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物価高なのに「余裕の人」と「限界の人」が同時に生まれるのはなぜ? K字型経済の正体を探る

2026.02.16

インフレが続く日本では、家計の悲鳴が聞こえる一方で高級店が賑わい、株式市場は活況を呈しています。なぜ同じ国で「余裕な人」と「限界な人」が同時に存在するのでしょうか。

その理由は、景気回復が上向きと下向きの二手に分かれるK字型経済にあります。物価高というショックが社会全体に均等に作用するわけではなく、賃金や資産、交渉力の差によって恩恵と負担が偏っています。

今回は、二極化のメカニズムを解き明かし、個人が取るべき現実的な対策を考えます。

K字型経済とは何か

K字型経済とは、景気の回復・拡大が一部の層にとっては右肩上がりに働き、他の層には右肩下がりに働く現象を指します。つまり、K字型経済は高所得者層と低所得者層の格差が極端に広がる状況を表し、「株式や住宅などの資産価格の高騰で豊かになる層」と「インフレの直撃を受けてじり貧になる層」が同時に存在すると説明されています。

この概念を提唱した米国のピーター・アトウォーター教授によれば、富裕層は何でも手に入る一方、低所得者層は食費や医療、教育すら満足に確保できず、日々の生活に追われています。日本でも同じ二極化が進行しており、物価高がその格差をさらに拡大しています。

K字型経済が強まった背景

この概念が注目されるようになったのは、新型コロナウイルス禍による経済の急減速と、その後の回復過程で格差が拡大したことがきっかけです。アトウォーター教授は、パンデミック時に在宅勤務や金融資産保有者は生活を維持できた一方、サービス業や現場労働者は収入を失い、教育や医療など必要な資源へのアクセスも限られたと述べています。

日本では2012年以降のアベノミクスに伴う金融緩和と円安政策が企業の利益や株価を押し上げましたが、実質賃金は伸び悩んだため、家計との格差が拡大しました。2021年以降は世界的な供給制約とエネルギー価格高騰が重なり、インフレが加速してK字型経済が鮮明になりました。

物価高がもたらす二極化のメカニズム

■インフレは一様ではなく「K字」に作用する

円安やエネルギー価格高騰によるインフレは、企業と家計に異なる効果をもたらします。事実、円安局面で企業の売上高経常利益率が伸びた一方、実質賃金が低迷して格差が拡大したことが多数のメディアで指摘されています。物価上昇率が賃金の伸びを上回るため、2025年の実質賃金は前年比1.3%減となり4年連続のマイナスであり、生活者は「賃上げを実感できない」状況にあるのです。

資産を持つ層の恩恵

インフレは資産価格を押し上げるため、金融資産や不動産を持つ人々は恩恵を受けます。例えば日経平均株価は2025年8月に4万2786円97銭と史上最高値を更新し、日銀の資金循環統計によれば同年9月末の家計金融資産残高は2286兆円に達しました。株式等は前年同期比19.3%増、投資信託は21.1%増と伸び、現金・預金比率は49.1%に低下しています。株高や投資信託の値上がりが資産を持つ層の富を拡大する一方、資産を持たない層は取り残されやすい状況です。

賃金が上がる人・価格を転嫁できる企業

物価高の影響を受けても賃金を引き上げられる人や、コスト上昇分を価格に転嫁できる企業は相対的に余裕があります。大企業や人手不足の業界では春闘による高水準の賃上げが続き、伊藤忠総研は2026年春闘でも高い賃上げ率を見込んでいます。

一方、中小企業庁の調査によると全体の価格転嫁率は53.5%にとどまり、原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%と半分近くは企業が吸収しています。ブランド力のある企業は値上げを受け入れてもらえますが、競争が激しい中小企業では利益を圧縮し、賃上げが難しい状況です。

伊藤忠総研によれば、労働組合は5~6%の賃上げを要求しており、人手不足業界では賃上げが物価を上回る可能性があります。価格転嫁では労務費の転嫁率が初めて50%に到達しましたが、それでもコストの半分は企業が負担しています。

