューション「stera transit」の現状や、今後の新サービスなどについて紹介した。
わかりやすさから“タッチ決済乗車”改め“クレカ乗車”という名称に
タッチ決済乗車は2020年7月、茨城交通の高速バスに導入されたのが日本初。それが今年度末には45都道府県の232事業に展開され、都市部の鉄道や地下鉄から地方のコミュニティバスまで、さまざまな交通事業者で利用されている。
中でもブレイクスルーとなったのが、完全キャッシュレスを掲げて開催された「大阪・関西万博」。2025年4月の開幕に向けて、関西の10事業者が一斉にタッチ決済乗車を導入した。そして2026年3月25日には、首都圏の11事業者による相互利用が始まる。首都圏の約820駅での利用が可能になるなど、その勢いが首都圏にも拡大される。
「今後、ますますの利用拡大が見込まれることから、これまでは“タッチ決済乗車”と言っていたが、わかりやすさを考えて、今後は“クレカ乗車”と呼んでいきたい」と、シンポジウムに登壇した三井住友カードの大西幸彦社長。「2028年度までに1000駅以上での利用を目指す」と意気込む。
今回、首都圏の11事業者が相互利用を開始することで、最も長い距離となるのは神奈川県・箱根の強羅駅から栃木県・鬼怒川温泉駅までで、1都4県をクレカ乗車で移動できるようになる。これほどの規模で一斉に相互利用の環境が整うのは、ロンドンやニューヨークの事例よりもはるかに大きく、世界最大のプロジェクトだと言う。
利用状況も拡大しており、2023年2月の月間利用数が53万件なのに対して、2026年2月は598万件と、過去2年で実に約11倍に増加。今後は2028年度までに、全47都道府県の300事業への導入を実現することが目標で、月間1億件の利用を目指す。
クレカ乗車の導入により課題解決につながる新サービスを展開
「stera transit」の導入効果は、第一に現金の取り扱いが削減できること。中には現金の取り扱いが50%削減できた事業者もあるほどだ。そのほか、チケット購入の混雑が緩和されたり、乗務員の案内業務が低減できたりと、導入事業者の業務負担の軽減に貢献してきた。
そして次なる取り組みが、「stera transit」を活用することで、地域課題を解決することだ。例えば、大阪・関西万博期間中の混雑緩和対策として、昼間の時間帯の乗車に対して運賃の30%をキャッシュバックするピークシフト対策を実施。この施策に対して、万博推進局から一定の効果があったと評価を受けた。また、長崎市内で路面電車を運行する長崎電気軌道では、手荷物を預けての初回乗車に対して、運賃を無料にする施策を実施。前年対比でクレカ乗車の割合が50%になった。
このような地域課題の解決に対して、新たなサービスを展開することを発表。具体的な内容に関しては、同社の石塚雅敏部長から、「MaaS」「定期券サービス」「Vポイントサービス」「マイナンバーカード連携」「イベント割引」の5つの新サービスが紹介された。
■新サービス:MaaS(2026年夏~)
2025年3月に開始した総合交通アプリ「Pass Case(パスケース)」では、1日乗車券などの企画乗車券を販売。ただ購入したものの、利用しなかったケースもある。そこで事前登録型のサービスを開始。事前に対象サービスにエントリー。クレカ乗車した時に対象サービスが適用する場合に割引が受けられる。まず平日オフピーク割引から開始する。
■新サービス:定期券サービス(2027年春頃~)
手持ちのクレカやデビットカード、登録したスマホがそのまま定期券として利用できるサービス。2027年の春頃から金額式の上限サービス、秋頃には区間式の上限サービスに対応する予定だ。金額式では、よく利用する片道運賃額に応じて設定された1か月の上限金額を上回った時に乗り放題になる。一方、区間式では、登録した区間を1か月利用した金額が一定額を超えると乗り放題になる。いずれも上限額よりも少ない月は使った分だけの料金となり、利用が少ない場合に不要な支払いが避けられるメリットがある。
■新サービス:Vポイントサービス(2026年夏以降)
既存鉄道会社などで実施している乗車ポイントを、クレカ乗車にも適用。事前にカードとVポイントのIDを連携しておくことで、乗車金額に応じてVポイントが付与される。
■新サービス:マイナンバーカード連携(2026年4月~)
利用者のマイナンバーカードとクレカ乗車用のカードを紐付けることで、性別や住所、生年月日などの情報を利用した様々な割引を実施。第一弾となる神戸市みなと観光バスでは、70歳以上を対象に割引サービスの実証実験を開始する。年齢を証明する書類を提示することなく、クレカをタッチするだけで割引が適用される。
