「ホテル」は本来、旅や出張のためのインフラである。しかし、その役割を“有事”にまで拡張したビジネスモデルが、いま静かに拡大している。それが、レスキューホテルと呼ばれる、コンテナ型の移動式宿泊施設「HOTEL R9 The Yard」だ。
平時はビジネスホテルとして稼働率約8割を維持しながら、災害時には被災地へ移設され最短3日で仮設宿泊施設等として利用可能という機動力を併せ持つ。2018年12月に開業した1号店を皮切りに、現在、全国で127店舗を展開する。急成長を遂げるその背景について、運営会社である株式会社デベロップ広報の麻生川佳奈さんに話を聞いた。
社会課題から“逆算する”ホテルづくり
もともと同社は、建築用コンテナを活用したトランクルーム事業を全国で展開していた。転機となったのは、2011年の東日本大震災。震災直後に被災地から届いた「備蓄倉庫や宿泊施設としてコンテナを活用できないか」という要請だった。
現地を視察した際、目の当たりにしたのは、避難所の過酷な現実である。間仕切りもない体育館に雑魚寝する環境、プライバシーの欠如、車中泊を余儀なくされる人々。特に、子どもや高齢者、妊婦にとって、その環境は決して安全とは言えなかった。
この体験から生まれたのが、「1台1客室」という発想だ。コンテナであれば、個室空間を確保しながら、必要な場所へ迅速に移動できる。トランクルームとして培ってきた“可搬性”と“独立性”を、宿泊機能へと転用したのである。
ただし、構想から事業化までは約7年を要した。宿泊業のノウハウがなかった同社は、まず通常のホテル運営に取り組み、オペレーションや収益構造を学習。その蓄積を経て、2018年に現在のレスキューホテルの原型を完成させた。
急成長を実現したコンテナ×ワンストップ戦略
レスキューホテルの急拡大を支えるのが、「コンテナ」と「ワンストップ体制」の掛け合わせだ。まずコンテナ構造により、開発スピードが圧倒的に速い。一般的なホテルがゼロから建物を建設するのに対し、このモデルでは外枠となるコンテナを輸入し、現地では設置と内装、アスファルト舗装や水道・電気などインフラ整備のみを行う。その結果、着工から開業まで約9か月という短期間での立ち上げが可能となっている。
さらに、同社は用地取得から建築、運営までをすべて自社で完結する「ワンストップ体制」をとっている。これにより意思決定が迅速化し、年約30店舗という高い出店ペースを実現した。
用地選定においても特徴的だ。主なターゲットは車利用のビジネスパーソンであり、インターチェンジ付近や幹線道路沿い、さらにコンビニや飲食店へのアクセスが重視される。トランクルーム事業で培った土地勘が、出店戦略に活かされている。
コスト構造も徹底的に最適化されている。大浴場やレストランといった付帯設備を排除し、「宿泊機能」に特化。さらにセルフチェックインシステムを導入するなど、運営マニュアルの簡素化を図っており、少人数のスタッフによる運営を可能としている。こうした設計により、1泊6000~7000円台という価格帯を維持しながら、安定した収益を確保している。
平時と有事をつなぐ“二毛作モデル”
通常、災害対応施設は“使われない前提”で整備されることが多いが、レスキューホテルは、平時にはビジネスホテルとして稼働し続ける。主な利用者は30~50代の男性ビジネスパーソンで、出張や工事関連の長期滞在ニーズが中心だ。数週間から数か月単位で滞在するケースやリピート利用も多く、安定した需要を生んでいる。
一方で災害発生時には、コンテナにトレーラーヘッドを接続し、被災地へ移設することで避難施設や仮設宿泊施設等として機能させることができる。コロナ禍では、長崎県でクルーズ船内の集団感染が発生した際、自治体からの要請を受け、コンテナ50台を提供。要請からわずか3日で医療従事者の休憩施設として稼働していた。
基本的には近隣の空いている客室から出動するように調整するが、もし空きがない場合でも、周辺の自社運営ホテルや他社が運営するホテルへ送客するなど、地域全体で受け入れ体制を確保する形で対応しているという。
電気や上下水といったインフラ接続が必要な場合でも約1週間で対応可能であり、休憩用途であれば最短数時間で設置を完了できる。このスピード感は、固定型の建築物では実現し得ない。社会貢献と収益性を両立させる、この“二毛作モデル”で、防災投資がコストではなく、事業として循環する構造を実現した。
災害大国と言われる日本において、「移動可能なインフラ」は今後ますます重要になる。社会課題から生まれ、ビジネスとして磨かれたこの仕組みが、今後さらに進化し、拡がることを期待したい。
【取材協力】
株式会社デベロップ
企画情報システム部 広報担当
麻生川 佳奈さん
https://develop-group.jp/
取材・文 / Kikka







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