ここのところ、世の中は少しずつ「平成」を取り戻し始めている。
例えば、長年サブスク解禁していなかったハロー!プロジェクトの楽曲がついにストリーミング配信を開始した。往年のモーニング娘。や松浦亜弥の楽曲を、令和の若い世代がTikTokやプレイリストで楽しむ光景も増えている。
さらに文具売り場では、ぷっくりとした質感の「ボンボンドロップシール(通称ボンドロシール)」が再ブーム。平成の小学生が夢中になったあの立体シールが、全国で即時完売のレアアイテムと化すとは、だれが想像できただろうか。
そして今年は、平成を象徴するプロダクトがそろって節目の年でもある。
1996年に誕生した「ポケモン」、そして同年に登場した「たまごっち」が、ともに30周年を迎えた。携帯ゲームやキーチェーン型デジタルペットに熱狂した記憶は、まさに平成の原風景と言えるだろう。
そこで今回、DIME編集部が「平成を取り戻す」をテーマに1冊ずつ本を持ち寄り、座談会を開催。それぞれの思い出とともに、今あらためて読みたい本を紹介してもらった。
参加メンバーは日頃から読了本を薦め合う@DIME編集部員の井上、井田、高柳、峯の4名。
DIME編集部が選ぶ「平成を取り戻す」1冊
●1冊目『アルジャーノンに花束を』著:ダニエル・キイス
井上「僕が選んだのは『アルジャーノンに花束を』です」
井田「うわ、読んだ読んだ。たぶんみんな一度は読んでる名作だよね」
井上「知的障害を持つチャーリーが、脳の実験でIQを高める話ですね。もともとIQ70くらいだったのが160まで上がる。でも賢くなったことで、これまで周囲が自分にしてきた残酷なことに気づいてしまう」
高柳「世界の解像度が上がって、どんどん辛く感じていくんだよね」
井上「そう。結末は伏せますが、ハッピーエンドかバッドエンドか、人によって解釈が分かれる作品なんです」
峯「でもなんで今これを?」
井上「いまAIで、答えがすぐ手に入る時代じゃないですか。“賢くなることは幸せなのか?”っていう問いは、今の時代にすごく響くと思うんです」
高柳「今読むとまた違う意味で刺さりそう」
井上「AIに聞けば正しい答えは出る。でもそれが幸せなのかは別問題なわけで。チャーリーの物語を追うと、そこを考えさせてくれる」
井田「確かに。平成のうちに2回ドラマ化されたのも印象的だよね。初回はユースケ・サンタマリア、2回目は山下智久主演で」
高柳「懐かしい!話は逸れるけど、平成ドラマといえば『1リットルの涙』の続編が2027年に映画化されるね」
井田「錦戸亮とレミオロメンの続投コメントも、当時ドラマを見ていた世代として刺さった!」
井上「ちなみに平成カルチャーという意味で言うと、漫画なら『行け!稲中卓球部』を推したいですね」
峯「出た~(笑)」
井上「あれこそ平成の空気。くだらなさも含めて、あの時代のエネルギーが全部詰まってる。平成を象徴する漫画と言っていいと思います」
※『行け!稲中卓球部』著:古谷実(講談社)
1993~1996年『週刊ヤングマガジン』で連載された大ヒットギャグ漫画。卓球部としてのシーンは多くなく、個性的な部員6人の日々の青春を描く。1996年講談社漫画賞受賞。累計発行部数は2500万部超え。
●2冊目『向日葵の咲かない夏』著:道尾秀介
井田「私の1冊は、道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』です」
峯「懐かしい。ミステリーだよね」
井田「平成20年の作品なんですが、最近買ったら68刷になっていてびっくりしました」
高柳「すごいロングセラー!」
井田「高校生の頃って、夏休みに“読書するぞ!”って意気込みませんでした? 集英社のナツイチとか、新潮文庫の100冊とか。この本、必ずそこに載ってたんです。表紙もすごく印象的で」
峯「内容ってどんなだっけ?」
井田「主人公が友人Sの死体を見つけるんですが、その後Sが“蜘蛛”の姿で現れて、自分の死の真相を追ってくれと頼んでくる。ミステリーなんだけど、ファンタジーホラーみたいな空気もある」
