博報堂生活総合研究所が生活者の「感情に関する意識調査」を実施し、結果を発表した。それによると、6割超が「自分の感情を素直に出せる相手や場が以前より減った」と感じているという。
この結果は、2025年8月から10月にかけて20~69歳の男女、計9314名に対して行われたインターネット調査に基づいたもので、同研究所では「感情ミュート社会」と名付けている。
また、「何か良いことがあったとき、浮かれすぎないよう感情を落ち着かせることがある」という人も、64.1%という結果になっている。ポジティブな感情まで、自ら表現し過ぎないように抑えている生活者も多数存在している。すごく喜ばしい場面でも、「ハイ状態になっているのかも」「失敗した時にダメージを負いたくない」という感情から、自分を抑える傾向が多くなっているようだ。
どんな場面で感情を抑えている?
最も多いのが「仕事の時」で83.2%。これは近年、職場では様々なハラスメントが問題視され、コンプライアンスに従った行動が求められるようになっているからだと分析できる。また、自分の感情のまま発言したり、行動したりすると周囲との摩擦や軋轢を生み、仕事が上手くいかないばかりか、人間関係まで悪くなるので感情を表さない生活者が増えているのだろう。
以前なら本音を言えていたはずの親しい仲の友人や子どもと一緒の時でさえ、抑えているという人も多い。
「こうした場面でも感情を出さないのは、仕事でアンガーマネジメントやコーチングなど、気持ちを管理するノウハウがプライベートにも浸透してきていることが影響しているのかも知れません」と博報堂生活総合研究所の松井博代上席研究員。
つまり「心を平ら」にしているほうが、生きやすい社会になってきていると言えるだろう。
松井博代上席研究員は「環境的に出せなくなっているだけでなく、主体的に出さなくもなっている」とも言う。
一方で「感情を出せる人への憧れ」や「抑えることに疲れる」と感じている人も
自らの感情を出さなかったり、嬉しさも抑えたりしているのに、素直に表せる人に憧れたり、抑えたりして生活することに疲れるといった、相反する意識を持っている生活者も高いスコアを示している。つまり、現代社会の新常識として定着しつつある、「あえて感情を出さない」「自ら心のスイッチを操作する」ということに抵抗感を覚えている人も一定数いるのも事実だ。
あえて感情を出さない「感情ミュート社会」が、新常識として定着しつつある
感情ミュート社会が進んだ背景には、「社会構造の変化」や「人間関係の変化」「生活意識の変化」がある。
雇用の増加で他者と働く人が増え、感情を露わにすると円滑に進まない。また、近年はさまざまな発言や行動がハラスメントと取られかねない。それゆえ、感情を出すと想定外の摩擦や軋轢を生むかも知れない。
タイパなど効率志向が高まる中、感情を出さないほうが無駄なく過ごせるといった背景によって、感情ミュート社会が定着しつつあり、加速していく流れなのだ。
感情ミュートで世の中はどう変わっていく?
自分が発した何気ない一言が、他者の感情を揺さぶったり、傷つけたりして関係が悪くなってしまったという経験があるという人もいるだろう。ならば、最初から言葉使いに気を付け、感情を表さない方がお互いに平穏にいられるというわけだ。
「感情ミュート社会」は新常識として定着しつつあるが、そんな社会の中で生活者は様々な新しい行動を生み出してもいる。
感情を上手く整えたり、伝えたり、あるいは他者の感情に触れるために、例えばXのスペースで知り合った顔も素性も知らない人やAIに自分の気持ちを打ち明けたり、あるいは口喧嘩コンテンツで普段見ることのない感情的なぶつかりを味わったり、といった行動も現れているようだ。つまり「感情ミュート社会」とは、一見すると息苦しいようだが、我々の生活を心地良く、スマートにしてくれる新常識なのだ。
取材・文/松尾直俊







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