2月に行なわれた衆院選での自民党大勝や米株高を受けて日経平均株価も上昇。2026年2月10日には終値で史上最高値となる5万7650円54銭を記録した。これを受けて証券会社やアナリストの間では、2026年末の着地を6万円以上とする予測が広がっている。
そんな想定を超えた史上最高値の更新を続ける日本株だが、こうした「止まらない上げ相場」とどう付き合っていけば「後悔しない投資」ができるのか。
三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏から分析リポートが届いているので概要をお伝えする。
◎記事中の取引手法は将来の投資リターンを約束するものではありません。市場での為替や有価証券などの売買、投資信託の購入など取引は自己の判断と責任で行なってください。
1:「空前の株高」に沸く東京株式市場
高市自民党の解散総選挙での圧勝もあって「空前の株高」に沸く日本株だが、相場は常に売り材料と買い材料がせめぎ合う「絶妙の価格」で推移するため、例え儲かっていても時々刻々と変化する相場に気が気でないのが投資家の常だろう。
そして、日本株には強気なのだけれど、日々流される膨大な「上げ材料」と「下げ材料」の洪水に翻弄されて、どうしたら良いかわからなくなっている投資家も少なくないはずだ。
2025年の日本株の動向を振り返っても、日経平均株価は年間に約26.2%上昇、TOPIXは約22.4%、そして、電線株を含む非鉄金属株は100%を超える高パフォーマンスを記録した。
その一方で、
(1)昨年4月にはトランプ関税ショックにより市場は大幅な調整に見舞われ(図表1)、
(2)予想株価収益率(PER)は過去平均から上振れした「割高状態」が続き(図表2)、そして、
(3)世界の株高をけん引してきた米国のAI関連株についてはデータセンターへの過剰投資が問題視されるようになるなど、「売る理由」に事欠かない年であったのも事実で、手練れのプロ達でも頭を悩ませる難しい相場展開だった。


このため、「空前の株高」に乗り損ねてしまったり、上昇の初期段階で「やれやれの売り」を出してしまい、その後の相場急騰を目にして自責の念にさいなまれている投資家も少なくないだろう。
現在も「空前の株高」が続く日本株だが、こうした思うに任せない相場で「後悔しない投資」を続けていくには、どうしたらよいのか。
2:改めて考える、日本株の新値更新の意味
相場は市場参加者の多くが「高い高い」とうめきながら上がり、「安い安い」と言いながら下がることが少なくない。
というのも、相場は「これから起きること」を織り込みながら動く一方、多くの投資家(一部のプロを含む)は、経済紙などのメディアが報じる「過去に起きたこと」にフォーカスして売買している場合が殆どだからだ。
こうした相場への理解不足と誤ったアプローチが、多くの投資家とマーケットの「すれちがい」の背景にあるように思われる。

■「相場が正しい」という謙虚さ
たとえプロの投資家であっても、相場を読み切って上手に立ち回ることは稀で、相場が動いてからその背景やファクトに気づくことが少なくない。
昨年2025年を振り返っても、アナリストが企業の業績予想の上方修正を始め、実際に業績が改善し、予想外の好決算に市場が沸いたのは、マーケットが大きく上昇した後、ないしは、上げ相場の「おいしい時期」が過ぎた後だった(図表3)。

冒頭で紹介した「早めの利食い」や「貪欲さへの戒め」についての相場格言も、「相場は何が起きるかわからない」「私たちは将来についてほとんど知らない」「強気、弱気の相場観も過去の事実に依拠した思い込みに過ぎない」といった謙虚さを持つことの大切さを説くものと言えそうだ。
改めて日本株の「現在地」を確認すると、
(1)史上最高値を更新しながらレンジを切り上げる上昇相場で、
(2)高い株価評価が続き、
(3)強く明確な上昇トレンドが出現している
ように見受けられる。
このため、相場が発するサインに謙虚な気持ちで向き合うなら、現在の「止まらない上昇相場」は、
(1)私たちが気づいていない日本経済や日本企業の明るい未来を示唆しており、
(2)高いバリュエーションはまだ明らかになっていない買い材料をマーケットが織り込み始めているためで、
(3)明確な上昇トレンドが続いていることは市場の勢いの強さを示しており、
軽はずみな売りは「踏み上げ(売り方の買戻し)相場」で痛い目に合うかもしれない、と考えておいた方がいいだろう。
今、目の前にある価格やマーケットの動きを冷静に受け入れ、その背景について様々な「仮説」に考えを巡らす謙虚さこそが、賢明な投資姿勢と言えそうだ。
そして、日々のメディアを賑わすニュースは、将来を予見するためのヒントというよりは、そうした「仮説」の答え合わせの材料に過ぎないように思われる。
3:先物トレーダーに学ぶ「止まらない上げ相場」との付き合い方