井上「当時は読まなかったの?」
井田「高校生の頃はちょっと気味悪そうで避けてたんです。でも最近読んだらめちゃくちゃ面白かった。さいきん、道尾秀介『N』を読んで、もっと他の作品も読んでみたいと思って」
※『N』著:道尾秀介(集英社)
2021年発売。6つの章をどの順番で読んでも成立する連作短編で、読む順序により720通りの物語が生まれる「体験型」ミステリー。斬新な手法から、SNSで大きく話題に。
高柳「毎年夏休みフェアに並ぶのも納得の面白さだった?」
井田「最近って、“小説でしか再現できない仕掛け”のある作品が話題になるじゃないですか。映画化不可!みたいに言われるタイプの小説」
峯「ページの向こうが透けて見えるとか、紙の構造を使った演出とか?」
井田「そうそう。もちろんそれも面白いんですけど、『向日葵の咲かない夏』はそういう物理的な仕掛けじゃなくて、物語の構造そのものが映像化しにくい!だから本当に“映画化できないタイプの小説”だと思って新鮮だった」
●3冊目『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』著:花田菜々子
高柳「私の1冊はこちら。『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』です」
峯「ヴィレヴァン(ヴィレッジヴァンガード)の人の本だよね」
高柳「そう。著者はヴィレヴァンに12年勤めた後、蔦屋家電のブックコンシェルジュなどを経て、今は個人書店をやっている方。2018年発売なんだけど、現在の経歴まで追っているファンからすると軌跡が知れて胸熱!」
井田「タイトルのインパクトすごいね」
高柳「そもそも“出会い系サイト”という言い方が平成じゃない?いつの間に出会い系からマッチングに変わったんだろう。内容はタイトル通りで、離婚調停をきっかけに出会い系サイトを使って、男性70人と会うんです。でも目的は恋愛じゃなくて、“その人に合った選書をすること”」
峯「それは新しい(笑)」
高柳「私がこれを平成っぽいと思う理由は、本をディグって、人に勧める行為自体がすごく“ヴィレヴァン的”で懐かしいな、と」
井上「あの黄色いポップ文化ね」
高柳「そうそう。ヴィレヴァンって平成カルチャーの象徴だったと思うんです。みんなが、あのごちゃっとした狭い店内で、自分だけの宝石を見つけに出掛けて・・・」
井田「確かに。本だけじゃなく、くだらないグッズとか不思議なサントラとか、オフラインならではの出会いがたくさんありましたね」
●4冊目『ゲームフリーク 遊びの世界標準を塗り替えるクリエイティブ集団』著:とみざわ昭仁
峯「では、最後の一冊。『ゲームフリーク 遊びの世界標準を塗り替えるクリエイティブ集団』です」
井上「ポケモンの本?表紙のドット絵ピカチュウが可愛い!」
峯「ポケモンを生んだ会社“ゲームフリーク”の誕生を描いた本です」
井田「今年ポケモン30周年だよね?」
峯「そうなんです。だから“平成を取り戻す”なら、やっぱりポケモンだろうと」
高柳「確かに共通言語だ!」
峯「この本の面白いところは、ポケモンがどう生まれたかを当事者に近い人が書いているところ。“虫取りの体験”からアイデアが生まれた話とか」
井上「有名なエピソードだよね」
峯「さらに、ゲームボーイの通信ケーブルっていう、あのギミックをどうやって活かしたか、とか。なぜポケモンがヒットしたのかが全部書かれていて、」
井田「それは読みたい」
峯「この本、実は2000年に出たんですが長く絶版だったんです。古本は中古サイトで何万円にもなっていた。それが2025年に復刊して、また話題になっている」
高柳「まさに平成の名著の復活だ」
峯「30年間愛され続けて、世界的IPになったポケモンの原点を知る意味でも、ぜひ読んでほしいですね」
【今回紹介した本】
文/DIME編集部







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