順次新幹線に搭載され、高速走行時の地震による脱線リスクを低減
「究極の安全」を経営のトッププライオリティに掲げるJR東日本グループは、「勇翔2034」で目指す〝すべての人の安心〟の実現に向けて、鉄道輸送における地震等の安全性向上に取り組んでいる。
そんな同社では2026年3月10日、新幹線では日本初となる、地震発生時の左右方向の揺れに対して車体の揺れを抑制して、脱線リスクを最大約5割低減させる(※1)『地震対策左右動ダンパ(※2)』の開発完了を発表した。
2027年秋から2032年度にかけて順次新幹線に搭載して、高速走行時の地震による脱線リスクをさらに低減させていく。
※1 中越地震相当の地震動の場合
※2 左右動ダンパ:車体の左右方向の揺れを抑制し、乗り心地向上を図る装置
■開発の背景
JR東日本グループでは過去の地震を教訓として、「設備の耐震補強対策」、「列車緊急停止対策」、「列車の線路からの逸脱防止対策」に取り組んできた。
このうち「列車の線路からの逸脱防止対策」については、2004年の新潟県中越地震での新幹線脱線事故の教訓を踏まえ、2008年から(公財)鉄道総合技術研究所の協力を得て、走行中の列車の脱線・逸脱のリスクを低減する地震対策ダンパの開発に着手。
ALFA-Xや既存車両での検証を経て、2023年4月7日に「福島県沖地震に関する対策の方向性」において公表した車体の横揺れを和らげる「地震対策左右動ダンパ」の開発が完了したことが発表された。
同社では、2027年度秋から順次当社の新幹線車両E5系、E6系、E7系、E8系に導入していくと説明している。
<図1 試験時の様子(画像提供:(公財)鉄道総合技術研究所)>

地震対策左右動ダンパの概要
従来型の左右動ダンパは乗り心地向上のための装置であったが、新たに開発した地震対策左右動ダンパは乗り心地に加えて、脱線・逸脱リスク低減を図る装置でもある。
■脱線リスク低減のメカニズム
地震動により車体が大きく左右に揺らされることで、車輪が持ち上がり、最終的に脱線を引き起こしていく。
今回新たに導入する地震対策左右動ダンパでは、地震動が車体に伝わる過程でその振動を低減させ、車体の左右の揺れを抑えることで脱線や逸脱のリスクを低減させる。
地震対策左右動ダンパは、地震時の大きな振動に対してもダンパの効果を発揮できるように、従来型のダンパに対してさらに大きな力を吸収できるようなダンパ構造としている。

■新システムによる脱線・逸脱リスク低減効果
今回開発された地震対策左右動ダンパを導入することで、地震動の条件により脱線確率が最大約5割低減することなど、地震時の脱線確率が低減することが確認されている。
また、2022年福島県沖地震相当のような地震動に対しても、脱線・逸脱の抑制に効果があることを確認しているという。
<図2 地震対策左右動ダンパのはたらき>

■使用開始時期と工事費
2027年秋以降、順次地震対策左右動ダンパへの取り替えが行なわれ、E5系・E6系・E8系は2031年度、E7系は2032年度までの導入が予定されている。車両改造費用、メンテナンス設備整備費用等を含む工事費は約100億円。
参考:過去の地震と対策
<新潟県中越地震(2004年10月23日発生)>
・車両ガイド機構
脱線後の車両がレールから大きく逸脱することを防止する。
・レール締結装置の改良
車両が脱線し、レール締結装置が破損しても車輪をレールで誘導できるようにレールの転倒ならびに大幅な横移動を防ぐ。
・接着絶縁継目(IJ)の改良
脱線した車輪による接着絶縁継目(IJ)の破断を防ぐ。
<東日本大震災(2011年3月11日発生)>
・列車緊急停止対策
新幹線早期検知地震計を増設し、およびP波による緊急停止警報発報までの時間を短縮する。
・耐震補強対策
広範囲にさまざまな構造物が被害を受け、発生が懸念される首都圏直下維新に備えて、従前からの対策の対象や範囲を拡大し耐震補強を行なっている。
・列車の線路からの逸脱防止対策
すべての新幹線車両へのL型車両ガイドおよび脱線対策用接着絶縁継目の設置が完了、各種軌道構造に対応した補強方法を開発し、レール転倒防止装置の整備を進めている。
<福島県沖地震(2021年2月13日、2022年3月16日発生)>
・新たな指標による地震対策優先順位の見直し
地震の発生しやすさに加え、優先度が高い設備の地震対策を推進する。
・新幹線高架橋上コンクリート製電柱の地震対策の推進
特に被害が多かった新幹線高架橋上コンクリート製電柱の全箇所を対象に対策のスピードアップを図る。
・復旧に時間を要する設備の地震対策
新幹線や首都圏在来線などの主要線区において、被災した場合に復旧に時間を要する設備も順次、地震対策を進める。
・耐震補強対策
過去の地震を教訓に、高架橋柱・橋脚・駅舎・電柱等の耐震補強対策を順次実施。今後も福島県沖地震でわかった新たな知見を踏まえた耐震補強対策を進める。
・列車緊急停止対策
今後とも、これまでに蓄積された地震情報に加えて今回の地震の知見を用いて、早期検知手法について弛まぬ改良を継続する。
・列車の線路からの逸脱防止対策
地震による脱線を完全に防ぐことは困難だが、大きく逸脱することを防止するため、一部の箇所で逸脱防止効果を大きくするための改良を行うことと、地震対策左右動ダンパ(新幹線試験車両ALFA-X で試験中)の導入を検討する。レール転倒防止装置についても引き続き、整備を進める。
・耐震補強計画の見直し
2021年2月と2022年3月の福島県沖地震により、新幹線高架橋柱の一部で桁が沈下する被害や、新幹線電柱の損傷が発生したことから、2017年度から進めていた対策全体の優先順位を見直すとともに、補強計画を拡大する。
構成/清水眞希







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