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現役引退後、オフィス勤務へ!39歳で会社員に転身した元日本代表・高萩洋次郎の現在地

2026.03.17

22年間の現役生活にピリオド。昨年、新たな一歩を踏み出した高萩さん

「サラリーマン生活に慣れました」と笑顔を見せる高萩さん

 元サッカー日本代表の大津祐樹さんが、昨年11月1日付けで、ブランド時計の中古品・新品販売などを手がける年商約300億円の企業「株式会社コミット」の代表取締役社長に就任したことが話題になった。

 彼を筆頭に、近年は元Jリーガーがビジネス界に転身するケースが増えている。それだけトップアスリートのセカンドキャリアに対する意識が高まってきたということだろう。

 ただ、必ずしも全員が先々の準備をしながら選手生活を送っているわけではない。日本代表3試合出場という経歴を持ち、2024年末に22年間の現役生活にピリオドを打った高萩洋次郎さんも「現役時代から起業していた彼らとは違って、僕は引退後の進路について具体的な考えを持っていませんでした。選手としてベストを尽くすことしか考えていなかったんです」と偽らざる本音を吐露する。

 1986年生まれの高萩さんは、高校2年生でサンフレッチェ広島のトップチームに昇格。プロデビューは同い年の本田圭佑選手、長友佑都選手(FC東京)らよりはるかに早かった。そこから愛媛FC、FC東京、栃木SCと合計4つのJリーグクラブを渡り歩き、ウエスタン・シドニー、FCソウル、アルビレックス新潟シンガポールという海外3クラブでもプレー。高度なテクニックと鋭い戦術眼で見る者を魅了した。

 引退を決断した後、彼は手探りで就職活動をスタート。2025年9月にプロスポーツチームのデジタルトレーディングカードなどのサービスを提供する株式会社VOLZ(ヴォルツ)に入社し、間もなく半年が経過するところだ。

FC東京時代に共闘した森重真人選手(右)、丹羽大輝選手(中央)と記念撮影(本人提供)

「自分から会社を見に行くマインドで」。カウンセラーの励ましもあって就活を突破

「セカンドキャリアを踏み出すに当たって、重視したのは家族との時間ですね。妻と小学生の娘が2人いるんですが、現役時代は自分に合わせてもらってばかりだったので、できるだけ一緒に過ごせる状況を作りたかった。指導者やクラブスタッフなどサッカーの現場に近い仕事も考えましたが、そうなるとカレンダー通りに休めないし、また家族に負担をかけてしまう。いったんサッカーと切り離して、新たな人生を模索することにしたんです」と彼は言う。

 就職活動に関しては、選手時代のマネージメント先だったジェフ・エンターテイメントと提携していたリクルートエージェントのサポートを受けることになった。

「最初は職務経歴書の作成からスタートしたんですけど、書く内容は全てサッカーのことになってしまいますよね(苦笑)。そこでキャリアカウンセラーに言われたのが、『高萩さんが応募して面接まで進む企業は、そういう経歴でいいと思ってくれている会社。だから自信を持っていい。自分から会社を見に行くくらいにマインドでのぞんでください』ということ。正直、かなり気持ちが楽になりました」と本人は率直な思いを口にする。

 そこから紆余曲折の末、2社と最終面接まで進み、最終的に選択したのが今のVOLZ(ヴォルツ)。同社はスポーツのデジタルトレーディングカードを扱っていて、サッカー界との関わりが深かった。「この会社なら自分の持っているネットワークや経験値を生かせる可能性がある。最終的にサッカーへの恩返しもできるかもしれない」と感じたのが大きかったという。

現役時代には使っていなかったパソコン作業に精を出す高萩さん

Jリーグを支えてくれた裏方のクラブスタッフに改めて感謝の念を抱く

「Jリーグに関して言うと、僕の古巣の広島を筆頭に、浦和レッズ、名古屋グランパスなど12クラブのデジタルカードコレクションを提供しています。

『ガチャガチャ』をイメージしてもらうと分かりやすいと思いますが、サービスに登録して自分の投じたコインからさまざまな選手カードを入手できる。有償ポイントを購入することで、よりレアなカードを手に入れられる確率が上がります。

 いわゆる”推し活”的な楽しみ方ができるサービスで、僕もこういうサッカーとの関わり方、応援の仕方があるとは全く知らなかった。未知なる世界に目を向けるきっかけになると前向きに考えられたんです」と高萩さんは入社の動機を明かす。

 こうして渋谷オフィスへの電車通勤生活が始まった。平日の勤務時間は10~19時。午前練習で午後の早い時間には帰宅できるサッカー選手に比べると明らかに拘束時間が長い。そこに戸惑う元選手も少なくないが、彼は「週末休める方がリズムを作りやすいし、そんなに負担にはならなかった」とスムーズに適応したという。

 配属されたのは、ソリューションデザイン部リレーショングループ。クライアントやユーザーとの関係を円滑にする役割だ。もともとパソコンスキルは皆無に近かった高萩さんだが、1から入力を覚え、ワードやエクセル、パワポなども同僚に教わりながら何とか習得。打ち合わせやミーティングも精力的にこなしている様子だ。

