昆虫学者が採集の許可を取るのが難しいことから避けがちな国があります。南アジアの大国・インドです。先日、カメラ片手にインドに昆虫を撮影しに行ってきましたので、インドで出会った魅力的な昆虫たちについて解説いたします。
インドで昆虫採集をしていいの?
日本は昆虫文化が盛んな国で、研究者でない方でも昆虫採集を楽しんでいますが、他の多くの国ではそうではありません。中でもインドはかなり厳しく、僕たち日本人がインドで昆虫を捕まえて、日本に持ち帰ることは、特別な許可がない限りはできません。インドは昆虫採集をするのが世界で最も難しい国の1つなのです。これにより、昆虫研究者や愛好家は昆虫を求めて訪れる場所としてインドを避ける傾向があり、日本でもインドの昆虫の情報はかなり少ないです。僕も海外に昆虫を探しに行くようになってからインドでの採集は無理なものだと思って生きてきました。
しかし、インドは面積も広く、生物地理学的にも非常に興味深い国です。「採集が無理だから行かない」と言っていてはインドの昆虫たちと僕の間で何も生まれません。採集はできなくても、昆虫そのものや周りの環境に影響を及ぼさない範囲(虫網などの採集道具も一切使わず)での撮影であれば問題ないので、ひとまずカメラ片手に行ってみることにしました。
今回、僕が訪れたのはインド南部の主要都市・バンガロール。人口1400万人以上のIT都市として知られていますが、標高900メートル程の高地に位置する自然豊かな都市でもあります。
インドで出会った昆虫たち
バンガロールの森や公園を歩いていると、日本とは全く違う生き物たちに出会うことができました。その中でも、印象的だった昆虫3点について紹介いたします。
(1) シロアリの巣
公園を歩いていて、まずいきなり目に飛び込んできたのはオーストラリアのエアーズロックのような形をした構造物です。これはシロアリの巣で、いわゆる白蟻塚と呼ばれるものです。バンガロールの森ではいたるところで見られ、僕の身長(175cm)よりもずっと高いものもありました。
(2) ヒイロツバメシジミ
草むらに目を向けると、小さなチョウが飛んでいました。ヒイロツバメシジミという種類で、インド国内では平地から高地まで広い地域で見られる種類です。オレンジ色の模様がよく目立つことから英語では、”Red Pierrot”と呼ばれています。
(3) クサオビリンガ
インド含むアジアやオセアニアに広く分布するコブガ科の一種で、日本の南西諸島でも確認されています。幼虫はオクラやハイビスカスなどのアオイ科植物のほか、トマトやナスなどナス科植物を食害することがあり、農業害虫としても知られています。バンガロールの公園では、非常に多くの個体が確認されました。
インドの野生動物の保全
インドを旅するまでは、インドの人々は昆虫に関心があまりないのかなと思っていたのですが、バタフライガーデンや博物館などの昆虫に関する施設があったり、建造物の装飾にチョウがモチーフになっているものがいくつもあったりと、昆虫への関心が一定量あることが分かりました。
また、昆虫に限らず野生動物の保全に対する意識も高く、国立公園内では野生動物の保護・繁殖を通して絶滅を防ごうとする取り組みが行われています。さらに、こうした活動を活かした子どもたちへの環境教育も盛んに実施されているようです。動物福祉の分野においては、日本よりも進んでいる面もあるように感じました。
そんな野生動物の保全への関心が高まりつつある一方で、人口が増加していることから、急速に開発が進んでおり、昆虫たちが住む森は破壊されつつあります。日本に比べて、どのような種がどのくらい生息しているかの解明度も低いため、まだ見つかっていない種が誰にも知られないまま絶滅してしまわないことを祈るばかりです。
昆虫ハンター・牧田習
博士(農学)。1996年、兵庫県宝塚市出身。2020年に北海道大学理学部を卒業。同年、東京大学大学院農学生命科学研究科に入学し、2025年3月に同大学院博士課程を修了。昆虫採集のために14ヵ国を訪れ、9種の新種を発見している。「ダーウィンが来た!」(NHK)「アナザースカイ」(NTV)などに出演。現在は「趣味の園芸 やさいの時間 里山菜園 有機のチカラ」(NHK)、「猫のひたいほどワイド」(テレビ神奈川)にレギュラー出演中。昆虫をテーマにしたイベントにも多数出演している。
著書:「昆虫博士・牧田習の虫とり完全攻略本」、「昆虫ハンター・牧田習のオドロキ!!昆虫雑学99」(KADOKAWA)、「昆虫ハンター・牧田習と親子で見つけるにほんの昆虫たち」(日東書院本社)、「春夏秋冬いつでも楽しめる昆虫探し」(PARCO出版)好評発売中。Instagram・Xともに@shu1014my
書籍情報
『昆虫博士・牧田習の虫とり完全攻略本』
【Amazonで買う】
文/牧田習







DIME MAGAZINE




















