「普通の生活がすごく楽しい」。バルセロナでの充実の日々
直後に家族全員で旅立ち、異国での新生活が始まったが、最初はコミュニケーションや習慣・文化などで戸惑うことばかり。現地で協力してくれる人々の助けも借りながら、みんなで1つ1つクリアしていったようだ。
「自分は指導者を目指すと決意してスペイン渡ったので、まず言葉を覚えることが重要ですよね。最初は家のある町周辺の語学学校を探したんですが、そのエリアにはなかなかスペイン語を学ぶ人がいなくて、学校探しが難航しました。そこでマンツーマン指導してくれる講師の人を見つけて1日・1時間半通うことになったんです。ただ、それだけでは上達ペースが上がらず、限界があった。そこで新学期の9月から入れる学校を探して、通うことにしたんです」と本人は言う。
学校の場所はバルセロナ中心部で、自宅からは片道1時間15分程度かかる。大久保はそこに路線バスで通うことにした。国見高校時代、18~39歳までのプロサッカー選手時代を含め、公共交通機関で通学するという経験はほぼ皆無だったが、あえてそれを選んだのだ。
「車で行けば20分の距離で、時間は短縮できるんですが、路線バスから看板を見たり、車内で話している人たちの会話を聞いたりするのも勉強になるなと思って、あえてバスを選んだんです。朝晩は渋滞もひどいし、予想外に時間がかかることもありますけど、普通の生活がすごく楽しい。
日本にいた頃は、電車やバスに乗っていたら『大久保嘉人さんですよね』と声をかけられたり、『サインをください』と言われたりすることが多かったけど、こっちでは僕のことを誰も知らない。それが心地いいですよ」と本人は笑顔を見せていた。
4カ月で4カテゴリーアップ。トップアスリートの集中力を発揮
語学学校は平日の4時間。レベル別授業となっており、A1→A2→B1→B2→C1→C2と難易度が上がっていく。大久保もA1からスタートしたが、彼の場合は幸いにして20年前のマジョルカ時代にクラブの指示で毎日レッスンをしていたため、ベーシックな単語や文法が頭に入っていたのである。
「A1は小学校1年生くらいのレベルで、2人1組で会話したり、間違っているところを直し合うような感じだったんですけど、割とすんなり頭に入ってきましたね。4カ月が経過しましたけど、1つ1つテストをクリアして、今はB1の最後まで来ている。同じ学校に通っている長男よりも先に昇級できてますよ(笑)。
今はバルやレストランで注文したり、買い物に行ったりするのは全く問題ないですね。通学バスの中でも頭の中で文章を作ったり、それを小さい声で発音しながら自主的にレッスンしています。ここまで勉強に熱が入っているのは人生で初めて。物凄くやりがいがありますね」と彼は目を輝かせる。
順調にいけば、数年後には監督・大久保嘉人が見られる?
その傍らでサッカーにも触れている。2025年9月からアルビレックス新潟バルセロナのクラブダイレクターに就任した大久保は定期的にチームに顔を出し、選手たちのプレーを見たり、レベルを確認したりしている。今後は経営面にも積極的に乗り出していく構えだ。そして週末は息子たちのサッカーにも出向き、応援に勤しんでいる。自身がプレーする機会はほぼないようだが、語学学校卒業後にはたら、指導者ライセンス取得に本腰を入れるつもりだという。
「スペインと日本では、指導者ライセンスの制度設計に違いがあります。スペインでは、選手時代のキャリアなどの一定の条件を満たせば比較的早い段階から上位ライセンスに挑戦できる仕組みが整っていますが、日本では実績があっても段階的に取得しなければいけない。時間をかけて積み上げていくのが一般的なスタイルです。
その制度面に関しては、現地の関係者の話を聞きながら、理解を深めてきました。言語のハードルを越えられれば、指導の勉強を迅速に進められる可能性があるんです。
だからこそ今は、最優先事項としてスペイン語のレベルアップに努めています。次への準備期間を大事にしたいですね」と彼は力を込める。
トップアスリートならではの高度な集中力でスペイン語を習得しつつある大久保。このまま順調にいけば、数年後にはプロチームの監督になっている可能性もある。それがスペインなのか、日本なのか、他の国なのかは分からないが、大久保嘉人監督が采配を振るう姿が現実になるかもしれないのだ。







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