
「最有力候補」という言葉がある。
たとえば、この記事を執筆している時点で開催されているミラノ・コルティナオリンピックのスキージャンプの金メダル有力候補者は誰か? そうしたことが、連日ニュース番組のスポーツコーナーで報道される。これと同じように、キャッシュレス決済分野でもとある「最有力候補」が存在感を示している。
それは「顔認証システム」だ。
関東バスの実証実験
2月2日のことである。
都内荻窪駅南口を起点とする関東バス荻51系統(荻窪駅南口~シャレール荻窪)での実証実験が始まった。顔認証システムを使ったキャッシュレス決済乗車の実証実験だ。
東京都では、交通系ICカードをお持ちでない方や訪日外国人の方など、誰もが使いやすい公共交通の実現に向け検討を進めています。また、バス運行を支える運転士の確保も重要な課題となっており、運賃支払い時のお客様対応など、運転以外にも多くの業務が求められる運転士の負担軽減が求められています。こうした背景を踏まえ、東京都はバス事業者等と連携して、顔をかざすだけで運賃の「手ぶら決済」を可能にする顔認証キャッシュレス決済の導入実証を実施することとしました。
本実証では、通学・通勤や日常の生活移動などに使われているバス路線に、顔認証キャッシュレス決済を試験的に導入し、システムの有効性や利便性を検証して、本格導入に向けた課題整理を行い、バス事業者の導入検討につなげていきます。
(顔認証キャッシュレス決済の実証を路線バスで開始します! 都庁総合ホームページ)
利用者は、予め専用サイトに顔写真を含めた個人情報とクレジットカード情報を登録する。対応端末は運転席付近に設置され、利用者は乗車時に顔認証を実施する。あとは乗車運賃がクレカから自動的に引き落とされる仕組みだ。
顔認証システムは、今やあらゆる場面で導入されるようになっている。
病院や薬局でマイナンバーカードを使う場合、専用端末にカードを入れると暗証番号を入力するか、顔認証するかを選択する項目が出てくる。顔認証は、より簡単な方法だ。数字を押し間違えるなどということは絶対になく、最低限の動作で瞬時にマイナ保険証の情報を病院と共有することができる。
そして、精度自体も極めて高い。いや、「高くなっている」と表現するべきだ。
指紋認証から顔認証へ
ここで再び「最有力候補」の話に戻りたい。
「今後主流になっていく生体認証は何か?」という質問に対して、2010年代であれば多くの人が「指紋認証」と答えていただろう。実際、この時代のスマホやノートPCのハイエンドモデルは、指紋認証システムをこぞって搭載していた。また、技術的進化によりそれまで誤作動が少なくなかった指紋認証システムが、2010年代から信頼に値する生体認証になっていった。
が、それよりやや遅ればせながらも顔認証システムが台頭し、今や指紋認証システムに取って代わる存在にまでなった。「最有力候補」が入れ替わったのだ。
利用者が端末の筐体に触れることなく、即座に認証を済ませられる仕組みは公衆衛生の徹底が求められたCOVID-19パンデミックの時に大いに鍛えられたという事情も多分にあるだろう。いずれにせよ、2010年代と2020年代とではこうした面での状況が全く異なるのだ。
Suicaの「ウォークスルー改札」にも
JR東日本のSuicaの「大改造」として知られる『Suica Renaissance』。この取り組みの核は「ウォークスルー改札」である。
それまでの「タッチ&ゴー改札」に代わるものとして今後の導入を目指しているが、問題はどのような技術的方法でウォークスルー改札を実現させるかという点だ。今の時点で、JR東日本は顔認証システムによるウォークスルー改札の確立を目指している。
以下は2025年4月に配信されたプレスリリースである。
「Suica Renaissance」の推進に向けた取り組みとして、ウォークスルー改札の実現に向けた検討の一環として、きっぷや Suica を取り出すことなく簡単に改札を通過できるように顔認証改札機の実証実験を行います。今回の実証実験では2種類の顔認証改札機を導入します。
(「Suica Renaissance」実現に向け上越新幹線で顔認証改札機の実証実験を行います JR東日本)
上に書かれている「今回の実証実験」とは、2025年11月からJR新潟駅及び長岡駅に設置されているウォークスルー改札を指す。両駅を新幹線で移動する利用者を対象にした取り組みで、今現在は限定的な展開に留まっているが、それでも「Suicaの今後の姿」が随所に施されている。
このように、顔認証システムを活用したキャッシュレス乗車は我々の目前に登場しつつあるのだ。指紋認証よりも顔認証のほうが「よく見かけるもの」になりつつあるという、2010年代には考えられなかった光景が実現しかかっている。
実証実験は始まったばかり
もっとも、公共交通機関——特に路線バスでの顔認証システム乗車の取り組みは始まったばかりであることも考慮しなければならない。
乗り口にステップという名の段差が存在する路線バスで、顔認証機器は果たして最高のパフォーマンスを発揮してくれるのか。そうしたことを検証するための実証実験が、今後全国各地で行われるだろう。
過度な期待は禁物とはいえ、時代のつま先は確実に前を向いているのだ。
【参考】
顔認証キャッシュレス決済の実証を路線バスで開始します! 都庁総合ホームページ
「Suica Renaissance」実現に向け上越新幹線で顔認証改札機の実証実験を行います JR東日本
JR東日本 上越新幹線 長岡駅において顔認証改札機の実証実験が開始 パナソニックグループ
文/澤田真一
進化を続けるタッチ決済乗車の立役者「stera transit」は交通系ICカードを凌駕することができるのか?
三井住友カードHPよりhttps://www.smbc-card.com/camp/visa_transit/index.jsp 三井住友カードの公共交通機関向…







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