受験期には、強いプレッシャーや長期的なストレスを背景に、心身の不調を訴える学生が少なくない。
「以前と同じように勉強をしているはずなのに、全く頭に入らない」「机に向かうことも苦痛になった」「全く食欲がわかない」――こうした心身からのSOSを出すという。
いわゆる「受験うつ」と呼ばれる状態だが、どのような病気なのか、心療内科医の田中奏多先生に話を聞いた。
よく耳にする「受験うつ」の正体
田中先生によると、「受験うつ」という言葉は広く使われているが、正式な医学用語ではなく、医学的には「適応障害」にや「うつ病」に該当することが多い。
「適応障害とは特定のストレスをきっかけに、心身に不調が生じ、生活や学業に支障が出る状態です。ストレス要因から離れると改善傾向にあるのが特徴です。ただし、〝気合いで乗り越えよう〟と無理を続けることで、うつ病に進行したり、この時期の辛い体験がトラウマとなり、長期的な不調につながったりするケースも稀にあります」
症状を感じた時の対処法は?

症状のひとつひとつは時間が経てば軽減することもあるが、複数の症状が重なり、日常生活に支障が出ることもあるため、早めの対策が望ましい。では、具体的にどういう症状が出てくるのだろうか。
「精神面の不調だと、集中力の低下や意欲・やる気の消失、〝自分はダメだ〟〝どうせ受からない〟のような、悲観的・否定的な思考を反復することも。ほか、好きなことにも関心が持てなくなる、不安感が強まることなどもあります。身体面では、不眠や週末にまとめて寝てしまうなどの過眠、生活リズムの乱れ、食欲の低下や過食、頭痛や腹痛、吐き気や肩こりなども現れます」
〝つらい〟〝しんどい〟と思う自分を否定せず、休みを体が必要としているのだと受け止め、まずは休息により、生活リズムを整えることが大切だ。
なぜ「受験うつ」になってしまうのか
「なぜ受験期に適応障害になってしまうかというと、主に3つの要素が大きく影響します。ひとつは過度なプレッシャーとストレスの蓄積です。〝合格しなければ!〟という強いストレスが数か月、数年と長く続くことで、脳のストレス処理機能が限界を超えてしまい、心身にダメージを与えます。
2つめは、生活リズムの乱れです。睡眠時間を削っての勉強、不規則な食事、運動不足などが、自律神経やホルモンバランスを乱します。
3つめは、社会的な孤立や、自己肯定感の低下です。友人と遊ぶ時間などが無くなり、勉強だけの生活が中心になると、気分転換をする機会や、周りからのサポートを得る機会が失われがちです」
そのような中、模試の結果などで思うような結果が出なかったり、周りとの比較をしたりすることが重なると、〝自分には価値がない〟といった偏った考えが浮かびかねないという。
まずは生活リズムを整えよう
「この3つの要素の中で、予防や症状改善のために強く意識してほしいのが、2つめの生活リズム。心の波は受験期には必ず起こります。自分でコントロールしにくい部分だからこそ、体のリズムを整えることが非常に重要です。特に〝睡眠〟は最優先。土日も含めて、起床時間を一定にし、夜更かしを避けること。そして、1日30分ほどの、ウォーキングや軽い運動も効果的です」
心の波を安定させるために、体の波を安定させることが欠かせないのだ。
そして、体調を整えたうえで、勉強から離れる〝オフの時間〟で脳のリフレッシュをすることも意識したい。また、家族や友人といった周りの人との関わりも失わないようにして、孤立しない環境を維持することも大切だ。
「何より大事なことは、受験生本人、そして周りの人も〝目の前の勉強、受験だけが人生ではない〟ということを前提に受験に向き合うことです。受験はゴールではなく、あくまで通過点のひとつに過ぎません。受験は大切ではありますが、周りの大人は、その受験の先に広がる長い人生に目を向けられるようにサポートをしてあげてほしい」
■サポートする大人が受け入れる言動を見せることも大切

受験生本人や周りの大人も、つい「この受験が人生を左右する!」と強いプレッシャーを感じてしまいがちだ。しかしその強い思いが知らず知らずのうちに、受験生を追い詰めてしまう。
「周りの大人がピリピリしていると、家庭全体が緊張して、家が安らげる場所ではなくなります。大人が自分の人生を楽しんでいる姿を見せることや、どんな道になっても、応援しているよという姿勢を言葉と態度の両方で示してあげることです。この条件付きではない応援が、大きな安心感に繋がり、心身共に安定して受験に臨めると思います」
不調が続くと、〝怠けているのでは〟と責めてしまう人もいるだろう。しかし、実際は症状として心身の限界を知らせるサインが届いているのだ。気合いで乗り越えようとせず、食事、睡眠、運動といった生活リズムを整えることを優先し、それでも改善が見られない場合は、専門家への相談も検討したい。
田中奏多医師プロフィール

心療内科医・産業医として、メンタルヘルスのプライマリケアを担うベスリクリニックを共同創設、「薬に頼りすぎない心の医療」を実践している。ハーバード大学のTMSコース修了後は、企業の健康経営支援、うつ病に対するTMS治療、休職者の復職支援などを幅広く手がける。著書に『眠る投資 ハーバードが教える世界最高の睡眠法』がある。
取材・文/田村菜津季
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