2026年3月9日、週明けのニューヨーク市場は、トランプ大統領が「戦争の早期終結」についてコメントしたことが好感され上昇に転じた。
また米国とイランの戦争長期化や米軍による地上戦力投入を検討との報道を受けて、東京時間に1バレル119.48ドルまで上昇していたWTI原油先物も、トランプ大統領のコメントを受けて大幅反落。市場のリスクオフムードは短期的に大きく後退することになった。果たして世界の株式市場と日本株は、このまま最悪期を脱して長期の上昇トレンドに回帰することができるのか。
三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏から分析リポートが届いたので概要をお伝えする。
1:日本株底打ち「3つの条件」
米国とイランの戦争長期化及び、中東原油の供給懸念から、週明け3月9日の日経平均株価は急落して一時5万1407.66円の安値を付けた。
前回のレポートでは日本株の底打ち・反転の条件として、
(1)米国とイランの和平への動き、
(2)原油価格の落ち着き、
(3)世界株のアンカーである米国市場の底打ち・反転、のいずれか、ないしは複数が必要、
との見通しを提示した。
■原油とVIXのピーク通過
週明けのWTI原油先物は東京時間に一時1バレル119.48ドルまで上昇したが、その後、G7が原油備蓄を放出すると報じられたことをきっかけに下落に転じ、ニューヨーク時間にはトランプ大統領が「イランにはもう空軍も、通信手段も、海軍もない。戦争の終結は近い」とコメントしたことで一時81.19ドルまで急落。3月10日は80ドル台半ばでの推移となっている(図表1)。

また、週明けの米国株市場では、VIX指数(恐怖指数、S&P500のボラティリティ指数)が昨年4月以来となる約35.3ポイントまで上昇したのちに大きく急落したことで(図表2)、世界株のアンカーである米国株が「戦争と原油価格の高騰」という悪材料を咀嚼(そしゃく)して、最悪シナリオを織り込み底打ちしたものと思われる。

このため、足元の相場の変動の中で、日本株底打ちの条件のうち(2)、(3)について確認されたことで、日本株は短期的には「売りのピーク」を通過した可能性が高いものと考えられる。
2:織り込み完了で陳腐化する「戦争」という売り材料h2
米国とイランの戦争については、長期化リスクと原油市場への影響が相場に織り込まれることで、短期的に日本株についても底打ちした可能性が高そうだ。
イランとの戦争について、米国の戦略目標の達成には長い時間を要する可能性が高いが、株式市場への影響という観点からは、大きな市場変動が急速に生じたことにより、相場として最悪シナリオを織り込んでしまったと言えるだろう。
さらに、イランとイスラエルの確執は今後もこの2国が中東地域に存在する限り長期的に継続する地政学リスクとして残る一方、米国にとっては短期的な相場変動要因としての新鮮味を失っていくように思われる。
■相場の材料として陳腐化していく「遠い国での戦争」
イランの首都であるテヘランとイスラエルのエルサレムは直線距離で約1600キロほどしか離れていないため、互いに保有する弾道ミサイルの射程圏内にある。
このため、両国の緊張状態はまさに「今そこにある地政学リスク」で、今後も安全保障政策や外交戦略に大きな影響を与えることとなりそうだ。
一方、米国は中東地域から約1万キロ離れているため、「遠い国での戦争」を差し迫った危機として意識する米国人は殆どいないだろう。
米国は有史以来、ほとんどの期間に何らかの戦争を継続している。このため、アフガニスタン戦争(2001年10月から約20年間)のように長期化・泥沼化しても、同期間にS&P500種指数が約4.2倍に上昇したように(図表3)、「遠い国での戦争」が米国株に長期にわたり影響を与える可能性は限定的と推察できる。

そして、今回のイランとの戦争も米国のファンダメンタルズに若干の影響を与える「数ある地政学リスクの一つ」となっていく可能性が高いのではないだろうか。
3:日本株の投資インプリケーション
世界最大の産油国である米国は、トランプ大統領が示唆するように
(1)輸出制限、
(2)先物市場への介入、
(3)連邦税の免除、
(4)輸送規制の緩和、
により原油価格とインフレ上昇を一定程度コントロール可能だろう。
一方、中東での戦争と原油価格の高騰が日本固有の「アキレス腱」となる点については注意が必要。日本は中東産原油に8~9割を依存しており、ホルムズ海峡の封鎖は米国と異なり、日本にとっては引き続き大きな問題となりかねないからだ。
また、イランの反撃もあってサウジアラビア産原油の輸送が停滞、在庫の積み上がりを受けて原油の減産が伝えられる点も、日本株固有のリスクとして意識する必要がある。
■米国株より複雑な日本株の今後
国際通貨基金(IMF)は原油価格の10%の上昇により世界経済の成長率が0.1~0.2%ポイントの下押し要因となると試算している。
仮に、原油価格が90ドル水準で今後1年間にわたり推移した場合、経済協力開発機構(OECD)が予想する2026年の日本の経済成長率である+0.9%(2025年12月時点)は、ゼロ近辺まで下振れることとなりかねない点についてもチェックが必要だろう(図表4)。

このため、今後の日本株については、中期的なインフレ懸念、原油供給懸念、景気減速懸念を織り込みながら、3月9日に付けた日経平均の安値5万1407.66円を短期の底値に、時間調整を経て「二番底」を形成した後に、中期的な上昇相場に回帰していく展開を想定している。
ちなみに、日本株の物色動向については、ロシアのウクライナ侵攻後の原油価格急騰を伴う相場展開を踏まえ、
(1)原油・天然ガス・穀物などのコモディティ価格上昇の恩恵を受ける業種、
(2)防衛関連株、そして、出遅れが大きい米国のハイテク株の戻り相場への連動が期待される
(3)AI、半導体、電力関連株、に
物色が向かう展開が考えられる。
まとめとして
米国とイランの戦争長期化への懸念から原油価格が急騰したことで、一時は大きく調整した日本株だが、
(1)米国とイランの和平への動き、
(2)原油価格のピークアウト、
(3)米国株の底打ち・反転、
という3つの底打ち条件のうち2つが確認されたことで、短期的に「売りのピーク」は経過したように思われる。
米国はその有史以来、ほとんどの期間で何らかの戦争を戦っており、遠く離れたイランとの戦争についても数ある「地政学リスク」の一つとして相場を動かす材料としては急速に影響力が低下していくものと想定できる。
一方、日本については、中東産原油への依存度や相対的な経済成長率の低さから、その影響は米国よりもかなり大きくなりそうだ。
今後、日本株が調整期間の中で二番底を付けることで中期の上昇トレンドへ回帰していく展開が想定され、物色動向としては
(1)原油・天然ガス・穀物などの関連業種、
(2)防衛関連株、そして、米国のハイテク株に連動しやすい
(3)AI、半導体、電力関連株、
などが注目を集めそうだ。
構成/清水眞希







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