
「最後のフロンティア」は、言い換えれば「多くの人が享受しているインフラ整備がない」という意味でもある。
交通系ICカード分野における徳島県が、まさにそうだった。徳島県は去年まで「交通系ICカードが使えない唯一の地域」と言われていた。そのような状況が、今年3月17日から大きく変化する。徳島バスと徳島市交通局の全ての路線バスで、ICOCAを始めとする全国交通系ICカード(10カード)が利用できるようになるのだ。
それに加味して、徳島県以外の四国の県でも「地域交通系ICカードから全国交通系ICカードへ」という流れが活発になっている。全国交通系ICカードにとっての最後のフロンティアが、ここにあったのだ。
徳島市内でICOCAの体験会
2月9日、徳島市役所。
この日、徳島市交通局が主催するICOCA体験会が開催され、現地メディアもこれを取材している。体験会とは、要は地域住民に対する交通系ICカードの使い方説明会だ。全国交通系ICカードはおろか、非接触型決済カードなるものを使った経験のない人がここには多数いるのだ。
東京や大阪の住民が見たら、まるで異世界の光景のように思えるかもしれない。が、ここでは日本という国の中には依然として地域間のテクノロジー格差が存在し、当事者たる自治体や交通事業者もそれをしっかり認識しているという点を考慮するべきである。
公共交通のキャッシュレス化は、利用者に対して多大な利便性を与えると同時に事業者の負担軽減にも直結する。
たとえば、路線バス車内に設置されている現金収納機は永久に使えるものではない。決まった更新年月が設定され、それが訪れたタイミングで機器ごと刷新される。そのあたりは交通系ICカードの認識機器も同様だが、現金収納機の場合はカード認証機よりも遥かに高額だ。
100台単位の路線バス全ての現金収納機を取り替える。事業者にとっては極めて大きな負担で、それ故に国や自治体からの補助が欠かせない。もちろん、国にとっても機器更新は安く済んだほうがいい。補助金の財源は、我々が払う税金である。
なお、この話題については産経新聞の2025年11月13日付の記事が詳細に至るまで報道している。
全国で唯一、交通系ICカードでの乗車ができない「空白県」の徳島県で来春、利用が可能になる。ただ、利用できるのはバスのみで、鉄道は対象外のままだ。政府は10年前に、令和2年度までに全都道府県で交通系ICカードが相互利用できるようにする目標を掲げたが、設備投資も必要なことからなかなか進んでこなかった。一方でクレジットカードのタッチ決済を進める動きも広がる。全国どこでも鉄道を利用できる「統一規格」の実現は道が遠そうだ。
徳島バスと徳島バス南部、徳島市交通局は10月14日、徳島県内の路線バスにJR西日本の交通系ICカード「ICOCA(イコカ)」を導入すると発表した。時期は来年3月中旬を予定している。
徳島バスによると、導入される路線は徳島バスの51路線をはじめ3社局で計56路線で、対象となる車両は計187両。数年前から利用客の利便性向上のために検討を進め、足並みをそろえて導入することになったという。
ただ、県内の鉄道では使えないまま。JR四国は交通系ICカードを発行していない。イコカなどに対応する改札機がある駅も香川県内の一部だけだからだ。
(交通系ICの唯一の「空白県」解消へ 徳島で来春導入もバスのみ、進まない鉄道の統一規格 産経新聞)
ICい~カード平家物語
徳島県下の公共交通機関の「全国交通系ICカード対応」は、その理由の根本をたどると少子高齢化に行き着いてしまう。
少子高齢化とは、言い換えれば労働人口が極端に少なくなる社会の到来である。路線バスや鉄道の利用者数は、インバウンドに頼らない限り右肩下がりになっていく。無論、地元自治体の税収も減り続ける。補助金は縮小される一方だ。今の時代、地方の公共交通機関は廃線を避けるために様々な合理化・デジタル化を施す必要に迫られている。
これは、特定の地域でのみ利用できる「地域交通系ICカード」を積極的に導入していた四国地方の各地域にも当てはまることだ。
