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実はゴッホも!転身、遠回りから生まれた画家たちの不思議な人生

2026.02.20

「画家」と聞くと、幼い頃から絵に親しみ、美術学校で専門教育を受け、若いうちから頭角を現した人物をイメージする人も多いだろう。

もしくは幼い頃に周りからその才覚を見出されて引き立てられる人物を思い浮かべる人もいるかもしれない。

しかし、美術史を見てみると、そのような“理想的な” 経歴とは異なる人生を歩んだ画家たちが少なからずいたことに気が付く。

他の職業を経てから筆を取った人、社会の中で迷い続けた末に制作へ向かった人、あるいは高齢になってから創作を始めた人。そうした遠回りが忘れがたい代表作を生み出すことに繋がった画家は意外と多いのだ。

今回はそんな画家たちからフォーヴィスムの画家モーリス・ド・ヴラマンク、ポスト印象派のフィンセント・ファン・ゴッホ、そしてナイーブ・アートのグランマ・モーゼスという三人を取り上げて紹介してみたい。

遠回りの人生だからこそ生まれた、燃えるような絵たち-モーリス・ド・ヴラマンクー

モーリス・ド・ヴラマンク(1876–1958)は、マティスやドランとともにフォーヴィスム(野獣派)を代表する画家だ。鮮烈な原色と荒々しい筆致は、「野獣」と評された当時の批評を象徴するものだった。フランス、イル=ド=フランス地域圏に位置するブージヴァルの木々を描いた代表作《赤い木のある風景》でも、目に映るままの自然を再現したというより感情の爆発に近い画面が広がっている。

そんなヴラマンクだが、彼は最初から画家を志していたわけではない。若い頃は自転車競技の選手として活動し十分に家族を養えるだけの収入を得ていた。しかし、病気が原因でその道を断念することになり、その後は弦楽器奏者としても活動している。その頃に出会った人物の影響で絵筆を握ると、それまでの人生を通じて培われた運動感覚や音楽感覚が今度は色彩のエネルギーとして絵の中に流れ込んだ。

ヴラマンクの転身は、画家としての出発点が必ずしも美術教育である必要はないことを教えてくれる。異分野での経験が、思いがけず新しい絵画を生み出すこともあるのだ。

わずか10年間で生み出された名作たち-フィンセント・ファン・ゴッホ-

フィンセント・ファン・ゴッホ(1853–1890)は、世界で最も有名な画家の一人だ。しかし画家として活動したのは晩年の約10年間にすぎない。それ以前のゴッホは、牧師や画商として働きながら社会の中で自分の居場所を探し続けていたが、その期間は挫折や孤独との戦いの辛い期間だったようだ。1888年、南フランスのアルルで描かれた《夜のカフェテラス》は、そんな彼の人生の転機を象徴する作品である。鮮やかな黄色の光に包まれている夜の街角にあるカフェが描かれているこの作品、実は夜の光景にも関わらず黒色がほとんど使われていないという。これまで夜空と言えば黒か灰色でしか描かれなかった西洋絵画において、夜こそ色彩が溢れていることに気づき、夜空を群青で描いたこの作品は当時としても斬新な表現であり、見る人に衝撃を与えたそうだ。

彼自身にとって遠回りの時間は必ずしも幸せなのではなく、不本意なものだったかもしれない。一方でそうした遠回りの人生、孤独や葛藤の時間があったからこそ、その筆致には切実さが宿っているようにも思える。もし彼が順風満帆に画家として育っていたら、これほどまでに強い感動を呼ぶ作品が出来ていただろうか。

 なお、この《夜のカフェテラス》を始めとする約60作品のゴッホの作品が来日する『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』が2025年の神戸を皮切りに、2026年も福島、東京の会場を巡回し開催される予定だ。

70代からが画家としての人生の始まり-グランマ・モーゼスー

グランマ・モーゼス(1860–1961)は、アメリカのナイーブ・アートを代表する画家である。彼女が本格的に絵を始めたのはなんと70代。娘から孫のための刺繡絵の作成を依頼されたことがきっかけだった。その後、リウマチで細かい作業ができなくなったことを契機にリハビリを兼ねて絵画の制作に転向している。

代表作《Sugaring Off》では、雪景色の中でメープルシロップ作りに励む人々の姿が、温かな視線で描かれている。《The Rainbow》は彼女が完成させた最後の作品であるが、農場の暮らしを写したこの作品中には、自然のリズムに則った人生を謳歌している大人や子ども、動物の姿をはじめ、彼女が愛した数々のテーマが凝縮されている。ちなみに作品が描かれたのは彼女が101歳の時だ。テクニックの点で必ずしも秀逸なものはないかもしれないが、長い人生を生きた彼女だからこそ持っている角の取れた温かさが彼女の作品にはある。80代以降に本格的な評価を受け、国際的な名声を得た彼女の歩みは、「今からでは遅い」という思い込みを軽やかに覆す。

画家になるために必要はものとは何か

ヴラマンク、ゴッホ、グランマ・モーゼス。三人に共通するのは、最初から画家としての人生を歩んでいたわけではないという事実である。スポーツや音楽の経験、社会での挫折、長い家庭生活。それらが、巡り巡って画家としての人生へと結実している。そもそも人生は直線ではなく回り道や転身の連続である。その遠回りの時間が、やがて自分にしか描けない色や線へと変わることがある。画家とは、そうした遠回りの時間ですら描くことに結びつけることができた人たちなのだと思う。

【大ゴッホ展 夜のカフェテラス】の概要

<プロフィール>
Wataru KOUCHI
東京在住の美術ライター。2025年にアートナビゲーター(美術検定1級)の資格取得。中学生の時に美術の資料集で目にしたルネ・マグリットの作品を見て美術の世界に興味を持つ。それ以来、国内外の美術館、国際芸術祭を訪問するようになる。好きな作家はルネ・マグリットのほか、レアンドロ・エルリッヒなど。このコラムでは開催中・開催予定の芸術祭、企画展、常設展の紹介の他、社会人として押さえておきたい使える美術の基礎知識を紹介。

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