収入が伸びない層の苦境

一方、賃金が伸びない層や価格を転嫁できない中小企業は厳しい状況に置かれています。2025年の実質賃金は前年から1.3%減少し、非正規雇用が多いサービス業や飲食業では賃上げが遅れがちで生活コストが直撃しています。

東京商工リサーチによると2025年の企業倒産件数は1万261件と12年ぶりに1万件を超え、コスト高を転嫁できない「物価高倒産」が949件で過去最多となりました。休廃業・解散も約6万8000件に上り、飲食店など小規模企業の倒産が雇用を直撃しています。

経済的に余裕な人と限界な人の特徴

余裕な人の特徴としては、大企業や人手不足業界で働いており賃上げの恩恵を受けやすく、株式・不動産・投資信託などの資産を保有しています。また、ブランド力や市場支配力によって価格転嫁が可能で、余裕を持って消費や投資ができる生活実感を持っています。

一方、限界な人の特徴は、非正規雇用や低賃金労働に従事しており、保有資産は現金預金が中心です。競争が激しい環境で価格転嫁が難しく、食費・光熱費の上昇が生活を直撃しています。

コロナ禍に供与されたゼロゼロ融資の返済開始も資金繰りを圧迫し、黒字でも事業継続を断念する企業が増えています。

個人が取るべき現実的な対応策

1. 所得源の多角化とスキル向上

インフレに打ち勝つには、賃上げ余地の大きい業界や人手不足の業種に挑戦し、資格取得やリスキリングで交渉力を高めることが重要です。副業やフリーランスで収入源を増やすのも有効な手段です。

2. 家計の防衛と資産形成

生活防衛と並行して資産形成にも目を向けましょう。家計簿アプリやポイント還元で支出を見直し、省エネや通信費の見直しで固定費を削減します。そのうえで、つみたてNISAやiDeCoを利用して株式・投資信託へ積み立てることで、資産をインフレに強くすることができます。現預金だけでは実質的に目減りするため、リスクを管理しながら運用する姿勢が必要です。

3. 生活コストの抑制と賢い消費

物価高の波を受け流すには、生活コストの抑制と賢い消費が欠かせません。省エネ家電への投資や断熱リフォーム、まとめ買いなどで光熱費や食費を抑え、ポイント還元やセール期間を活用して買い物をします。賢い消費は家計を守り、企業への値上げ抑制にもつながります。

4. 自らの価格交渉力を高める

K字型経済の分岐点は交渉力の有無です。フリーランスや中小企業経営者は同業他社の価格や需給状況を調べ、原材料や人件費の高騰分を適切に転嫁できるよう客観的な根拠を示して交渉する必要があります。中小企業庁の調査でも転嫁率が5割程度に留まっており、交渉力不足が倒産リスクにつながっています。

K字型経済を乗り越えるために

物価高の中で「余裕な人」と「限界な人」が生まれるのは、所得・資産・交渉力の違いがK字型経済として顕在化しているからです。円安や株高は企業と富裕層を潤す一方、実質賃金の低迷と価格転嫁の遅れは多くの家庭や中小企業を追い詰め、物価高倒産が過去最多を更新しています。

この構造を変えるには、企業が持続的な賃上げと適切な価格転嫁を進めて家計への分配を強化するとともに、個人がスキルと資産形成でインフレに備える必要があります。教育や職業訓練への投資と中小企業への支援を通じて格差拡大を抑え、誰もが物価高を乗り越えられる環境を整えることが日本の課題です。

今後も物価動向や労使交渉の結果を注視し、家計と企業の両方が持続的に成長できる仕組み作りが求められます。国際的には社会保障の再構築や再分配政策が議論されており、日本も中長期的な視点で格差是正に取り組むことが欠かせません。

著者名/ 鈴木林太郎 経済ライター
テックと経済の“交差点”を主戦場に、フィンテック、Web3、決済、越境EC、地域通貨などの実務に効くテーマをやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で“今日使える知識”に翻訳します

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