「今の会社は昨年9月末まで『株式会社Tixplus(ティックスプラス)』という社名だったんですが、10月1日から分社化され、VOLZ(ヴォルツ)になりました。ちょうどそういうタイミングだったので、各クライアントに挨拶回りに行くことが多かったんです。

 サッカー関係で最初に出向いたのは、セレッソ大阪。お会いしたのはフロントスタッフで、それまで面識はなかったんですけど、Jクラブでどういう人が働いているのかを知る貴重な機会になりました。

 僕は長年、いろんなクラブでプレーしましたけど、営業やホームタウン活動、運営面などを支えている人の仕事ぶりを実際に見聞きすることは少なかった。献身的に働く人たちがいてこそ、クラブが成り立っているんだと痛感させられたし、改めて感謝の気持ちが湧き上がってきました」と高萩さんはしみじみと語る。そういうスタッフや関係者とコミュニケーションを密にして、サッカー界を盛り上げていこうという思いもより一段、強まったようだ。

同社が提供しているサンフレッチェ広島のカードコレクション((C)1992 S.FC (C)VOLZ,Inc.)

“推し活”的なサッカーの楽しみ方を知り、違った目線を持てるように

 デジタルトレーディングカードという独特な世界からサッカー、そしてスポーツ界を見るようになり、新たな発見や気づきも数多くあるという。

「今は12クラブを扱っていますが、クラブごとに売上は違いますし、ファンの特性・ニーズも多種多様ですね。かわいい系のカードが好まれるクラブもあれば、硬派なスタイルが人気のクラブもある。自分のイメージとは違うことも多いので、本当に学びが多いです。

 サッカー以外では、バスケットボール(Bリーグ・Wリーグ)、バレーボール(SVリーグ)、卓球(Tリーグ)、ラグビー(リーグワン)、格闘技(RIZIN)のカードを扱っていますが、スター選手の突出した人気、関心度の高さも数字に表れます。特定の個人がフォーカスされるところは、クラブを応援する人の多いサッカーファンと異なる部分。そういったファンの傾向を把握しながら、今後の展開につなげていければいいですね」と高萩さんは意欲を持って仕事と向き合っている。

 同社としてはこの先、取り扱うスポーツの拡大、カードの種類増加、ファン層拡大などに取り組んでいくと見られる。さらにはオフラインも含めてファンエンゲージメントを高めていけるデジタルサービスの開発や運営、リアルイベントやキャンペーン実施など、カード以外の領域も展開していく構えだという。そういう中、高萩さんの力を発揮できそうなことは少なくない。古巣であるFC東京や愛媛、栃木SCとの関係構築も考えられるし、他のチームとのネットワーク強化も可能だろう。彼らしいやり方で一歩一歩前進し、サッカーへの恩返しができれば理想的だ。

「僕は現役時代からそうだったんですけど、あまり先のことを具体的に考えられないタイプ。目の前のことと1つ1つしっかり向き合って、選択肢を広げていくことで、何かが生まれると考えています。

 サッカー選手時代とは全く異なる日々なので、大変なことも少なくないですけど、刺激的な時間を過ごせているのは間違いない。半年間も素晴らしい出会いもありましたし、その縁を大事にしていけば、将来への財産になるという手ごたえもあります」と本人も目を輝かせる。

同社のサービスでは高萩さんのレアなカードも入手できる((C)1992 S.FC (C)VOLZ,Inc.)

東日本大震災の辛い経験から辿り着いた「何事もやってみることが大事」。

 高萩さんのセカンドキャリアからも言えることだが、未知なる世界を切り開いていこうと思うなら、新たな一歩を踏み出す勇気と大胆さを持つことが何よりも重要だ。

 2011年3月11日の東日本大震災で故郷・いわき市が被災し、祖母が行方不明になるという辛い経験をした彼は、「一度しかない人生だから、悔いの残らないように積極的にチャレンジすべきだ」という思いを強めた。同年に発足した「東北人魂を持つJ選手の会」にも名を連ね、被災者支援活動を継続しているが、「何事もやってみることが大事」と言い続けている。

「まずトライしてみて、ダメだったら、その時に方向転換すればいい。それが僕の考え方なんです。かつてのJリーガー仲間が身の振り方に並んでいる時なんかも、そういう話をよくしています。

 人生で挑戦したことの全てが経験になりますし、学びにもなる。僕はそういう考え方を大事にしながら、縁あって働くことになったVOLZ(ヴォルツ)で会社のためになることを見つけていきたい。しっかりと戦力になれるように頑張ります」

 今年40歳になる社会人1年生には大いなるポテンシャルがある。地道にコツコツとサッカーに向き合ってきた高萩さんなら、サラリーマン人生も着実な歩みを見せていけるはず。ここからの仕事ぶりを興味深く見守っていきたいものである。

2025年12月のJリーグアヴォーズで広島時代の盟友・森脇良太さん(右)、青山敏弘さん(中央)と

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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