2025年9月30日、愛媛県松山市の伊予鉄グループ発行の『ICい~カード』が全てのサービスを終えた。このICい~カードは、2000年代には「地方都市のデジタル化の牽引役」として全国から注目を集めていた。
ICい~カードの利用を前提とした自動改札機が駅に設置され、松山市内のコンビニエンスストアや駐車場、自動販売機、さらにはタクシーもICい~カードによるキャッシュレス決済に対応した。市内各地にはチャージ機が設置され、これを使っていつでもカード内残高を増やすことができた。「交通系ICカードによる都市設計の合理化」に関して言えば、松山市が東京や大阪の先を行っていた時代が確かにあったのだ。
が、「特定の地域内のみで経済を循環させる」という発想は、少子高齢化が進んだ2020年代の今では過去の遺物となっている。また、地域外から来訪する人の需要を鑑みた時、全国交通系ICカードに対応していない都市設計はお世辞にも合理的とは言えない。
カード認識機の更新時期が近づいたタイミングで、それまでの地域交通系ICカードの存続を諦めて全国交通系ICカードの導入に踏み切る判断は、誰にも非難できるものではないはずだ。
地域交通系ICカードの行方
が、その一方で「転換の狭間」に立たされている地域交通系ICカードも。高知県の公共交通機関で利用できる『ですか』がそれだ。
ですかのシステム、関連機器の更新時期は2028年末。それを目途に、ですかのシステムから全国交通系ICカードのそれに切り替えることを検討しているのだ。では、それまで長く地域住民の暮らしを支え続けたですかは、ICい~カードのように退場してしまうのか?
この先のことは、まだ決まっていない。地元メディアのテレビ高知は、このように伝えている。
高知県で導入されていない、SuicaやICOCAなどの「交通系ICカード(10カード)」について、高知県内で本格的に導入が検討されることになり、利用者意見の募集が始まりました。
電車やバスなどの交通機関で使えるICカードについて、高知県内では2009年に地域独自ICカード「ですか」が導入されていますが、高知県内の公共交通機関でしか使えないため、県外から訪れた利用者から「全国で使える交通系ICカード」の導入を求める声が挙がっていました。
(中略)
高知県内ではこれまで費用の問題などから導入が見送られてきましたが、「株式会社ですか」によりますと、「10カード」を導入した場合の費用+15年間のランニングコストの合計額が、「ですか」を15年間運用するランニングコストとほぼ同じ程度だという試算が出ているということです。
また「10カード」の導入費用は従来の想定より抑制される見通しだということで、このタイミングで本格的に導入の検討を始めたということです。
(交通系IC「10カード」使えない高知、導入に向け本格検討へ Suica・ICOCAなぜ使えない?このタイミングで導入検討の理由は? テレビ高知)
システム更新に必要な具体的な予算、そして本当に全国交通系ICカードへの切り替えを実施するのか。その場合、ですかは存続するのかサービスを終了するのか。そうしたことは、これから順次発表されるだろう。なお、利用事業者で構成される「ですか協議会」は、1月にパブリックコメントの受付を行っている。
いずれにせよ、「最後のフロンティア」四国の公共交通は生まれ変わりの時期を迎えているのだ。
【参考】
交通系ICの唯一の「空白県」解消へ 徳島で来春導入もバスのみ、進まない鉄道の統一規格 産経新聞
ICOCA体験会を開催!~徳島市役所~ PR TIMES
交通系IC「10カード」使えない高知、導入に向け本格検討へ Suica・ICOCAなぜ使えない?このタイミングで導入検討の理由は? テレビ高知
文/澤田真一
進化を続けるタッチ決済乗車の立役者「stera transit」は交通系ICカードを凌駕することができるのか?
三井住友カードHPよりhttps://www.smbc-card.com/camp/visa_transit/index.jsp 三井住友カードの公共交通機関向…







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