高齢者が直面する孤独の問題

数え年で99歳(満98歳または99歳)を迎えた長寿を祝う行事である白寿(はくじゅ)だが、今年白寿を迎えた今も図書館で毎月10冊以上の本を借りて読んでいる99歳の女性の話がニュースになっている。
長崎県対馬市の市立つしま図書館によると、この女性は過去8年の間に毎週3冊ずつ本を借りており、現在唯一の90歳代の最高齢利用者であるという。白寿にして充実の読書生活をエンジョイしている日々は見事と言うしかないし頼もしささえ感じられてきそうだ。
考えてみれば時間に余裕がある高齢者のほうが晴耕雨読の生活に適しているのかもしれないが、新たな研究では高齢者は毎日読書をすることで孤独を感じずに済む可能性があることが報告されている。孤独感の軽減において読書は社会活動よりも効果がある可能性すらあるという。
孤独は高齢者の心身の健康にとってシリアスな問題であることがすでに知られている。医療専門家は高齢者のこうしたネガティブな感情に対処するために、社会的なネットワークを広げたり、グループ活動への参加が推奨されることがよくある。しかしながら新しい友人を作ったり、社交イベントに参加したりすることが誰にとっても有効な選択肢となるわけではない。
高齢者は身体能力的な制約、移動手段の利用の困難さなどにより、社会との交流が妨げられることがよくある。また寄り添ってきた配偶者や親しい友人を失うこともあるだろう。その結果、心の支えとなる人的交流の輪が狭まってしまいかねない。健康問題に加えて配偶者の死別によって社会的ネットワークが制限されると社会活動への参加が遠のいてくるのも無理からぬところだ。しかしそれを埋め合わせるに余りある活動として読書が注目されているようだ。
孤独の解消における読書習慣の有効性

高齢者の読書に着目したネバダ大学リノ校とベイラー大学の合同研究チームが2025年9月に「Journal of Social and Personal Relationships」で発表した研究では、読書が実際に孤独感を和らげるのに役立つかどうか、特に社会的ネットワークが限られている高齢者において効果があるかどうかが検証されている。
研究チームは欧州における健康、高齢化、退職に関する調査のデータを分析したのだが、サンプルには地域に居住する54歳以上の成人3万1935人が含まれていた。
調査では各参加者の現在の社会的交流を測定するため、過去1年間に重要な個人的な事柄について話し合った最大7人を挙げてもらった。またこれらの社会的交流に対する全体的な満足度について0から10の尺度での評価が求められた。加えて孤独感を測定するために、標準的な質問票を用いて参加者がどれくらいの頻度で疎外感、孤立感、人的サポートの不足を感じているかが測定された。
調査ではさらに参加者のライフスタイルに関する詳細を収集し、ボランティア活動、生涯学習コースへの参加、クラブ活動への参加といった社会活動への参加頻度を申告した。また参加者が毎日読書をしているか、クロスワードパズルやナンプレといった言葉遊びや数字遊びをしているかなど、一人で過ごす活動についての実態も把握された。
収集したデータを分析した結果、社会的ネットワークが狭い人々において、社会的交流活動と孤独な活動の両方が孤独感の低さと関連していることを明らかにした。つまり孤独感の解消において、読書などの一人で過ごす活動はソーシャルな活動と同等かそれ以上の効果があるのだ。
読書はそれだけで孤独を解消していた

研究チームが当人の過去の孤独感、社会的交流規模の変化、身体的健康状態、インターネットの利用状況、そして性格特性を考慮に入れて変数を調整した後でも、毎日の読書習慣を維持することは孤独感スコアの低下と関連していることが確かめられた。この関係性は毎月の社交活動への参加から得られる効果よりも強かったのである。
研究ではまた生涯学習への参加やボランティア活動といった一般的なグループ活動の多くは、交流範囲が狭い人々にとっては統計的に孤独感緩和の有意な効果を示さなかった。対照的に毎日の読書は孤独感を一貫して和らげていたのだ。
社会的交流活動への参加は、現状の社会的交流の満足度を高める傾向があり、それが孤独感の低下と関連していた。一方で読書は複数のレベルで効果を発揮しており、現状の社会的交流への満足度向上と関連していただけでなく孤独感の軽減にも直接関連していたのだが、人的サポートに対する満足度とは無関係であった。つまり読書はそれだけで孤独を解消しているのである。
読書の孤独解消効果はボランティア活動、生涯学習講座の受講、政治団体や地域団体への参加などの多くの組織的な社会活動よりも顕著に表れていたのだが、同じく孤独な活動であるクロスワードパズルやナンプレは読書ほどには明確な孤独解消効果が示されなかったという。一人で行う同じように見える活動でも孤独解消効果にはレベルの違いがあるのかもしれない。
読書がもたらす「物語移送」とは
読書が孤独を解消する効果を説明するものとして、研究チームは読書が「物語移送(narrative transportation)」と呼ばれる没入感と感情を揺さぶる体験をもたらす現象に起因している可能性があると指摘している。
物語移送は読者が日常の束縛から精神的に逃れ、別の世界に没頭できる心理状態であり、事実かフィクションかに関わらず物語移送を通じてもたらされる情報はリアリティと手応えがあり、孤独感や不安感に抗う心理的サポートになり得るのである。
読書が孤独を解消することは複数の国を対象とした大規模なサンプル調査で一貫しており、ベースラインの孤独感、健康状態、抑うつ状態、性格特性、そして社会的交流規模の変化を考慮した後も維持された。読書は比較的低コストで広く利用できるため、特にネットワークを拡大したり社会参加を増やしたりすることが困難な人々にとっては現実的に大きな意味を持つ可能性がある。
高齢者にとって読書が〝万能薬〟となるわけではないのだが、一人で過ごす規則正しい読書習慣が主観的な社会的孤立を防ぐ心理的な〝抗生物質〟となっていることが今回示されることになった。
さらにそこから一歩進んで守勢に回るだけではなく、むしろ晴耕雨読はリタイア後の大いなる楽しみであるとの新たな認識を胸に期してシニアライフに臨んでみてもよさそうだ。
※研究論文
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/02654075251382321
文/仲田しんじ
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