
どのような分野にも、勝ち残る者と敗れ去る者が現れる。
今回の記事で解説するのは、コード決済サービス分野の「勝敗」の話である。この分野の勝者といえば、PayPay、楽天ペイ、d払い、au PAYといったところか。一方、これらの勢力に押されて戦場からの完全撤退を余儀なくされたサービスも。
2025年12月15日、ゆうちょ銀行は一つのプレスリリースを配信した。ゆうちょPayが2026年12月20日にサービスを終了する、という衝撃的な内容である。
日本全国の郵便局のネットワークを生かして多くのユーザーを獲得し、日本のキャッシュレス化を推進する……と思われていたゆうちょPay。このサービスの終了は、何を意味するのだろうか?
ゆうちょPay最大の武器「口座即時引き落とし機能」
郵便局は、地方に対する多大な影響力を持っている。
日本は火山島で形成された国で、しかも広大な海域にも離島を有している。我々の国は、世界的に見ても極めて稀な地形の只中に作られている。その中で、郵便局は平野部から山間部、島嶼部までカバーする一大ネットワークなのだ。
郵便局とゆうちょ銀行が独自のコード決済サービスを持つようになれば、全国各地にいるゆうちょ銀行の利用者がそのままゆうちょPayのユーザー数となるだろう。そうした見方があったことは事実だ。
ゆうちょPayの最大の持ち味は「口座即時引き落とし機能」である。
これは、紐付け先のゆうちょ銀行の口座からゆうちょPay利用分をその都度引き落とすというもので、使い勝手としてはデビットカードのそれに似ている。「チャージをする必要がない」というのがアピールポイントだった。
このアドバンテージは、しかしながらアドバンテージとして十分に機能を発揮できなかった可能性がある。ゆうちょPayのサービス終了を伝えるプレスリリースには、「終了の理由」としてこう書かれているからだ。
サービス開始当初に強みと考えていた「口座即時引き落とし機能」など銀行が提供するサービスとしての特色を十分に活かすことができず、お客さまのご利用状況に鑑み、終了することといたしました。
(スマホ決済サービス「ゆうちょPay」の終了のお知らせ ゆうちょ銀行)
たった一文とはいえ、このような分析をプレスリリースに掲載している例はあまり多くないはずだ。
ここで第三者の視点を持ち出すとしたら、ゆうちょPayは「他社のクレカ攻勢」の影響力を見誤っていた可能性が浮上する。
「同じ発行会社のクレカを複数枚持っている」ことが当たり前の時代
筆者は普段、PayPayを使っている。
PayPayは『PayPayカード』という、独自のクレジットカードを用意している。これとアプリを紐付ければ、コード決済の利用分がそのままカードの利用可能額から引き落とされる。ポイント付与やキャンペーンでの優遇も用意され、さらに1枚だけでなく2枚目以降の発行も可能。その手続きはスマホ操作で完結できる。
「カードを何枚も持っている」と言うと、特に高齢者からは怪訝な目で見られてしまうかもしれない。というのも、日本では長らく「クレカを何枚も持っている人=多重債務を抱えている人」というイメージを持たれていたからだ。このあたり、欧米とは個人向け金融サービスの在り方の違いがよく出ている。
しかし、現代は日本でも「クレカが作りやすい環境」が整備されるようになった。PayPayカードの場合、Visa、MasterCard、JCBのそれぞれ1枚ずつ、さらにPayPayカード ゴールド1枚を加えた合計4枚までの発行に対応している。これは発行会社が「どんどんクレカを作ってくれ」と言っているに等しい。
私事で恐縮だが、先日筆者の母が人生で初めて自分のクレカを作った。これもPayPayカードである。母の収入源はパートと年金。それでもクレカの審査に落ちなかったことに、母は驚いていた。
それ以上に、「クレカの申込みってこんなに簡単なんだ!?」と母は驚愕している。
ゆうちょPayに足りなかったのは何か?
マイナンバーカードというものが登場し、それをきっかけにより安全性の高いeKYC(オンライン本人確認)が随所に実装されるようになった。
クレカ申込の場合、マイナンバーカードを使ったeKYCを取り入れたことで申込の手順だけでなく、審査も迅速化するようになった。PayPayを始めとするコード決済サービスは、自社発行のクレカと組み合わせた新サービスを続々と企画し、またクレカ自体をよりポピュラーな商品にした。
ゆうちょ銀行には、自社発行のクレカがない……というわけでは全くない。『JP BANK カード』というクレカが存在し、このカードの入会キャンペーンをキャッシュバック特典付きで実施していたりもする。が、クレカとコード決済サービスの機能の一部を共通化することで、より複合的な使い方を可能にする金融プラットフォームとしての機能が希薄だったと言わざるを得ない。「ゆうちょ銀行の口座から即時引き落とし」にこだわり続けたゆうちょPayは、それ故に他サービスに比べて地味な印象がつきまとい、そこからついに脱却できなかったのだ。
アプリ自体の終了は2027年以降
サービス終了を発表したゆうちょPayのアプリは、2027年以降に利用履歴の閲覧等ができなくなるという。これはアプリの利用停止を意味する。
冒頭に書いた2026年12月20日というのは、ゆうちょPayの決済機能が使えなくなる日である。なお、新規登録もこの日に打ち切られるスケジュールだ。
一つの大きな星が、空の彼方に去ろうとしている。この星が我々の暮らしにどのような発展を与えてきたのか。それを今一度考察し直す必要がある。
【参考】
スマホ決済サービス「ゆうちょPay」の終了のお知らせ ゆうちょ銀行
文/澤田真一
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