■新サービス:イベント割引(2026年夏)
クレカ乗車のメリットはチャージが不要という点。これにより係員の案内業務、バスの停車時間、券売機のコストや現金管理など、様々な業務負担の軽減が見込まれる。花火大会や音楽フェスなど、大規模なイベント時には、乗車時間帯によってキャッシュバック等の割引を展開。乗車タイミングを分散させることで、イベント時の混雑解消に寄与する。まずは今夏のいくつかの花火大会への導入を予定する。
「stera transit」の導入事業者には、データを活用できるダッシュボードサービス「Custera transit」の無償提供も開始する。交通機関の乗降データに加え、クレカの属性データ、決済データを可視化できるので、その情報をマーケティングに活用できる。すでに65社が活用しているサービスで、2026年9月までに200社へ提供予定だ。
訪日外国人観光客対策だけじゃない!クレカ乗車の導入効果
「stera transitシンポジウム2026」には、「stera transit」を導入した複数の事業者が登壇。その経緯や課題解決などについての説明を行なった。
■導入事業者:京浜急行電鉄
「京浜急行電鉄は羽田空港に乗り入れしていることから、訪日外国人の利便性向上や係員の案内業務等の効率化を目的にクレカ乗車を導入した。2024年12月に一部駅改札機に導入し、2025年12月に全駅改札機に対応したところ利用者が急増。その内1/3が訪日外国人で、国内の利用者も2/3と多いことから、国内・海外両方の利用者に役立つサービスとなっている」と、同社の鉄道本部 鉄道統括部長の四宮浩氏。
■導入事業者:ニモカ
西日本鉄道グループで、九州を中心に普及しているICカード「nimoca」。「クレカ乗車は2022年7月、訪日外国人観光客の取り込みを目的に西鉄電車で実証実験を実施。その後、路線を拡大し、現在は10社局に導入。2026年度にはさらに7社局が導入予定である。西鉄バスの福岡空港~博多駅線では、クレカ乗車の導入により、2年前と比べて現金決済が約1/3に減少。ICカードとクレカ乗車の両方が伸びる結果となった。お客様が最適な手段を選択できる環境を整えるため、全国交通系ICとクレカ乗車の共生を図る」と、同社の代表取締役社長の田端敦氏。
■導入事業者:熊本地域の5社の路線バスと熊本市、熊本県による共同経営推進室
「熊本県内の路線バスの8割以上が赤字という経営難に加え、運転士の高齢化など、存続の危機に直面していることから、共同経営推進室を設置。既存機器の更新に約12億円が必要になる全国交通系ICを2024年11月に廃止し、その約半額で導入できるクレカ乗車を2025年2月より開始した。この決定には全国からネガティブな意見があったが、とにかく体験してもらうことに力を入れ、キャッシュバックキャンペーンなども実施。その結果、5社バスでの輸送人員は前年比102%と利用するお客様が増えている状況。クレカ乗車はコスト削減の手段ではなく、新しいお客様を連れてくる入口になり得る」と、九州産交バス 共同経営推進室担当の森山諭氏。
最後に国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課の星明彦氏が、「交通キャッシュレス化とデータ連係、共同化等の推進について」、昨年12月に交通政策審議会でとりまとめた内容を紹介した。
大切な部分は、「共同化・協業化の推進」「地方公共団体を支援する外部組織の活用」「公共ライドシェアの実施主体」「データの利活用」の4つ。担い手不足や赤字路線のバスの減便など、地方の交通空白の解消に向けて、交通事業者だけでなく関連する施設、地方公共団体などと共同化・協業化を進めていくことが重要だと考える。
そのためには地域交通DXの推進が不可欠。それらの取り組みを、環境面や予算面で後押しする「交通空間解消等リ・デザイン全面展開プロジェクト(令和8年度)」(受付は終了)を展開。政府が補助金を支援する活動を行なっているので、交通が地域の成長エンジンとなるよう、一緒に取り組みを進めていきたいと告げた。
クレカ乗車に関して、現状や最新事例を紹介する「stera transitシンポジウム」。今回の開催では、クレカ乗車が普及から成長の段階に入ったことが感じられた。首都圏での大規模な導入後、全国交通系ICと並ぶ社会インフラへと着々と成長していくことだろう。
文/綿谷禎子







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