最近の日本株の大幅上昇を受けても、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に代表される日本の機関投資家の多くは、目立った動きは見せていないように思われる。
仮に動いたとしても、大きく買ったり売ったりせず、せいぜい日本株のウエイトを調整するための「少額の売り」を出すぐらいではないか。
こうした「おっとりとした運用」を見ていると、「相場がこれだけ動いているのだから、もっと積極的に売買した方が良いのでは」と感じる相場好きは少なくないだろう。
こうした機関投資家と対極の動きを見せるのが、派手な売買で知られるヘッジファンド、特に、先物取引顧問業をルーツにもつCTA(Commodity Trading Advisor)だ。
■短期トレードで世界を駆け巡るCTA
CTAは祖業の商品先物にとどまらず、世界中の為替、株式先物、債券・金利先物など幅広い金融商品を投資対象に、統計モデルや複雑なアルゴリズムを駆使した定量的な運用(システムトレード)をアグレッシブに行なうことで知られる。
そんなCTAが採用するトレード戦略でもっとも一般的とされるのが、取引レンジが上下に突破されたときに生じる力強いトレンドに乗じて利益を上げる「ブレイクアウト&トレンドフォロー(BO&TF)」と呼ばれるトレーディング戦略だ。
最近の日本株の急速な上昇局面でも、こうしたCTAによるBO&TF戦略の活発な取引が報じられており、大きな利益を上げるとともに日本株の上昇相場を加速させた一つの要因と伝えられている。
このため、CTAは最近の日本株の「止まらない上昇相場」で活躍する、有力な投資主体の一つと言っていいのではないか。
そんなCTAの一般的な取引手法であるBO&TF戦略について、詳しく見ていきたい。
なお、こうした取引手法は将来の投資リターンを約束するものではない。市場での為替や有価証券などの売買、投資信託の購入といった取引は自己責任であることを改めて確認していただきたい。
■CTAの「投資哲学」と「トレード戦略」
CTAの投資戦略の特徴は、
(1)データ重視(感情ゼロ)、
(2)ルール厳守、
(3)リスク一定、
という3点に集約される。
CTAはその取引に当たっては、
(1)運用者の相場観や感情の一切を廃してデータに基づき投資対象を決定、
(2)あらかじめ決められたアルゴリズム・投資ルールに従って粛々と売買を行ない、
(3)ポートフォリオのリスクは一定に保たれるよう厳格に運用される。
CTAの多くが採用するBO&TF戦略では、
(1)投資先とエントリーポイントの決定、
(2)利食いポイントの設定、
(3)損切り(ストップロス)の設定、
(4)投資ポジションの決定、
(5)決済ポイントの変更、の順で進められていく。
まず、
(1)世界中の様々な投資市場の中から、値動き、出来高、流動性などから投資先を選ぶ。
例えば、短期の移動平均が長期の移動平均を上に突き抜けるゴールデンクロスが生じていて(図表4-1)、最近のトレーディングレンジを上に突き抜ける動き(チャネルブレイク)がみられ(図表4-2)、出来高が増加中であり、ポジションをとるのに十分な市場規模・流動性がある投資対象を選んでいく。


