アイドルやキャラクターだけではない。いま“推し”の対象は思わぬ領域にまで広がっている。その一つが、政治家だ。今年2月に行われた衆議院選挙をきっかけに、自民党総裁・高市早苗氏を“推し”として応援する動き、通称「サナ活」が話題となった。SNSには「#サナちゃん」のハッシュタグが並び、街頭演説の現場ではお揃いのペンやバッグを手にする人の姿も見られた。
政治家が“推し”の対象になる時代。そこにはどのような心理があるのだろうか。推し活ビジネスアドバイザーの瀬町奈々美氏に話を聞いた。
推しとファンの違い

そもそも推しとは何なのか。従来の「ファン」や「支持」といった言葉と何が違うのだろうか。瀬町氏は、推し活の特徴として「精神的充足」の側面を挙げる。
「かつてのファン文化は、“好き”という気持ちを相手に届けることが中心でした。一方で推し活は、応援することによって自分自身の気持ちが満たされる側面が大きいとされています。実際に調査でも、推し活を自己投資の一種と捉える人が増えています。」
応援することが日常にハリをもたらし、生活をいきいきさせる。推しの存在は心の支えとなり、仕事や勉強のモチベーションにもつながる。それが現代の推し活の特徴だという。不況や将来不安が続くなかでも推し活市場が堅調とされる背景には、こうしたメンタルケア的な機能があるとみられる。推し活は単なる娯楽を超え、心の拠り所としての意味合いを強めているのだ。
なぜ高市氏は推しの対象になるのか

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では、数ある推し活対象の中で、なぜ高市氏が推される存在となったのか。瀬町氏はまず、「初の女性総理」という象徴性に注目する。
「若い世代は高度経済成長期やバブルを知らず、政治が劇的に変わる瞬間を体験していない世代でもあります。そんな中で“初の女性総理”というのは、分かりやすい変化の象徴なんです。何かが変わるかもしれない、という期待感が生まれやすいと考えられます。」
政治はしばしば難しく、遠いものと捉えられてきた。しかし「初の女性総理」という分かりやすいキーワードは、ニュースを一気に身近な物語へと変える力を持つ。
さらに、高市氏はSNSとの相性が良いという。
「若い世代のテレビ離れが囁かれる今、情報をSNSから得ている人が多いです。ショート動画やタイムラインは、数秒でスクロールされるか決まる世界です。高市さんのハッキリとした物言いは、立ち止まらせる力を持っています。」
一方で、韓国コスメを愛用していることを公言したり、ドラムを叩く姿を披露したりと、親近感を抱かせる一面も見せている。政治家としての芯の強さと、身近さを感じさせる人間味。そのギャップが、推したくなる魅力につながっているようだ。
「今の若い世代は、遠いスターよりも“少し手が届きそうな憧れ”に惹かれる傾向があります。共感できる部分がありつつ、自分より少し上にいる存在。それが理想的な推し像なんです」
サナ活=政策支持とは限らない
一方で、推しの対象としての高市氏と、政治家としての高市氏は必ずしもイコールではない。サナ活をしている人すべてが、政策を理解し、納得したうえで応援しているとは限らないのだ。
「実際のところ、政策まで見ていない層もいると思います。ただ、サナ活は政治に関わる“エントリーの段階”になっている側面があるのではないでしょうか。」
これまで若者の政治離れが指摘されてきたなかで、SNSを通じて政治の話題が共有されること自体が一つの変化だという。投票や政策理解に直結するかどうかは別として、まずは関心を持つ入り口として機能している可能性はある。
「ここ1、2年で、政治について話す若い人は確実に増えています。自分の投票や発信が変化の一部になるかもしれない、という感覚が生まれてきているのではないでしょうか。」
推しの対象は、いまやアイドルやキャラクターにとどまらない。応援の方法や熱量はそのままに、対象だけが広がっていく。「サナ活」は、そんな推し活文化の広がりを象徴する現象のひとつと言えそうだ。
今回話を伺ったのは

推し活ビジネスアドバイザー/瀬町奈々美さん
大学3年生の時に出版した『推し活経済 新しいマーケティングのかたち』がたちまち重版を記録。自身も10年以上、様々なジャンルの推し活を行う「推し活当事者」である経験をいかし立教大学経営学部国際経営学科を卒業後は推し活ビジネスアドバイザーとして、企業や個人向けにビジネスアドバイスを行う他、中学生から社会人まで幅広い世代に「推し」、「推し活経済」についての講演活動を勢力的に行う。2026年からは家政大学社会デザイン学環非常勤講師も務める。
取材・文/宮沢敬太
2025年10月、高市早苗氏が内閣総理大臣に就任し、日本初の女性首相が誕生した。これを受けて、主にSNS上で「サナ活」と呼ばれる現象が起きている。 高市氏の愛用…







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