世界で最も物価が高い国の一つとして知られるスイス。英国の経済誌「The Economist(エコノミスト)」が発表している「ビッグマック指数」ランキングでは毎回堂々の1位に輝いている。
2026年2月末現在、スイスにおけるビッグマック(単品)の値段は、店舗により多少変動はあるがおよそ7.2スイスフラン。これは日本円に換算すると約1450円で、最近500円に値上げされた日本のビッグマックと比べても3倍の値段差がある。

「ビッグマック」が比較対象にされるのは、世界各国にあるどのマクドナルドの店舗でも買える商品で、しかも同じ原材料が使用されているから、というのがその理由だが、実際にスイスのマクドナルドへ行ってみれば、ビッグマック指標だけでは見えないこの国特有の事情が見え隠れする。
マックへ行けばスイスの多言語な社会が見える
スイス国内のほぼすべての店舗に設置されている注文用タッチパネル(セルフオーダーキオスク)の前に立つと、まず目につくのは「言語」だ。
スイスは九州ほどの大きさしかない小さな国だが、公用語は4つもある多言語国家である。その結果、1%以下しか話者がいないロマンシュ語を除くドイツ語、フランス語、イタリア語で注文ができるようになっており、それに加えて世界中から訪れる多くの観光客用に英語もある。
そしてドリンクメニューを見てみると、ここにも複数の文化圏を持つスイスらしいメニューが展開されていた。例えばホットドリンクはやたらコーヒーの種類が多い。カフェ・クレーム、エスプレッソにドッピオエスプレッソ、カフェオレ、カプチーノ、カフェ・オ・レ、リストレット、ラッテ・マキアートなどなど。
「カフェ・クレーム(Café Crème)」はスイス独特のコーヒーで、エスプレッソと同じ抽出法で作られるがエスプレッソよりも大きなカップで提供される。
コーヒーの種類が多いのは、それぞれの文化圏で好みのコーヒーが異なるからだ。ちなみにコーヒー以外にはホットチョコレートや数種類のホットティーもあり、選択肢が多い。
値段はそれぞれ2.5スイスフラン(約500円)と2.9スイスフラン(約580円)。
同様に「朝マック」もちょっとユニークだ。
日本と同じくエッグマックマフィンはあるが、それ以外はクロワッサンやパン・オ・チョコラ、さらにはドーナツにマフィンと「これって朝食というよりおやつでは?」と首をかしげてしまいそうなスイーツが大半を占める。ちなみにスイーツ系は朝マックの時間帯でなくても買える。
これもスイスの朝食文化を反映しているように思える。普段の朝はコーヒーとクロワッサンなどパン一個程度で軽く済ませるドイツ語圏やフランス語圏の人たちに対し、イタリア語圏ではクッキーやケーキといった甘いものを朝食に好んで食べる人が少なくない。
このようにメニューをスイスの3つの文化圏に沿ったものにした結果、不思議なラインナップとなったようだ。
そのスイーツの中でも日本にはないミニドーナツ「マックポップストリオ(McPops Trio)」は、それぞれ異なるフレーバー(アップル&シナモン、ワイルドベリー、ヘーゼルナッツチョコ)が楽しめ、サイズ感もちょうど良く、そしてコーヒーにも合う。甘さ控えめの菓子パンのようで食べやすいため「朝マック」でもアリなのかもしれない。


「コスパ」だけでは不十分?“上質感”も求められるスイスのマック
先述の通り「ビッグマック指数」世界1位のスイスは物価が高い国である。
外食もその例外ではなく、観光や留学、ビジネスでスイスに滞在中、レストランやカフェでの会計時に金額を見て卒倒しかけたという日本人の話もちょくちょく耳にする。
そんな外食費が高くつくスイスにおいて、マクドナルドは「安・近・短」――全国どこにでもあり、リーズナブルな値段で手軽に楽しめる位置づけにあると言って良いだろう。と書くと「ビッグマック単品で1500円近くするマックが“安”なわけないだろう」となりそうだが、この国ではごく普通のカジュアルなレストランでワンプレートランチをするだけで、一人当たり20~30スイスフラン(約4020円~6030円)はする。これにドリンクを追加したりチップを払ったりすればもっと高くなる。
そう考えるとスイスのマックは財布に比較的優しい印象だ。アプリでは20%~50%ほど安くなる割引クーポンもあり、特に若者や学生には嬉しい。

とはいえスイスのマックも「安かろう、悪かろう」というイメージを持たれたくない。そのため「Made in スイス」を前面に押し出して品質の高さをアピールしており、実際原材料の9割近くはスイス国内の仕入先から調達されている。またスイスの郷土料理であるチーズフォンデュやラクレットチーズを使った期間限定メニューを出したりして「スイスクオリティ」を強調する。
なぜならスイスの人たちは国産志向が強く、多少高額になろうとも高品質のものを求める傾向があるからだ。したがってコスパが良いだけではそっぽをむかれてしまう。

そこで「コスパが良い」だけではなく、どことなくハイエンドな雰囲気を漂わせる工夫をしているように見受けられる。例をいくつか挙げると、卵は国産であることはもちろん、すべて「屋外放し飼い卵」を使用していること、ホットティーはドイツの老舗会社のプレミアム・ティーバッグであること、ミネラルウォーターはスイス源泉のものなど数種類から選べるようにしていること、などだ。

卵に関しては動物保護の観点から、1991年より養鶏のケージ飼いがスイスでは禁止されている。そのため国産の、しかも「屋外放し飼い卵」を使えば当然さらなるコストアップとなるが、それもこの国の人々は納得済みだ。
値段が日本の数倍するスイスのマックで、そんなささやかな“贅沢さ”を感じてみたら、セットメニューが高級レストランのコースメニューにだんだん見えてくる……かもしれない。
文/小島瑞生
1998年~2009年までアイルランドで暮らした後、2009年からスイス在住。スイス始め欧州の国々のさまざまな興味深い情報を雑誌やウェブサイト、ラジオ等のメディアにて発信中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)」会員。







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