そして、(2)、(3)投資先の市場変動率(ボラティリティ)や新しく形成される取引レンジから利食いと損切りのポイントを決定する。
次に、(4)どれぐらいのポジションをとるか、投資資金のサイズとボラティリティの掛け算により求められる「リスクのサイズ」が他のポジションと同様になるように取引サイズを決定する。
さらに、(5)利食いや損切りに届かなくても資金効率を高めるために、(2)(3)よりも狭いレンジでポジションを解消するポイントを決める。
ちなみに、マーケットがトレンドに沿って大きく動いていった場合、(2)利食いや(3)損切りのポイントは、相場変動に合わせて動かしていくことになる。
■究極的には「1勝9敗でも勝つ」
こうした「ルールベースのトレーディング」を試したことがあるトレーダーは既に気づいているかもしれないが、BO&TF戦略をいざ実行に移すと、当初はどんどん「負け」が込んでいく。
これはBO&TF戦略の特徴で、ルールに従い日々の売買を繰り返していくと細かい損がどんどん積みあがっていく。
そして、時々訪れる大きな「トレンド」にしっかり乗りきり、大きなリターンを出すことで「トータルでプラス」となるのが、典型的なBO&TF戦略の「勝ちパターン」となる。
極論すると、トレードの勝率は2勝8敗、もっと言えば1勝9敗でも、長期的にプラスを確保するのがBO&TF戦略の目指すところになる。
一方で、デイトレのような短期売買を繰り返すトレーダーの中には、6勝4敗や7勝3敗といった比較的高い勝率にもかかわらず、トータルでの成績があまり芳しくない人もいるのではないか。
中には「ほとんどのトレードで買っている」にもかかわらず、トータルでは負けてしまう方もいるかもしれない。そんな人が決まって言うのは、「あの取引がなければ」という嘆き節だ。
ここまでの説明で察知している人もいるかもしれないが、こうした勝率の高い「7勝3敗」のトレーダーたちは、BO&TF戦略のトレーディング・システムと真逆の動きをしている。
つまり、小さな利益をたくさん積み上げていくのに、そうした利益を一気に吹き飛ばす「大きな失敗トレード」が投資成果を台無しにしているのだ。
ここ数年の世界の金融市場や商品先物市場を振り返ると、金のスポット価格は間違いなく主役の一つとすることができそうだ。
金価格は2023年8月まで3年以上も1600~2100ドルのレンジでの推移が続き、何度も「騙し(抜けそうで抜けずに元のレンジに戻ること)」を繰り返していた。
しかし、2024年3月に2,100ドルのレンジ上限を「ブレイクアウト」して力強い上昇トレンドが出現し、その後は押し目らしい押し目を作ることなく上昇を続け、2026年1月末には約2.7倍となる1トロイオンス当たり5595.47ドルまで上昇した(図表5)。

そして、BO&TF戦略を採用するCTAは、金価格が上昇を始める以前の約3年間にわたり、繰り返し「細かい損」を大量に出し続けた後に、強力な上昇トレンドが出現したことにより「破格の勝利」を勝ち取ったように思われる。
■CTAと機関投資家の共通点
これまで機関投資家とは対極ともいえるCTAの代表的な取引手法(BO&TF戦略)について見てきたが、意外にも両者には本質的な共通点があるようだ。
それは、両者の投資哲学ともいうべき部分で、
(1)相場観や運用者の感情は投資判断から排除され、
(2)あらかじめ決められたルールに従い粛々と投資判断がなされ、
(3)徹底したリスク管理で守りを固めて相場に留まり続ける、
ということだ(図表6)。

まるで、異なるルートから同じ山の頂を目指す登山隊のように、機関投資家とCTAは異なるアプローチをとりながら、同じマーケットでリターンの獲得を目指して日々活動しているように思われる。
そして、彼らの投資哲学から導かれる「止まらない上げ相場」との付き合い方のポイントは、短期の値動きやニュースに惑わされることなく、長期的な視点で腹落ちする投資手法に忠実に、長期的な視点で投資を続けることなのではないか。
まとめとして
日本株の上昇相場が続いている。激しい値動きと上昇ピッチの速さに戸惑う投資家も少なくないように思われるが、こうした「止まらない上げ相場」との付き合い方を考える時、CTAと呼ばれる投資ファンドの運用手法が参考になるかもしれない。
CTAは
(1)データ重視(感情ゼロ)、
(2)ルール厳守、
(3)リスク一定の投資方針のもと、
世界中の市場から力強いトレンドが出現している投資対象を見つけ出し、巧みなリスクコントロールで長期的にリターンを上げようとするファンドが多いようだ。
CTAの運用は一見すると、一般的な機関投資家とは対極にあるように見える。
しかし、感情に流されず、厳格なルールに従い、守りを固めて長期間にわたり相場に留まり続けることでリターンの獲得を目指す運用哲学・投資スタンスは、機関投資家と思いのほか共通点が多いと考えられる。
◎記事中の取引手法は将来の投資リターンを約束するものではありません。市場での為替や有価証券などの売買、投資信託の購入など取引は自己の判断と責任で行なってください。
構成/清水眞希







DIME MAGAZINE












